第8話 蔵五は体重計が欲しくなる
ウィルソンをリュックにしまい部屋から出る。
大鳥が来るかもしれないので、鍵は掛けないでおいた。
ゾンビとヨーグルトを踏まないように注意して階段を降りる。道路をのぞき見るがゾンビはいない。
駐輪場で自分のママチャリに乗る。
そのままあたりをキョロキョロしながら自転車を走らせた。
2つの角を曲がると、昨日やってきたコンビニにたどり着いた。
自動ドアは開いている。昨日蔵五が開いたからだ。
中の様子を入念に確認し、蔵五は中に入る。
蔵五はワイン2本と化粧水をストレージする。
次にビールを2本手にとる。そして少し考える。にやりと笑うと、ビールをシャカシャカと振り、ストレージする。
あと、地図だ。これはストレージせず手に待つ。
次に弁当とパンをチェックする。全滅していた。
次に卵パックを開封し、ひとつ手に取り匂いを嗅ぐ。臭い。中が腐っているのが分かる。
「うへぇ。しかし念の為、これも3つくらいストレージしておくか。慣性をつけて、亜空間時間をオン、と…亜空間でどんどん臭くなりそうだな」
コンビニ内の物色を続ける。
「…パックご飯とレトルトカレーはいいな。しかしまあ、コンビニなんてどこにでもあるからな。どうせ腐らない物なら、ここでわざわざ荷物を増やす必要はないし、やめとくか。お、ナッツ詰め合わせ発見。これ食べたい。羊羹も良いな。重さの割に高カロリーだ。これはもらっておくか。ストレージ」
蔵五はレジに向かう。昨日自分が置いていった1万円札が消えていた。
レジの後ろに回り込み見渡す。一万円札が地面に落ちていた。
「ええと、これはつまり…」
蔵五は開いたままの自動ドアを眺める。
「ああ、もしかしてそういうことかな」
次にバックヤードの中を覗き込む。
昨日いたゾンビの2人は消えていた。
「自動ドアが閉まっていたから外に出られなかったんだな。そんで、昨日俺が開けたから、夜になって出ていったと。その時に一万円札が何かの拍子で落ちたんだな」
蔵五は一万円札を拾い、レジに置き直す。そして言う。
「よかったな、デブ」
蔵五はリュックからウィルソンを取り出す。松下市大久保町3-1 ハイムイルサローネ301号室と書いてある。
地図を広げて楠本の家を確認する。
「まあまあ近いな」
ここから自転車で30分程度の距離だ。
大通りに出てひたすら西へ走れば辿り着く。
「でも大通りは見通しが良いからゾンビに見つかりやすい。もし部長みたいに足の速いゾンビに見つかったら面倒だ。裏道を選ぼう。アップダウンも無くて平坦な道ばかりだから、ゾンビに見つかっても自転車で逃げられるだろ」
地図をみながら移動ルートを考える。
ちょうど中間地点にホームセンターがある。
「ここは一度だけ行ったことがある。大型店舗で中にペットショップがあるんだよな。ストレージの実験をできるな。たぶん、トカゲとか生き残っている小型動物がいるだろうけど…いや、やめておこう。中は店員ゾンビが危険だし、死んだ動物で地獄絵図だろう。まずは安全に楠本のところまで移動することだ。店舗の外に置いている売り物のレンガをストレージして、それで終わろう。もし楠本がいなかったらまた戻って来ないといけないしな。無理な冒険はしない方がいい」
移動経路を考えたあと、蔵五は地図をリュックにしまう。
そしてゾンビがいないか慎重に確認してコンビニを出て、自転車にまたがる。
「よし、行くか」
蔵五は周囲を慎重に警戒しながら自転車を走らせる。ペダルが重い。空気を入れるのをサボっていたせいだ。
いざという時に全力で自転車を漕げるよう体力を残したい。わざとゆっくりと走る。
道を観察しながら蔵五は自転車を漕ぐ。
「やっぱり違和感があるな」
所々ある地面の血痕。散乱したごみ。窓ガラスが割られた車。
「実際にゾンビパンデミックがあったら、もっと人間の痕跡があって、混沌となってるはずだよな。なんていうか、雑すぎる」
途中、『強力』と表札に書いてある家の前を通る。普通の一軒家だ。
「これなんて読むんだ。きょうりょく?いや、ごうりきか?」
少しして『小鳥遊』と表札に書いてある家を見かけた。和風の豪邸である。
「あ!これは知ってる。テレビで見たことあるわ。たかなしって読むんだ。小鳥が遊べるのは鷹がいないから、たかなし。他にも『一』でにのまえ(2の前)、『春夏冬』であきない(秋がない)とかもあるらしいな。ダジャレ系だな…ていうか、うちの近所はレア名字が多いな」
そうこうしているうちに、ホームセンターにたどり着いた。
「さあ、チャッチャとレンガをストレージするかな」
駐輪場に自転車を停めようとして我に返る。
「別にルールを守らなくていいわな。終末世界で誰に迷惑をかける訳でもないし。俺も楠本のクズっぷりを学ばないと」
周囲の安全を確認しつつ、自転車のまま進む。
店舗の入り口に、売り物のレンガが積み上げられている。その前で自転車から降りる。
「レンガも色々種類があるんだな」
持ち比べて重さを確認する。当然ながら大きいものは重い。
両手で持ち少し振り回して、使い勝手を確認する。
「重すぎたら、投げにくいから慣性をつけにくいな。ならこの中位サイズにするとしよう」
レンガを両手で持ち、思い切り投げる。手が離れる瞬間にストレージする。
3つをストレージした。
「ストレージ容量は残ってんのかな」
試しにもうひとつレンガを持ち、ストレージしようとする。できた。
さらにもう一つストレージしようとする。これは無理だった。
「重量が数値化できなくて、管理がやりにくいな。俺の性格に合わないっていうかなんというか。重さを量るヤツが欲しいな。例えば重量計とか…あるじゃん。ホームセンターに売ってるじゃん」
蔵五はホームセンターの店舗内を見る。中は暗闇。非常灯も付いていない。
入り口近くで耳を澄ます。無音だ。
「体重計、欲しいなぁ。めっちゃ欲しい」
自動ドアの近くに寄る。中から臭気がする。
「リリース」
実験に使ったレンガをふたつリリースして、念のため、体重計用の容量を確保する。
「まあ、慎重に行けば大丈夫だろ」




