-22-
下からの呼びかけに天音と顔を会わせ階段の方によれば、千歳が両手の上げクロスするかのように大きく振ってこちらを見ている。
「おはようさんなのじゃ!
今日の朝餉は翔太朗の好物だったやつなのじゃよ!早く2人とも降りて来るのじゃ」
昨日の項垂れた千歳からは想像もできないくらい元気な様子に、安堵と反省はしたのか?という疑問を持ちつつ、天音と共に階段を下りていく。
「今から朝餉って大丈夫?」と天音に声をかければ「甘いものは別腹なので行けます」といい笑顔で返事が返ってきた。朝から丈夫な胃袋がうらやましい。
下に降りれば、昨日よりも少しかしこまったように見えるクリーム色を主体にした麻柄の着物の生地で作った制服のような服を着た紅闇が2人を迎えてくれる。
「ああ、2人ともおはよう。よく眠れたかい?」
「おはようございます。よく眠れました。」
「おはようございます。ぐっすり寝れました。」
そう答える2人に軽く今日の予定を紅闇が話していく。
「今日だけど、昼前には狼の一族が管理している駐屯所に行くよ。
そこで能力の確認と使い方についての説明になる。
その前に昨日話せなかった部分の話をしようと思うけどいいかな?」
「「はい」」
2人は重なり合うように答えると紅闇は笑顔で頷き、テーブルで先に座り嬉しそうに「早く来るのじゃ」と呼んでいる千歳に促されて3人はテーブルに着く。
「この朝餉は翔太の前、翔太朗の好物だったそうなんだけど、味覚が変わっている可能性もあるから口に合わなかったら言ってね。
確か翔太朗が千歳と一緒に居たのは4歳から18歳ぐらいだったと思うし、大人と子どもの舌では好みも変わるからね」
その言葉に驚く千歳
「そうなのかえ?」
「そうだね。あと翔太朗と翔太は生まれた時代が違うから、そもそも食べているものが異なる部分も多い。
だから口に合わなくなったり、口にしたことがないものもあるだろうからすべて一緒だと思ってはいけないよ」
そう言われ、驚き「そうなのかえ。」と小さく呟く千歳。
どう答えるのがいいかと考えていれば、「ではこれからまた覚えればいいのじゃな」と嬉しそうに言っている千歳の笑顔に天音が「尊い」と悶えている。
なんというか天音も安定運転というかブレないなと会って2日目でそんな風に思う。
テーブルの上には純和というのにふさわしい、粥と鯛の焼き身に卵焼き、味噌汁に香の物、焼き海苔に番茶という料亭で出てきそうなメニューが並んでいる。
「朝から豪華ですね」
思わず声に出た翔太に紅闇が答える。
「翔太朗はそなたらの国の名で紀伊の国だったかな?
そこのかなり裕福な下級武士の家の子だったようだから、食生活もその時代で考えてもかなり豊かだったとは思うよ」
「紀伊の国…」
「そう、天音も同じだったかな。
で、そこの上の階級の家の子だったはずだよ」
「あ、すみません。話が変わってしまいますがフランスで何があったのかも聞くことはできますか?
今日見た夢と鳥の主神がされていた話から考えて気になり、天音ちゃんにも確認しましたがそこに関しては情報がないみたいで」
そう、思わず言った翔太に千歳の耳としっぽが逆立つように反応する。
「千歳。ここでそんな風になったら翔太たちが困るよ。
すこし感情を制御できるように頑張ってみなさい。
翔太、それは食後落ち着いたら話そう。
昨日の聞きたかったことと一緒に話すでもいいかな?」
ああ、千歳は蛇の主神が関わる話は本当にタブーなんだなと、この場ですぐに聞いてしまったことを後悔し紅闇に頷き返す。
そんな翔太の後悔を知ってか知らずか天音が千歳に声をかける。
「この朝餉。すごくおいしいですね。
紀伊の国って確か海が近かったんですよね?
お家から海が見えたりとかしたんですか?」
注意され項垂れかけていた千歳は元気なく天音を見やり答えていく。
「見えたのじゃ。
翔太朗の部屋は外を出歩けなくても少しでもいい景色と空気に当たれるようにと2階の日当たりのいい眺めがいい場所に部屋があったから海が見えたのじゃ」
「ほかに翔太朗さんは何が好きだったんですか?」
「翔太朗は本を読むのが好きでな?
あまり身体が強くないから武官として働くのは難しいとたくさん勉強しておったのじゃ
それでな、家の者はみな翔太朗のことを応援していてな。
少しでも精が付くようにと鶏を飼って卵をたくさん採れるように頑張ったり、魚も野菜も体にいいというものをできるだけ出していたのじゃ。
でも、あまり油が多いと具合が悪くなってしまってな?
だから鯛などのあっさりした魚を好んでおった。
…翔太は鯛は好きかえ?」
そう伺うように聞く千歳に「好きだし、この朝餉すごくおいしい」と伝えれば、耳をピンとしてしっぽを揺らし嬉しそうに「そうかえ、そうかえ」と自分も食事を始めた。
そう穏やかになった食卓で紅闇が「夢に関しても後で確認しようか」と声をかけてくる。
「千歳、天音と厨房に行って昼用の弁当の用意を頼んで来てくれるかい?一度、翔太からゆっくり話を聞きたい。
その時に千歳が毎回蛇の主神の話で気分を害していると話が進まなくなってしまう。
なので、状況を把握して翔太の安全も考えなくてはいけないから、協力してくれるかい?」
そう紅闇が問えば、天音と翔太に視線を移し頷く。
「ああ、その後出かける前まで庭で天音と茶をしておいで。
天音は千歳と菓子の好みが似ているようだ。
厨房に昼の弁当を頼むついでに千歳のお気に入りを天音に食べさせておやり。天音がこちらの食べ物に詳しくなれば2人がおかしなものを食べてしまうことも減るだろう。
千歳、頼めるかい?」
そう言われ目を丸くして、改めて天音を見て不敵そうに微笑んで
「いいのじゃ。天音にとっときの菓子をふるまってやるのじゃ
ちゃんとこちらの食べ物を覚えるのじゃな」
そんな千歳に天音は笑顔で「楽しみですね」と返し、うまく千歳の気を蛇の主神から離してくれている。




