第3話 蔵五はスキルの実験をする
蔵五は混乱しながら電気ケトルに水を入れ、スイッチを入れる。
しばらくぼんやりとしているが、いつまで経ってもお湯が沸く気配がない。
ふと気付く。
「そうだった、電気が切れてるんだ」
片手鍋に水を入れ、ガスコンロに火を入れる。
鍋を見つめながら蔵五は考える。
「ガスはプロパンガスだから動いてるんだよな。そんで、水道は屋上のタンクの水が残ってるから出る。そういう事だろ。電気が動かないのは、世間のインフラが壊滅してるってことだよな。つまり…しばらくはここで暮らせるってことだな。よし、しばらく引きこもり生活を満喫しよう」
お湯を入れたカップうどんを手に、部屋のテーブルに移動する。
そして、卓上の小型時計で時間を確認する。
8時32分。
「そういえば…ストレージ」
小型時計が消える。
「いち、に、さん、しー…ななじゅうく、はちじゅう。よし、リリース」
目の前に小型時計が現れる。両手で受け止め時間を確認する。
8時32分。
「なるほど。亜空間は時間が止まっている」
カップうどんの蓋を開け、蔵五はまだ硬い麺をボリボリかじる。
「これくらいが一番うまいんよな。後でちょっと胃にくるけど」
スープを一滴残らず飲み干し、完食する。
「さて、次はあれを確認するか。落ちても静かなものは、と」
床に空になったティッシュ箱がある。
横面に『楠本うざいアホしね』と雑な文字で書いてある。
「ストレージ」
それを収納する。
そして部屋の角に移動し、向かいの角に向けて言う。
「リリース」
しかしティッシュ箱は出てこない。
「なるほど。じゃあ、もうちょっと手前で。ここらへんかな…リリース」
空のティッシュ箱が現れ、重力に従い落下する。地面に当たり跳ねて、蔵五の手前に転がってくる。
「なるほど」
蔵五はティッシュ箱を脇にどけて、地面に寝転がる。そして壁の角に足をつける。先ほどティッシュ箱が落下した位置と頭頂部がほぼ一致した。
「射程距離はこういう感じだな。なら次は…ストレージ」
ティッシュ箱を拾い、収納する。
もう一度角の壁に背中をつけて、手を伸ばす。
「リリース」
先程よりも腕一本分長い場所にティッシュ箱が現れ、落下した。
そしてまた、ディッシュ箱は蔵五の方に転がってきた。
「なんか優秀なティッシュ箱だな。ブーメラン機能付きだな。さて次は、斜め上の実験だな」
ティッシュ箱をストレージし、また部屋の角に戻る。
「リリース…やっぱり遠いか。じゃあ、こんなもんかな⋯リリース」
予想通り、自分の体を起点に身長分の距離にティッシュ箱が現れた。
地面に落下したティッシュ箱は跳ねて、また蔵五の手前に転がって来た。
「また戻ってきた!?なんだ、このティッシュは?俺が好きなのか?」
優しく拾い上げ、蔵五はしばらく眺める。
やはり『楠本うざいアホしね』と書いている。
「はあ、なんだよお前…」
ため息をつき、話しかける。
「ああもう、仕方ねえな。分かったよ。そんなに俺が好きなのかよ。お前の名前はウィルソンな。お前は俺の相棒だ。後でコンビニに行くからついてこいよ」
蔵五はウィルソンが喜んで頷いているように縦に動かしてみた。
ふと我に返った蔵五は恥ずかしくなり、辺りを見渡す。
当然ながら、誰もいない。
そしてまたウィルソンに笑顔で語りかける。
「よろしくな、ウィルソン。ふふふ」
テーブルの上のあたりめとポテチの空き袋を床に落とし、スペースを作る。そこにウィルソンを置く。
「じゃあ冷蔵庫の中身をチェックしてくるから、ここで待っていてくれ」
蔵五はあたりを見回し、床に転がっているペンを拾う。
「紙はないかな…ああ、あった」
コンビニのレシートが転がっていたので拾う。
床を転がって冷蔵庫まで移動し、中身をチェックする。
ストロングチューハイが7本、ペットボトルの麦茶が1本、悪臭を放つヨーグルトが1つ、サバ缶が5個入っていた。
「ストレージ」
まずヨーグルトを収納する。
「生ものは駄目だな。ヨーグルトはあとで捨てるとして…」
メモを取り始める。
「必要なのはストロング、麦茶、サバ缶、あとおつまみ…って所だな」
また床を転がりテーブルに戻る。
「なあウィルソン、健康管理も仕事のうちだ。栄養は大切だから、青汁も取ってこようぜ。まあ無職だから仕事も何もないんだけど。あ、そうだ。カップうどんも忘れずに」
メモに追加し、書き終えてからストレージする。
「さてウィルソン、出発だ。目的地は角を2つ曲がった所にあるコンビニな。徒歩10分ってところだ。ゾンビがいたとしても、あれだけ歩くのが遅かったら怖くないわな。歩きながらでも余裕で逃げれる。でも、曲がり角とか物陰に潜んでないかは注意したほうがいいわな。オッケー?了解、慎重にやるからさ、安心してくれ。じゃあ行こうか」
スウェットを脱ぎ、外出用の服に着替える。そしてリュックに財布とウィルソンを入れて、背負う。台所で包丁をとり、手に持つ。
玄関に移動しスニーカーを履く。ドアスコープで外をチェックする。
次にチェーンをつけたままドアを開け、外の様子を確認する。
チェーンを外しさらに確認をして、安全確認は終了した。
「よし、行くぞ」
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