第22話 楠本はうさぎゾンビ捕獲を提案する
翌朝。
「ホー↓ホー↑ホホー→」
士官用個室で蔵五は目を覚ます。
自分の居場所が分からなくなり辺りを見渡す。枕元のウィルソンに気が付き、状況を思い出す。
ため息をひとつ付き、言う。
「おはようウィルソン。昨日はあまり相手をしてやれなくてすまんかったな。ちょっと出産してくる」
ユニットバスの電気と換気扇のスイッチを入れる。
トイレ、歯ブラシ、風呂を終わらせて、出てくる。
体を拭きながら言う。
「なあウィルソン、ここがゲーム世界だとして、これからどうなるんだろな。つまり、楠本の言うところのエンディング云々の話だよ。昨日の一佐ゾンビを倒しても、俺と楠本はレベルアップしなかっただろ?これってレベルカンスト間近なんじゃないかな。つまり、物語は終盤にさしか【村田さんおっはよー】うわびっくりした」
【起きてなかったらごめんねごめんねー】
「ホントこいつは心臓に悪いな」
【食堂でごはん食べてるから来なよ。課長もいるよー】
「はいはい、いきますよ。じゃあウィルソン、メシを食ってくる」
蔵五は自衛隊ジャージを自衛隊制服に着がえて、士官宿舎を出る。
幹部食堂に入る。普段着姿の大鳥と楠本が朝食をとっていた。ふたりとも赤飯とみそ汁を食べている。
大鳥が言う。
「おはよう蔵五、よく眠れたか」
「ばっちり」
「制服がよく似合っているじゃないか。凛々しいぞ」
「そんな事ないよ。でも、カッコいいから気に入ってる」
「だろ?自衛隊制服は格好いいよな。で、何食べる?お勧めは赤飯だ。レアメシだぞ」
「じゃあそれで。あ、ふたりとも青汁飲む?」
「ああ、貰うよ」
「私も青汁ちょうだい。村田さんはみそ汁いる?」
「欲しい」
3人で黙々と朝食を食べる。
青汁まで飲み終えて、楠本が言う。
「さて、作戦会議といきますか」
「「お願いします」」
「よし、じゃあ村田三等兵、状況報告からお願い」
「はい、隊長!拠点を確保したので、衣食住の安全は保障されました。ここからは積極的にゲーム攻略をすべきだと愚考します」
「よろしい。レベルも上がりにくくなってきたぽいし、そろそろラストスパートでしょうね」
「異議なし」
ここで大鳥が立ち上がる。
「作戦はお前たちに任せるよ。コーヒーでも飲むか?インスタントだけどな」
「私はブラックで」
「楠本は大人だな。俺は砂糖とコーヒーフレッシュ」
「よし、待ってろ」
大鳥が調理場に消える。
「さて、村田さん、次の目標はうさぎゾンビ撃破といきたいんだけど、トラウマは大丈夫?」
「大丈夫だ。怖くない…俺達には最終兵器があるからな」
「兵器?」
「課長だよ。銃火器無双だ。昨日の見ただろ?銃があればうさぎゾンビなんてザコキャラだよ。一気にヌルゲーになった。あとは油断して足元をすくわれないようにするだけ」
「なるほどね」
ここでトレーを持った大鳥が戻ってきた。
「ほれ、コーヒーだ。飲め」
「「いただきまーす」」
「俺はのんびりお前たちの作戦を聞かせておいてもらうよ」
大鳥がにこやかに言う。
コーヒー片手に楠本が言う。
「さてバグキャラうさぎの捕獲なんだけど、腹話術でおびき寄せる」
「それはいいんだけど、取り逃す可能性も考慮したほうがいいよな。せっかくの快適な拠点の存在をバラしたくない」
「その通り。だから、ここの近くにある公園におびき寄せる。公園は見通しが良いから、狙撃に向いてる」
「なるほどな」
「離れた高い建物からウサちゃんを狙撃、無力化する。いくら回復するとは言え、数発撃ち込んだら動けなくなるでしょ」
「お前、エグいな…」
「ふん、好きに言って。そして、私が指示役で課長が狙撃役。課長、いい?」
「了解。狙撃は得意だ」
「隊長、私は何をするでありますか?」
「村田三等兵は公園のトイレにでも隠れておいて。指示を出したら無力化したウサギちゃんを拘束する役」
蔵五が苦笑いをする。
「…なんか俺だけ危険じゃないか」
「課長と相談して、安全が担保されていると判断できた場合のみ捕獲の指示をだす。それなら良いでしょ」
「まあ、それなら」
大鳥が真剣に言う。
「蔵五、任せておけ。お前の安全を最優先するから」
「そうよ村田さん。絶対に安全だから!死なないから!絶対に生きて帰れるから!」
蔵五がため息をつく。
「わざとらしく死亡フラグを立てるな。俺は戦場から帰ったら婚約者と結婚する予定なんだぞ」
「なんだ蔵五、お前婚約者がいたのか?」
「いや課長、これは定番ネタなんだよ…」
その後、3人は詳細に作戦会議を立てる。
ひと通り打ち合わせが終わる頃、9時になっていた。
「じゃあ、お昼に再度ここで全員集合。それまで各自、作戦の準備をして。解散!」
「「はい!」」
大鳥が立ち上がる。
「銃器の整備は昨晩のうちに終わらせている。捕獲ネットを持ってくるから、蔵五はここで待っていてくれ」
「分かった」
蔵五と楠本が残される。
楠本は宙を眺めてぼんやりしている。
「何してんの?」
「うーん、ちょっと待って…よし、お待たせ」
「何してたの?」
「うさぎゾンビに話しかけてた。そこの大きな川の橋で待ってろって言っておいた。場所が分からなかったらコンビニで地図を貰えって」
「ああ、なるほど」
「そこからなら歩いて20分位の距離で近い。こっちの準備が整ったら再度移動の指示をする予定」
「やるじゃん。主導権を握ってるな」
「ダメダメ。来るか来ないかは向こう次第だから。さて、あとは色んなパターンを想定して作戦立てとくわ」
「頼んだ」
そこに大鳥が帰ってくる。
「捕獲ネットを取ってきたぞ。前庭で練習するか」
「お願いします」
蔵五と大鳥が前庭に移動する。
「俺も触ったことないから、説明書読みながら練習するか」
「じゃあ、ひとりでやっとくよ。課長は自分の仕事しといていいよ」
「なら、狙撃場所の偵察をしてくる」
「いってらっしゃい」
しかし、大鳥は立ち去らない。
訝しがる蔵五に、やがて深刻な表情で言う。
「なあ蔵五、楠本のことなんだが」
「楠本がなに?」
「あいつ、疲れてないか?無理してる気がするんだ」
「楠本が?何言ってんの、あいつのメンタルは最強だよ。ていうか、サイコパスの一種だからそもそもメンタルがないってば」
「いや、顔色も少し良くない気がする。昨日は眠れなかったのかもしれん」
「うーん。課長は楠本を甘く見過ぎだよ。俺達の隊長は強いよ。信じてやろうぜ」
「そうか。分かった、そうする」
釈然としない表情で、大鳥は去っていく。
蔵五は説明書を読みながら捕獲ネットを練習する。
やがて太陽が真上に来た。蔵五は捕獲ネットをストレージして食堂に向かう。




