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第6話 蔵五は腹話術スキルに驚く

蔵五は自分の部屋の前にたどり着く。

鍵を開けようとして気付く。


「いけね。鍵かけるのを忘れてた。まあ、さすがに大丈夫だろ。見ず知らずのゾンビがわざわざ俺の部屋に来るわけないし。まあ念のため…リリース」


OLゾンビをつついた傘をリリースし、念のための武器とする事にする。

ゾンビに触れた先っぽ部分が生理的に汚く感じるので、部屋の壁に当たらないよう注意する。

中には誰もいない。

鍵を閉めようとして、やめる。いざという時にすんなり逃げれるように、わざと開けておく。

だが、違和感がある。

散乱したごみの配置が微妙に変わっている気がする。

いつも自分が見やすいように置いている時計の向きが逆になっている。

向きを直す。

16時52分。


「…ごくり」


あと、ウィルソンを置くために作ったテーブルスペースに、消費した記憶にないストロング缶とサバ缶の空き缶が置いてある。

床に落としたあたりめとポテチの空袋が遠くに移動している気がする。


「…ごくり」


冷蔵庫の扉を開ける。

ストロングチューハイが6本、ペットボトルの麦茶が1本、サバ缶が4個。

ストロングとサバ缶が1つずつ減っている。


「…ごくり」


トイレを開ける。暗闇の中、誰もいない。

しかし臭い。先程よりも臭い。誰かがうんこをした匂いだ。

おかしい。


「…ごくり。ああ、そろそろ酔ってきたな」


さっきからごくりごくりと飲んでいたストロングを飲み干す。

とりあえずゾンビはいない事が判明した。この部屋は安全だ。

とりあえず傘をストレージする。


「今日はとりあえず寝るか。酒飲んで走るもんじゃねえな。細かいことは起きてから考えよう」


蔵五はベッドに横になる。


「すうすう…あっ、いけね。忘れてた!」


リュックからウィルソンを取り出す。


「外に出してやるのを忘れてた。すまないな。じゃあ、おやすみ」


ウィルソンを枕元に置き、蔵五は目を閉じる。


「いけね!」

「俺はバカか。もうひとつ大事なことを忘れていた」


蔵五は玄関に向かう。鍵はかかってない。スニーカーを履き、外にでる。

階段を途中まで降りて、右手を前に伸ばす。


「ブラジルのかたき。あとタイムカードの恨み。リリース」


宙に、冷蔵庫からストレージしていた悪臭を放つヨーグルトが現れた。

重力に従い落下して、部長の顔の上に落ち中身が散乱する。

ブラジルの残骸にもヨーグルトがかかったが見なかった事にする。


「ざまあ見やがれ」


吐き捨て、スキップしながら自室に戻る。

玄関を開けて靴を脱ぎ捨て、勢いよくベットにダイブする。


「おやすみ、ウィルソン」


そして数秒もたたず、寝息が聞こえてくる。

夜。徘徊するゾンビの叫び声が街に鳴り響く。

蔵五は気付かず、ただ眠る。

翌朝。


「ホー↓ホー↑ホホー→」


謎鳥の声とレースのカーテン越しの日光で蔵五は目を覚ます。


「おはよう、ウィルソン」


台所スペースに移動して、蛇口から水を飲む。

そしてスマホを持って、トイレへ。

昨日のトイレの臭いはもうなくなっていた。

便器に腰掛け、スマホの電源をいれようとする。しかし、電池切れだった。


「順番を間違えたな。電池切れは考えてなかったわ。でもまあ、スマホは何の役にも立たないだろうし、何をどんなにあがいたって終末世界だしな。ダラダラ引きこもって酒でも飲むしかやる事はないわな」


トイレの外に向かって言う。


「なあウィルソン、今日はひたすら飲もうぜ。アマゾンの思い出をツマミにしてさ。いや、アマゾンじゃなくて、なんだっけあのバナナの皮の名前。ええとモンゴル?じゃないし…まあ、バナナでいいか。なあウィルソン、あの時バナナがさ…」


その時突然、女の声がする。


『おーい!村田さーん!聞こえるー?』

「ビクぅ。ええっ!?ウィルソンがしゃべった!?」

『聞こえてるー?』

「ちょっ、マジで!?ウィルソンは箱だぞ。パルプ由来の無機物だぞ。しゃべるわけが…ああっ、ケツ拭くから待ってくれ。ウィルソーン、ちょっと待ってくれー。カラカラ」

『おーい、時給510円(笑)。死んだのかー』

「っておい楠本!?楠本、生きてたのか!?マジかよ…生きてたのかよ。信じられない。あんなクズ、とっとと死んでればよかったのに」

『まあ、あなたのようなハラスメント人間は、とっとと死んでも良いけどね』

「黙れっ!ていうか、ここはトイレだぞ!覗いてんのか?」


蔵五は自分の上から楠本の声が聞こえているのに気づく。恐る恐る上を見上げるが何もない。あるのは天井と蛍光灯だけだ。


「なんだこれ?」

『居眠りしてんなら、また画鋲を頭に刺してやるぞー(笑)』

「やっぱりてめえの仕業だったんか!許せねえ。謝れっ!俺と部長に謝れっ!」

『え?ああっ!ゾンビの大群が迫ってくる』

「え?なに?なに?」

『あっ……』

「おーい、楠本ー。聞こえるかー。何が起きてるんだー」

『……』

「おい……ゾンビに殺されたのか…怖い。ゾンビの大群って何だよ。やめてくれよ。死ぬなら黙ってひとりで死んでくれよ。なんで俺にトラウマ植え付けんだよ。とりあえずストロング飲むか。リリース。プシュ。ごくり」

『嘘ぴょーん』

「ブフっ!はあっ!?ななな、なんだよテメエこの野郎。信じられねえよコイツ」

『まあ、村田さんが生きてるか死んでるかは分からないけど、一応連絡しとくね。昨日ゾンビ倒しまくってたら腹話術スキルがレベルアップしたのよ。一度でも触った部分で腹話術できるようになったのね。ほら、村田さんに画鋲刺すときに手が当たったのよ。あそこから腹話術をしてるってこと』

「なに?腹話術?え、よく分からない。ていうか、ゾンビ倒しまくり!?ゾンビって言っても、一応元人間だろ?あいつには倫理観ねえのかよ」

『どうせ今頃、倫理観がどうとか言ってんでしよ。その程度だから、村田さんは時給510円(笑)。いや、今は無職か(笑)』

「はあっ!?それは関係ないだろ」

『村田さんの頭に手が当たった後、汚いからクレンザーで手を洗ったけど、まあ役に立ったわ。では、最後に重要な連絡です。メモの用意をしてください。10、9…』

「え?え?」

『8、7…』

「ああもうっ!ケツを拭く時間もねえ」


蔵五はトイレを飛び出す。ペンはすぐ見つかった。しかし、紙がない。


『6…』

「仕方ねぇ。ウィルソンの身体に書くしかねえのか」

『ゼロ!』

「いきなりゼロに飛ぶなっ!」

『松下市大久保町3-1 ハイ厶イルサローネ301号室。モールの近所よ』

「ああもうっ!せわしないっ!」

『ここで引きこもってるから、生きてたらワインと食料持ってきて』

「パシリかっ!」


思わずウィルソンを地面に叩きつける。角が凹んでしまった。


「ああっ!ウィルソン!ウィルソン!俺はなんてことを」

『じゃあ、バイバイキーン』

「じゃかあしいっ!」


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