第4話 蔵五はコンビニでバナナを収納する
自室の鍵を開け、外に出る。
鍵を締める。ガチャンという音にビビる。
廊下には、先ほどリリースしたストロング缶か4つ転がっていた。邪魔にならないので、とりあえず放っておく。
足音に注意して廊下を進み、階段まできて「あおっ!」と叫んだ。
階段の下にはOLゾンビがいた。
「さっきのゾンビか…あーびっくりした」
階段から落ちた時に首の骨を折ったのか、頭があらぬ方向に曲がっている。目線は宙を見つめて、ピクリとも動かない。
「コレどうすっかな…」
蔵五はとりあえず部屋に戻る。ガチャンと鍵をあけて、トイレで備蓄のトイレットペーパーを一つ取る。
また部屋に戻ってくるかもしれないので、鍵は掛けない。
そして階段へ。
ゾンビにトイレットペーパーを投げつける。『ポスッ』っという音を立ててゾンビに当たった。トイレットペーパーはそのまま道路へ転がっていく。
やはりゾンビに反応はない。
「死んだふりができる知能はないと信じたいが…でも、まだ不安だな。念には念を入れよう」
もう一度部屋に戻り、傘を取ってくる。
へっぴり腰で階段を降り、ギリギリまで近付いて傘でゾンビの足をつつく。
「反応なしと…ストレージ」
傘を収納して、蔵五はOLゾンビを飛び越える。
道路の安全をキョロキョロと確認する。誰もいない。
トイレットペーパーと、2階から落とした囮のストロングが落ちている。ここまで転がって来ていた。
「あるのは囮ングとかだけだな。よし、安全だ…でも、なんか違和感があるよな。ここは住宅地だから、元々たくさん人がいたはずなのに。どこに行ったんだろう」
しかし、疑問は直ぐに霧散する。
「まあ、いっか。とりあえず用事を済ませて、また引きこもろう」
蔵五は歩きながら、緊張を紛らわせる為にリュックの中のウィルソンに話しかける。
「そこのコンビニにはよくお世話になったんだ。ブラック企業勤務だから、コンビニ弁当ばっかり食ってたんだ。そうだ、後で弁当も貰っていこうな。焼肉弁当がいいな。ああ、それで話をもとに戻すと、店員でデブの男がいてさ。なんか見るからに大人しい奴だったんだ」
曲がり角で慎重に安全確認をする。問題ない。
「かわいい女の子の店員もいてさ。すげえ好みだったんだな。清楚な女の子でさ。その子の時はわざとエロい表紙の本を買って、動揺するか実験してみたりしたりしてさぁ。でも、変化はなかったよ。プロだね。感心したもんだ」
2つ目の曲がり角。安全確認をする。問題ない。
「デブと女の子が同じシフトの時は見ものだった。明らかに女の子がデブを避けてたんだよ。でもさ、デブもなんか、それを当然のことと受け流している感じでさ。女との人間関係よりも仕事を大切に淡々とこなしてる感じ。その姿に、俺は妙な清々しさを感じたもんだ。奴のああいう生き方は悪くない。なんか尊敬しちまってさ、俺は奴と友達になりたいって思ったもんだ。そして、俺は少しだけ女の子が可愛く思えなくなったんだ。それでも可愛いのは可愛かったんだけど。ほら、人格はデブの方が明らかに上だって話だ。実際に2人がどんな関係なのかは知らんけどな。俺の想像の話」
そして、コンビニに到着した。
外からコソコソと中の様子を確認する。見える範囲ではゾンビはいない。
中に入ろうとして自動ドアの前に立つが、動かない。
「そうか、自動ドアは電気で動くもんな」
試しに手でこじ開けると、開いた。そしてほのかに漂う悪臭。
「なんだコレ」
慌ててドアから離れる。
「これ、もしかして生ものが腐ってんのか?ああ、電気が死んでるんだから、そりゃそうか。仕方ない、焼肉弁当は諦めるか」
呼吸をなるべくしないようにして、蔵五はコンビ二の中に入る。
最初は物陰にゾンビがいないかひと通り確認する。問題ない。
次に、必要なものをストレージしていく。サバ缶、ストロング、麦茶、ポテチ、珍味、粉末青汁、カップうどん…。
「おっ!バナナがあるじゃん」
若干黒くなっているバナナがたくさんあった。
「貴重な生ものだ。これは根こそぎ貰っていこう」
他にも必要なものをストレージし、レジに向かう。
財布から一万円札を取り出しカウンターに置き、ひとり言う。
「釣りは要らねえぜ!」
ここでふと、レジ奥の扉が目に入った。前から、中はどうなっているのか気になっていた扉だ。
蔵五はレジの中に入り、扉の中をのぞき込んだ。
居た。
暗闇の中、コンビニ店員の服を着た、男と女のゾンビがいた。
2人はゼェゼェと小さく苦しそうに息をしながら、四つん這いで地面を見つめている。
何者か、シルエットでわかる。
あの2人だ。デブと女の子。
ふたりはお互いを気にする様子もない。ただ、ゾンビとして生きる苦しみに耐えているばかりに見える。
虚ろな目は焦点が合っていない。
蔵五は思う。なんで、2人はこんな酷い目に遭わされなくてはならないのか。
どんなひどいことをしたというのか。
こわい。
恐怖に目を逸らすことができない。
でも、目をそらさなければならない。
目をそらさないと身体が動かない。
はやく。奴らに気づかれる前に動かないといけない。急がないと。でも動けない。
蔵五は気を逸らすために、リュックのなかのウィルソンに話しかけたい。しかし、ゾンビの注意を引かないように、声を出すことはできない。
ウィルソンに、自分は何かを書いていた。
そうだ『楠本うざいアホしね』だった。
楠本は人間のクズだった。陰湿で陰険だった。
ストレスがたまると蔵五の机の物を隠して、困る様子を見て鬱憤を晴らしていた。
消えた電卓を10分探して見つからなくて、一旦席を外して戻ると書類の下から電卓が出てきた事があった。さっきまではなかった。
不思議に思っていると、楠本がニヤニヤしている事があった。
その日の夜に書いたのが『楠本うざいアホしね』だった。
蔵五は言う。
「楠本、マジでムカつく」
気づけば、蔵五はコンビニの外に立っていた。
楠本への怒りの中、無意識に外に出ていたのだった。
蔵五はつぶやく。
「ありがとう、ウィルソン」
そしてその場にへたり込む。
「なにあれ。こわいこわいこわい。ゾンビって何なの?あそこで何してんの?訳が分からない。もう嫌っ。早く帰ってストロング飲んで忘れよう」
立ち上がり、ふと我に返りあたりを見回す。
知った顔のゾンビがいた。
スーツ姿。乱れたネクタイ。波平タイプのハゲ。老けた童顔。二重まぶたのギョロ目。
うつむき加減に、こちらに向けてしっかりとした足取りで歩いてくる。
「⋯部長!?」
そういえば部長が近所に住んでいると聞いたことがあった。過酷なブラック企業の日々にそんな部長情報はどうでもよくて忘れていたが、確かそうだった。
「ぐ、あ?」
部長ゾンビは蔵五の声に反応して顔を上げる。
2人はそのまま固まる。
「落ち着け俺、落ち着け俺。大丈夫だ、ゾンビは遅い。簡単に逃げられる」
「…」
「ゆっくり落ち着いて逃げればいい。」
「…あああああああ!」
「ヒィィィ」
部長がいきなり、自分めがけて走り出した。速い。
「あああああああっっ!」
「ヒィィィィィィっっ!」
つまづきかけながら蔵五も走り出す。
「ああああああ!」
「や、やめてっ!」
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