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「眠ってしまったみたいだね」
紅闇の声が聞こえる。
目を開け身体を動かせば「ああ、起こしてしまったか。悪かったね」と労わる声が掛けられる。
身体を起こし、周りを見れば部屋には紅闇のみがおり、千歳や先ほどいた狼の一族の者も濃い葡萄色の髪の男性の姿も見えなかった。
「気分はどうだい?辛いようなら今日はこのまま帰って明日続きをやろう」
そう言われ改めて自分の状態を確認する。
先ほど目が覚めた時よりずいぶん楽になっている。
「いま全力で走れと言われれば無理ですが、座学や軽い運動などであれば問題ないと思います。」
翔太の答えに紅闇は翔太に向けていた視線を何かを考えるように上に向ける。
「では、これから狼の一族の者と到着した鳥の一族の者と顔を会わすけれどいいかい?
それで挨拶を交わして、明日以降の出入りが楽になるようにしよう。
その上で問題がなければ、使う道具の選定だけしてしまおう。
そうすれば今日のうちに明日の準備ができるからね。
ああ、その前に食欲はあるかい?
千歳と天音はいま隣の部屋を借りて食事をしているんだが、あちらに行くかこちらで軽く摂ってしまうか…
できれば食事を摂った方が回復にもいいが、あまり食欲がないようであれば回復によい飲み物だけでもこちらで飲んで彼女たちの食事終わりに合流すればよい」
言われれば軽く腹が空いている気がする。がいま彼女たちの心配に対して気を使いながら会話するだけの余裕もないのと…
「できればこちらで軽く頂けるとありがたいです。
あと、可能であれば今寝ている間に夢で蛇の主神のことを見たので話を伺うことはできないでしょうか?」
「ああ、いいよ。
そうだね、その話をするならこちらで2人で話したほうがいいだろう。
ではいま食事を取ってくるから待っていて」
軽くそう答え紅闇は部屋を出ていく。
ずっと思っていた神と言う存在は鳥の主神のような存在だったので紅闇の柔軟さは本当ありがたいと思う。それにだ…。
…朝の会話で蛇の主神への気持ちを聞いたのも大きいだろう。
昨日感じていた上司とのやり取りのような身構える気持ちが薄れている。
そんなことを考えていれば、本当にすぐに戻ってきた紅闇はベッドから少し離れたテーブルの上に竹のような植物で作られた重箱を並べていく。
翔太も起き上がりテーブルに向かえば「茶はどれがいい?」と重箱に並べられた茶を見せられる。
一つ貰うと席に座るよう促され、重箱を渡される。
「千歳が色々厨房に頼んで作って貰っていた物の中で翔太朗が好きだった物を貰って来た。
彼は身体が弱くて消化のいい物を好んでいたようだから今の翔太にもちょうどいいだろう。
食事をしながら夢や蛇の主神の話をしよう」
重箱には小さめに握られた握り飯や器に入った汁物に山菜の和え物や豆腐のあんかけに魚の焼き身などといった確かに重くない和食が詰められている。
「ありがとうございます。頂きます。」
どこまでも病人を気遣っている味付けで、翔太朗という人物が周りからどれだけ愛されていたのかが料理全体から感じられる。
話を。と思うがあの話をしながら食事を…と思うと箸が止まりそうになり、そんな翔太に紅闇が「言いにくい話?」と軽く聞いてくる。
「言いにくいというか…。祭事というものがどれだけ大きい事かや起こった事柄に頭や感情がまだついて行っていないのと、惨状が…生々しくて…
食事中に思い出しながら話すのが少し難しいと思ってどう話すか考えていました」
そう話す翔太に紅闇は「ああ」と頷く。そのまま翔太は続けた。
「祭事は芸事で争うと聞いては居ても、人の命があれほど関わるものだとは思っていなかったんです。
渋谷などから人が消えたことでとんでもないことが起こるとわかっていても僕らが還すことで被害が軽くなるという認識があったもので…
その世界が火の海になるというのも物語のように感じていて…」
話していて口の中がすごい勢いで乾いていくのを分かる。
確認しないとこれからに問題があると思う。だが、この先を話すのも肯定されるのも怖くも感じる。
「…フランス革命前後辺りからヨーロッパ全土で起こった様々な事柄はその後世界中に影響していて、その煽りもあって日本にも…というか日本が本命なら…その…
幕末の流れも蛇の主神が世界を動かしたことで起こったことなのかや…
その後も起きた様々なことまでも祭事が原因だったんじゃないかと…」
そう話した翔太を伺うように紅闇は眺めている。
翔太がそこまで話し、その後言葉が続かない姿を見て少し考えるようにして彼は翔太に話し出した。
「そもそも祭事とは地の球を維持するのに必要なことでね。
真ん中にある中津国の調整の為に行われているんだ。
ただ調整だけだと芸がないのでどうせであれば芸事の力比べという側面を持ち、そちらが今では本命のようになっているが人が作る穢れなどを払うことが本来の目的でね。
だからある程度は犠牲が出ることはこちら側にとっては当たり前という感覚ではある。」
その言葉に胃の中が暴れだし、また胃酸が逆流しそうになるのを茶を飲んで紛らわす。
そんな翔太を視界の端に映し、重箱から同じ茶ともう一つ茶わんを出してくれる。
「こっちは薬湯だから先に飲むといい。話を続けるが…
前回については祭事の調整の域をかなり超えてしまっていてね。
本来であれば何か所か穢れが酷くなっていた地域を中心に行う予定だった筈なんだ。
…それが神子が喰われたことでたがが外れた蛇の主神や蛇の一族が穢れを使い、規模を何倍にもした儀式が行われ…
それらは心に不平不満をため込んだ人を大規模に魅了していった。
そしてたくさんの贄を使い、よりそういったモノに魅せられる人々を増やして…。
結果革命が起き、奪われた者や逃げ延びた者たちにも彼らが別に紡いだ物語に魅了された人が混じっていてね。
今度は別の国でその者たちが暗躍し、最終的に目的の天音の居た国まで進んだんだけどね…」
何とも言えない顔をして紅闇が翔太に視線を移し続ける。




