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第24話 蔵五はうさぎゾンビと相対する

蔵五はマイクのスイッチを入れ、言う。


「楠本、聞こえるか?」

【なによ】

「うさぎとは俺が直接話す」

【はあっ?何わけわからないこと言ってんの!?こいつ人並みに被害者ぶってんのよ。舐めてんじゃないわよ】

「楠本、頼む」

【バカなこと言ってたら村田さんのキャンタマをトンカチでぶっ潰すわよ】

「い、いやぁ」


蔵五が内股になる。


【蔵五、大鳥だ。聞こえるか】

「課長?聴こえる」

【すでにうさぎの回線は切っている。俺たち3人だけで話している】

「うん」

【楠本は俺に任せて、お前のやりたいようにやれ】

【課長、勝手なこと言わないでよ。ちょっともう、訳がわかんない!】

【年長者として恥ずかしい。皆に責任を押し付けていた。ここからは俺が責任を取る。みんな俺の言うとおりにしろ。俺がお前たちを守る。だから楠本、少しだけ黙っていろ。落ち着いてくれ】

「課長、ちゃんと責任を取れよ。いざとなったら撃ってくれ。絶対に外すなよ」

【任せておけ。蔵五、行け】

「ラジャー!じゃあ、ちょっくら行ってくる。楠本、聞こえるか」

【⋯なによ】

「ここは俺と課長を頼れ。今は俺達がお前を守る順番だ。うさぎちゃんもいい奴かも知れないし」

【…ふん、好きにしたら?】

「よし、ラブアンリューピースで話し合ってくるよ」

【え?ラブアンドリュ…くっ!】


蔵五はひとつ深呼吸して、トイレの外に出る。

うさぎゾンビがいた。

獣面人身。タキシード姿で目隠しをして、ベンチに座っている。インカムを手に持って無理やり耳と口に当てている。人間用だから、ウサギの頭では装着できなかったようだ。

蔵五が目の前に立ち、言う。


「オッス、オラ村田。今あなたの目の前にいるの」

「オッス?ええと、メッス。あの、さっきの女の人、かなりお怒りだったみたいですが」

「まあ細かい事は気にすんなよ。それより君の名前は?」

「それが…取り込んだ記憶では強力とか小鳥遊とか色々あるけど、本当の名前は分からないです」

「じゃあ、とりあえず佐藤さんって呼んでいい?」

「え?はい、お願いします」


蔵五は大鳥達がいる高層マンションの方を見る。そして、射線確保のため一歩うしろに下がる。


「佐藤さんは、部長の記憶もあるの?」

「ええと、断片的にです。浮かんだり消えたり。なんか少しずつ、人の記憶が自分の心と離れていく感じです」

「うん?ところで、俺達が部長のことを影でなんて呼んでいたか、知ってる」

「波平ハゲ?」

「正解…やっぱり悪口はバレてたんだな。もしかして頭を食べたら、記憶を取り込めるの?」

「そうです。でも、もう食べたくないです」

「なんで?」

「どんどん自分が自分でなくなっていく気がしてつらくて…本能と理性が戦っている感じです」

「なるほど」


蔵五は言う。


「佐藤さんの最初の記憶は?」

「気付いたら、ペットショップのなかにいました」

「普通のウザギだったの?」

「いえ、今の形でした」

「なるほどね。レベルアップはする?」

「レベルアップ?」

「ええと、ゾンビを倒したらファンファーレが聞こえる、みたいな」

「ええと、ゾンビの髪の毛を食べたら、壊れた音が聞こえます。ノイズみたいなのが」

「うーん。やっぱりバグってるのかなぁ」


蔵五はしばらく考えて、言う。


「佐藤さん、申し訳ないんだけど、俺たちにできることはなさそうだ。俺たちもなんでこんなところにいるのか、さっぱり理解できていないくらいだし」

「そうですか…」

「旅に出たらいい。何かヒントが見当たるかもしれない。俺たちも旅に出る。お互いに距離を置いて、平和にこの終末世界を生きていこう」


うさぎゾンビが肩を落とす。


「分かりました」

「じゃあ、インカムを返して」

「はい、どうぞ」

「目隠しはしばらく取らないでほしい。楠本から合図をしてもらうから、その後に外してくれ」

「わかりました」

「じゃあ伊藤さん、元気でな」

「佐藤です」


蔵五は楠本達の潜む高層マンションに向かう。インカムから楠本の声が聴こえる。


【A棟9階。904号室】

「はいはい」

【ちなみにエレベーターは動いていません(笑)】

「…まじか」


A棟の階段前までたどり着く。


「階段まで着いたぞー」

【じゃあ村田さん、そこまで来たらもう大丈夫だから。うさぎの佐藤さんに目隠しを外してどっか行って良いよ、って言うね】

「はいよー」


階段を登り終えた頃には、蔵五は息が切れていた。

904号室の中に入る。リビングルームに進むと、カーテンが閉じられた部屋に大鳥と楠本がいた。

大鳥が笑って言う。


「蔵五、お疲れだったな」

「うん、課長もお疲れ。楠本隊長、あんな感じで宜しかったでしょうか?」

「いいんじゃない?まあ、なんていうか、ごめん。ありがと」

「どういたしまして。でも、経験値は取得できなかったなー」


楠本が笑って言う。


「経験値よりも大切なものがあるよね。そう、ここ」


自分の左胸をトントンと叩く。

蔵五が答える。


「そうだな。乳首だ」

「そうハート…ハアっ!?なに!?セクハラ!?」


大鳥がため息をつく。


「さて、これからどうするかだが、ふたりは意見はあるか?」


蔵五が言う。


「とりあえず拠点に戻ろうよ。夜が来るまでに戻らないと。念のためここでしばらく時間をつぶしてからだけど」

「そうね。そうだ村田さん、本当に旅に出る?」

「いや、とりあえずうさぎの佐藤さんを遠くに行かせようと嘘ついたんだけど」

「ふーん。私に気になることがあってさ。話していい?」

「気になることって?」

「私の腹話術は、一度でも話した相手と腹話術ができる、になってる。これってもしかして、レベルカンストしてるんじゃないかな」

「どういうこと?」

「つまり神に話しかける事もできるんじゃないかな」

「…ええと?」


固まる蔵五と大鳥に楠本が言う。


「結論から言うと、ラスボス城の入り口の鍵が私なんじゃないかって仮定を立ててる。ええとね例えばさ、レベルアップのファンファーレあるじゃない。部長ゾンビの時って、なんてアナウンスされた?」

「部長ゾンビって、言っていたような」

「課長は?一佐ゾンビの時は?」

「一佐ゾンビだったな」

「詳しく知らないゾンビは自衛隊ゾンビとかOLゾンビ。つまりね、私たちの主観がネーミングの由来になっている。何かしら、私達の影響力がこの世界に働いていると言うこと。ならば、エンディングもリクエストできるんじゃないかな…」

「確かに。楠本、すげえな」

「まあ、あくまでも仮定だけどね。うまくいかないかもしれない」

「楠本のギャグスキルが実はエンディングへのラストピースだったとは…胸アツだな」

「はいはい。バグキャラ佐藤さんが近くにいたらイベント内容が狂うかもしれないし、夜にイベントが始まるのも危険だし。おねだり大作戦は明日の朝かな」

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