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第7話 蔵五は亜空間時間オンオフを実験する

ゼェゼェと息をして、蔵五はベットに座る。

鼻をクンクンさせ、そして頭を抱える。


「とりあえずケツを拭くか。パンツも履き替えよう」


トイレでお尻と、先ほど床に吹き出したストロングを拭いた。

蔵五はお湯を沸かし、インスタントコーヒーを作る。

感情が高ぶり、ひどく疲れてしまった。

インスタントコーヒー片手に、部屋に戻る。

そこで、ふと気づいた。

テーブルの真ん中に1枚のメモが置いてある。

蔵五はメモを手に取り見る。そこにはこう書いてあった。


『生きているか?トイレを借りた。あと酒とつまみを貰った。また来る。大鳥』


「大鳥って、課長じゃねえか。なんで…まさか」


蔵五は慌てて玄関に走る。そして鍵をガチャンとかける。


「あぶねえ、鍵をかけ忘れてたわ。また課長に不法侵入されるところだった」


部屋に戻り、インスタントコーヒーをすする。


「そういえば、課長が家に来たことがあったな。会社をバックレようとして、とりあえず無断欠勤した時に来たんだっけ。しつこくピンポン鳴らしてさ。普通、家まで来るか?あの時に俺は自分の人権を見失った気がするわ。まじムカつくよな、ストーカーかよ。そうだ、2回目と3回目のバックレの時は部長同伴だったな。ああ、ムカつく。ていうか、勝手に人の部屋に入って何やってんだよ。うんこ?普通するか?勝手にストロング飲みやがって。サバ缶も勝手に食うなよ」


蔵五は立ち上がり再度、玄関に向かう。玄関にチェーンをかける。


「これでよし、と」

『…おーい、村田さーん。楠本様でーす。きこえますかー?』

「ああなんだよもうっ!またお前かよ。落ち着いてコーヒー飲ませろ」

『言い忘れていたけど、ワインの他にビールもよろしくー。発泡酒とか安いのはだめよー』

「知るかっ!自分で買ってこいっ!」

『どうせ無職(笑)のあなたはストロングなんでしょー』

「図星だよチクショウ!」

『あと、この終末世界について考察を進めてんのよ。私はこの世界から元の世界に戻りたい」

「なに?元の世界?ああ、なるほどな」

「戻ってアンドリュ…やらなきゃいけないことがあるの』

「え?アンドリュ…なに?」

『オホン。ええと、あれ、そう。戻って、アンド、やらなきゃいけない、って言おうとしたのよ。英語よ。ヤブからスティックでごめんねー。私ってばインテリジェンスがアレだから』

「アンドリューって言ったよな、今。人の名前か?もしかして…あれか?うん、多分あれだな。これは楠本の弱点だな」

『じゃ、そう言うことで。夜のゾンビ狩りに備えて寝てるから。来るとしても夕方以降にしてよ。あと、化粧水が切れてるからどこかでもらってきておいて』


蔵五は冷めたインスタントコーヒーを一口すする。そしてにやりと笑う。


「アンドリューか…とりあえず楠本に会いに行くか。なあ、ウィルソン、復讐のチャンスみたいだ」


コーヒーを飲み終え、蔵五はカップを流しで洗った。

そして、片手鍋でお湯を沸かす。

湯が沸くとテーブルでカップうどんにその湯を注ぐ。

時計を手に取る。9時22分。


「ストレージ、ストレージ」


時計とお湯が入っていない片手鍋をストレージする。


「時計だけ亜空間時間をオン」


一分が少し過ぎた頃、サバ缶をおかずにカップうどんをバリバリと食べ始める。デザートにバナナを食べる。

食べ終わると、台所で粉末青汁を作り、一気飲みする。


「まずい!もう一杯!」


次に、仕事カバンを探し始める。ベッドの下をのぞき込むと見つかった。

カバンのなかに書類がある。それを3枚取り出す。

1枚の裏に『不法侵入お断り!チャイム鳴らせ』と大きく書いた。

少し悩んだあと、携帯セロテープの存在を思い出し、仕事カバンから取り出す。


「なんとなく入れていたけど、初めてこれが役に立つな」


玄関へ行き、外の様子を念入りに確認して、チェーンと鍵を外し、出る。

ドア表側に『不法侵入お断り!チャイム鳴らせ』の紙をセロテープで貼る。ちょっと傾いていたので、調整して貼り直した。

部屋に戻り、鍵とチェーンを掛ける。

ふと思い出して、ベットの下を漁る。お気に入りのエロい本を取り出す。


「ストレージ…課長に見つけられたら嫌だからな」


ひと通りの作業を終えて、一旦テーブルに座る。


「リリース。リリース」


時計と片手鍋が現れた。

時計は10時03分。41分経過している。

一方で、片手鍋は熱いままだった。


「オッケー。ウィルソン、実験はうまくいったよ」


ベッドまで歩き、ウィルソンを手に取る。

そして、ウィルソンを下手から上に投げようとする。


「ストレージ」


手が離れる瞬間にウィルソンをストレージする。


「ウィルソンの亜空間時間をオン。そして、リリース」


宙に現れたウィルソンは上昇する。慣性に従いやがて減速し頂点で止まる。そして物理法則通り、落ちる。


「ぽふ」


床に落ちたウィルソンは蔵五と逆方向に跳ねた。


「ごめんごめん。ウィルソン、そんなに怒るなよ。こっち来いよ」


蔵五は優しくウィルソンを拾い上げ、テーブルの上に置く。


「実験は終わり。さあ、次は書き物だ」


残った2枚の紙のうち、1枚の裏に書き込む。


『大鳥様 楠本に会いに行きます。松下市大久保町3-1 ハイムイルサローネ301号室。ここで合流しましょう。安い発泡酒を持って行くと喜ばれます』


書き終えると、また玄関を出てドアに貼る。

その都度、鍵とチェーンをきちんと閉める。

最後の作業を始める。残った1枚の紙に今日の予定を書き込む。


『コンビニで地図、ワイン、ビール、食べ物、化粧水』


書き終えると折りたたみ、ウィルソンのなかに入れる。


「まあこんなもんかな。あとは、ゾンビ対策なんだが⋯」


蔵五は冷蔵庫まで移動し、中身のストロングと麦茶とサバ缶を取り出す。

そして、冷蔵庫を持ち上げる。


「重いな。でもいけるんじゃないか」


持つ手の力を緩め、冷蔵庫を落下させつつ言う。


「ストレージ」

「ゴンっ」


冷蔵庫はストレージされず、地面に落ちた。


「重量オーバーか。重量兵器にしたかったけど。まあ、これひとつでストレージ容量が圧迫されても手数が減るし」


蔵五はウィルソンから紙を取り出し、追加で書き込む。


『ホームセンター、レンガ』


「レンガってどんな重さなんかな。これも容量を食いそうだな。気は進まないけれど、まあ仕方ない」


レンガの後ろに『3個くらい』と書き足し、紙をウィルソンにまた戻す。


「なるべくゾンビは倒したくないけれど…楠本が多分考えている通りなら、考えを改めないといけないかも知れないな」


そしてテーブルの上のウィルソンに話しかける。


「じゃあ相棒、昼過ぎまで仮眠を取ろうか」


卓上の時計を手に取り、12時00分にタイマーをかける。

ウィルソンとベッドに移動する。


「おやすみ」


すぐに寝息を立て始め、そしてタイマーの時間がやってくる。


「リリリリ」


タイマーが鳴り響き、蔵五は目を覚ます。


「ストレージ」

「リリリ…」


時計をストレージする。

ベッドの上で蔵五は大きく伸びをする。


「おはよう、ウィンソン。じゃあ、そろそろやるかな。ストレージ」


ウィルソンが消えた。


「オッケー。ここまで擬人化して話しかけてもストレージ可能ね。じゃあ、次は小型生物をストレージできるかだな。野良猫とか都合よく歩いていたらいいけど、そもそも捕まえられるもんかな。あと猫とかって体重何キロなんだろな…まあ後で考えるとして、リリース」


ウィルソンが現れる。


「おかえり。なあウィルソン、亜空間ってどんなところなんだ?」


当然ながら返事はない。

蔵五はカロリーメイトとバナナをかじる。

食べ終え、ユニットバスに移動する。シャワーをひねる。最初は冷たい水が出て、やがてお湯に変わる。


「ガスと水道が生きてるから、いけるな。と、その前に」


ユニットバスを出て、ウィルソンをストレージする。


「お前が湿気たら駄目だからな…なあ、お前には助けられているんだ。ありがとう」


お湯を張り、入浴を楽しむ。

お湯を抜き、体と頭をたっぷりのボディソープとシャンプーで洗う。

やがて、体から湯気を立ち上らせて、蔵五は風呂から出た。

お湯を沸かし、インスタントコーヒーを飲みながら火照った体を冷ます。

もう一度片手鍋にお湯を沸かし、ストレージする。

きれいな外行きの服に着替える。青汁をストレージする。

ストロングは置いていく事にする。この週末世界での目的がかわりつつあるからだ。引きこもって酒を飲む理由を失いつつある。

台所で少し悩んだが、包丁を手に取り慣性をつけてストレージする。

玄関から注意深く外に出る。

玄関に貼っている課長への貼り紙にメモを書き足す。


『風呂が使えます。』


そして言う。


「リリース」


ウィルソンをリリースする。

蔵五は言う。


「じゃあ行こうか、相棒。まずはコンビニからだ」



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