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第2話 OLゾンビは「たけし」と呟く

「…うわあ、しつこいなぁ」


蔵五はため息をつく。あまり脅威を感じていない。

先程見たゾンビの動きは非常に緩慢だった。なので、逃げようと思えばいつでも逃げられると分かっている。

それに、この部屋の玄関ドアにはカギがかかっている。ゾンビは入ってこれない。安全だ。


「ゾンビごときが頭がいいはずもないからな。そのうち自分が何をしていたか忘れてどっかに行ってしまうだろう」

「ピンポーン」

「…まじか?チャイムを鳴らす脳みそがあるってことかよ」

「ガチャガチャ」


更に、ドアノブを回し出した。

動くドアノブを見下ろし、蔵五はソワソワし出す。


「なんか、やばくないか。ていうか、さっき向こうの窓側で目が合って、そんでピンポイントでこの部屋まで来たんだよな。立体構造を理解できてるってことは、それなりに頭が回るんじゃ」

「ピンポンピンポンピンポン!ガチャガチャ」

「うるさいっ!」

「ピンポンピンポンピンポン!ガチャガチャ」

「わかった!ドアを開けるから、とりあえずピンポンやめて」

「ピンポンピンポンピンポン!ガチャガチャ」

「よし。言葉は通じない、と。なら⋯とりあえず無視するか」


騒音の中、蔵五はモーニングコーヒーの用意を始める。

水道とガスは生きていたので片手鍋で湯を沸かし、コップに湯を入れる。

蔵五はインスタントのブラック派だ。

ひと口飲み、満足気に笑う。


「ピンポンピンポンピンポン!ガチャガチャ」


部屋に戻り、慎重に窓から外を覗き見て、外にゾンビがいないのを確認する。

そして、厚手のカーテンを開けて、レースのカーテンだけにする。

これで室内がだいぶん明るくなった。


「さて、せっかくブラック企業を辞めたんだから自由を満喫するとして…」

「ピンポンピンポンピンポン!ガチャガチャ」

「これを、なんとかしないとなぁ」


蔵五は部屋を見回す。

食い散らかしたごみの中から、ストロングチューハイの空き缶を5つ集める。


「ストロング定番レモンよ!我が糧となれ!ストレージ!」


一つずつストレージしていく。


「⋯ストロング爽快ドライ!我に力を。ストレージ!これで5つ完了、と」

「ピンポンピンポンピンポン!ガチャガチャ」

「はいはい、聞こえてるよ。今行きまーす」


玄関に行き、ドアスコープをのぞく。OLゾンビの顔のアップが見えた。


「うわあ…目が合っちまった」


ドアスコープから目を外し、ドアに手を当てる。そしてつぶやく。


「村田蔵五の名において命じる。出でよ、ストロング梅味期間限定!」

「ピンポンピンポンピンポン!ガチャガチャ」

「…あれ?」


蔵五はドアスコープを覗き込む。

先程と何も変わらずゾンビの顔のアップがある。


「おかしいなぁ。梅ロングが落ちてカンカン鳴って、その音にゾンビが反応してピンポンが止まる予定だったんだが…まてよ」


蔵五は振り返り、トイレの前に行く。閉まったドアに右手を当てて言う。


「出でよストロング生搾りグレープ!」


ドアの向こうでは何も音がしない。


「よし、ならばこれだ」


左手で鼻をつまんでドアを空ける。

トイレの中が見える状態で、先程と同じ位置で右手を前に出す。


「ひでよ!ふほほんぐはまひぼりふべーぷ!」

「カランカラン」

「よひ、ふまくいった」

「ピンポン…」


空き缶の音に反応したのか、チャイム音が鳴り止んだ。

トイレのドアを閉め、つぶやく。


「なんか、色々分かってきたわ」


部屋に戻り、レースのカーテン越しに外にゾンビがいないのを確認して、窓を空ける。空気を入れ替えるためだ。


「換気扇って偉大だったんだな。なくなって初めて分かるわ」


外から自分の影が見えないよう気をつけながら新鮮な空気を吸う。


「…ガチャガチャ」


ゾンビがドアノブを回す音だけが復活した。


「そこまで頭がいいってわけでもないんだろな。記憶が少し残っている感じだと思うんだけど。そんで、ストレージには制限があると言うことか…よし、次の実験だ」


蔵五はトイレに移動しストロング生搾りグレープを回収、ストレージする。

次にドアの前に移動し、ドアスコープをのぞき込む。廊下とOLゾンビの頭頂部が見える。

詠唱にはそろそろ飽きてきていた。

完結に、それっぽい単語を言う。


「リリース」


ドアの向こうにストロング缶が現れる。そして重力に従い落下する。


「カランカラン」

「ガチャガチャ…」


空き缶の音にゾンビの動きが止まった。そして振り返り不器用にしゃがみ、ストロング缶を掴む。


「うあ、あ…」

「リリース」


しゃがむゾンビの頭上に次のストロング缶を出現させる。落下する缶がゾンビの頭に当たる。


「カコン…カランカラン」


ゾンビが緩慢に頭上を見上げ、次に増えた足元の缶を見る。


「リリース、リリース」


更に2つの缶が落下した。

合計4つの缶に囲まれて、ゾンビの動きが固まった。


「どうだ?俺の事を忘れたか?」

「うあ…」

「よし、ラスト」


廊下の向こう側、つまり廊下のない空中に缶をリリースする。落下した缶は1階へ消えていき、大きな音を立てる。


「カコーン!カコンカン」

「お、お、おお。たけし?」


OLゾンビは立ち上がり歩き出し、ドアスコープの視界から消えた。一階へ向かったのだろう。


「よし、うまくいった…ていうか、今たけしとか言ったよな。まあ、どうでもいいか」


蔵五はドアスコープから目を離し、大きく息をしする。


「さて、これからどうするか。まずはカップうどんでも食うかな…」

「ガタガタガタガタッ!」


そこに突然、玄関の向こうで大きな音が鳴り響く。


「びくっ。ななな何?」


10秒ほど息を潜めて、ふと気付く。


「もしかして…ゾンビが階段から落ちた音じゃないか?」


混乱しながら、蔵五はカップうどんのパッケージを開け始める。

そこに、頭の中でファンファーレが鳴り出した。


『テレレテッテッレー』

『OLゾンビ撃破』

『おめでとうございます』

『スキル亜空間ロッカーのレベルがアップしました』

『容量が5kgから10kgになりました』


「え?なに?なに?」


『では、頑張って終末世界を生き延びてください』


「は、はい、がんばります」


呆然と立ち尽くす蔵五。その手からカップうどんが滑り落ちた。


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