第15話 蔵五は女子高生ゾンビとゴリマッチョゾンビを倒す
「ふたりのゾンビだ。ひとりは制服を着た女子高生。手にモップを持っている。もう一人はスキンヘッドの男。タンクトップを着てる。ゴリマッチョ」
「…からかってる?」
「からかっていない。ほら、鏡」
「…ホントだ。なんか漫画みたいな光景ね。キャラが立ってるわぁ」
2人のゾンビは日光を嫌がる様子もない。
また、動きがしっかりとしている。普通の人間と等しいと言える。しかし、蒼白な肌と濁った瞳はゾンビそのものだった。
しばらくキョロキョロとしたあと、並んでこちらに歩いてくる。
「来たぞ。じゃあ、楠本は腹話術で注意を引いてくれ。その後俺が飛び込んで、鉄アレイ2発で一気に倒す」
「おっけー。じゃあ、なに歌ってほしい?」
「モンゴル800。じゃあ、始めてくれ」
「オッケー」
『楠本歌いまーす。遠い宇宙の、数ある一つ』
自動ドアから楠本の歌声が響く。鏡の中でゾンビが足を止めて振り返るのが見える。
『フフフン、フフフ。フフフン、フフフ』
「歌詞を覚えてないのかよ!」
蔵五が飛び出す。その瞬間、タイミングよく女子高生ゾンビが振り返った。
「リリース」
その眼前に慣性鉄アレイをリリースする。
その刹那。
女子高生ゾンビは頭を傾けて、慣性鉄アレイを避けた。
「どんな反射神経してんだよ!」
女子高生ゾンビの姿勢が崩れる。
「リリース!」
崩れた先の頭をめがけて、再度慣性鉄アレイを放つ。
しかし、ゴリマッチョゾンビの手が伸びて、鉄アレイを受け止めた。
「まじか!?リリース!」
ゴリマッチョゾンビの頭に慣性鉄アレイを放つ。ゴツン、と音がしてゴリマッチョゾンビの顔に当たる。衝撃で後ろへよろけるが、すぐに体勢を立て直す。
『ほーら、あなたがいて。フンフンフ、フーフ』
「ストップ!楠本逃げるぞ」
「え?なに?」
「ほれ、急げ」
蔵五は楠本の手を取り、走り出す。途中振り返ると、ふたりのゾンビは並んでゆっくり歩いてきていた。
「走れないのか。よし、逃げ切れる」
「なに?強いの?」
「強い。鉄アレイを3つ消費した。でも、効かない。女子高生は避ける。ゴリマッチョは堅い」
「なんとなく分かった。つまり、回避タイプと守備力タイプって事?」
「そういう事。単体ならまだなんとかなりそうだけど、ふたり相手だと手数が必要になる。手持ちの武器はアイロンと鉄アレイ2つ…体重計とゴルフボールとゴルフクラブがある。あとエロい本もあるけどこれは関係ないな。まあ、いけるかもしれない」
「え?なに?エロい本?」
「はあ?聞き間違いだ。よし、迎え撃つ。止まるぞ」
ふたりは走るのをやめ、振り返る。
「リリース」
蔵五はゴルフクラブをリリースし、手に取る。楠本と並び立ち、2人でゴルフクラブを構える。
ゾンビ達が何かを言いながら歩いてくる。
「インターハイ…剣道」
「チョモランマ…肩」
「お父さん⋯タンクトップ…やめて」
「腹筋…6LDK」
「友達に…笑われる」
何かとよく分からなかったが、蔵五は女子高生ゾンビの剣道という単語に躊躇する。女子高生はモップを剣道の様に前に構えている。先端の掃除する糸部分が小刻みに揺れている。
あれは長尺の獲物だ。うかつに近寄れない。
「かわいそうな娘さん…父親がタンクトップで筋肉ひけらかしていたら、確かに友達に笑われるわ(笑)」
「楠本、後ろに下がってくれ。俺がしとめる」
「わかった。いざとなったら村田さんを置いて逃げるから、私を気にせず戦って」
「じゃかあしいわいっ!」
蔵五は深呼吸をして、気合を入れる。
「よし!」
親子ゾンビは並んで歩いている。
蔵五は突進する。ゾンビ達は歩みをとめる。
「リリース!」
1手目。蔵五は慣性アイロンをリリースする。301号室で仕込んでおいた、長距離用武器だ。電気コード分の長さを稼いでストレージしているから、遠い間合いからでも相手に届く。女子高生ゾンビの眼前にアイロン本体が現れる。今度はゴリマッチョゾンビがかばう余裕もない。
「ううっ!」
女子高生ゾンビがありえない反射神経で頭をそらす。
「ゴツっ!」
しかし避けきれない。アイロンが女子高生ゾンビのこめかみにあたる。よろめく。
「リリース!リリース!」
2手目。女子高生ゾンビに視線を向けているゴリマッチョゾンビの両膝めがけて慣性鉄アレイを2つリリースする。鈍い音を立てて鉄アレイが命中する。
「ごっ!ごっ!」
鈍い音を立てて、ゴリマッチョゾンビの両ひざ骨が破壊される。鉄アレイは落下し鈍い音を立ててコンクリートに落ちる。ゴリマッチョゾンビは膝をつく。
「リリース!」
3手目。よろめく女子高生ゾンビの足元にバナナをリリースする。女子高生ゾンビは滑って転ぶ。
「リリース!」
4手目。女子高生ゾンビの頭上に体重計をリリースする。体重計は女子高生ゾンビの頭に落下する。
「ごっ!」
鈍い音が響く。
「とどめ!」
5手目。蔵五はゴルフクラブをゴリマッチョゾンビの頭に、横薙ぎに叩き込む。
「ガンっ!」
鈍い音のあと、ゴリマッチョゾンビが倒れた。
「リリース!」
6手目。バナナをリリースして、皮を剥いて食べる。
「お見事!」
楠本が歓声を上げる。
そしてファンファーレ。
『テレレテッテッレー』
『女子高生ゾンビ撃破』
『おめでとうございます』
『スキル亜空間ロッカーのレベルがアップしました』
『容量が20kgから50kgになりました。』
『では、頑張って終末世界を生き延びてください』
「よっしゃ!レベルアップだ。楠本、そっちはどうだ?」
「私もレベルアップ!一度でも話をしたことがある相手に腹話術で腹話術をする能力」
「すごいな!課長に話しかけられるじゃん…いや、それ以外は役に立たなくね」
「村田さんは?」
「ストレージ容量が大幅アップだ。50キロまでストレージできるようになった!」
「すごいわね!」
「うん!ところで、楠本の体重って何キロだっけ?」
「よわじゅうは…52キロでーす」
「よんじゅうはちかぁ。そうか、48かぁ。ふーん」
にじり寄る蔵五。怯える楠本。
「きゃああああ。近寄るなぁぁぁ。私をストレージする気なんでしょぉぉぉ。セクハラぁぁぁ。エロぉぉ。死ねぇぇ」
「とまあ、冗談はさておき」
「ハァハァ…なに?」
「ゴリマッチョゾンビ撃破のファンファーレが来ないよね?」
「…ホントだ」
二人はゴリマッチョゾンビを見る。ゴリマッチョゾンビの両膝と頭から湯気が上がっている。
ゾンビが言う。
「仕上がってるよ…」
蔵五と楠本は顔を見合わせる。
「村田さん、これって自動HP回復タイプなんじゃじゃないの?武器は?」
「ゴルフボールとゴルフクラブだけだ。あとエロい本もあるけど」
「エロ?なに?」
「はあ?聞き間違いだ。ほら楠本、ゴリマッチョの足元の鉄アレイを取ってきてくれ。あれでトドメを刺す」
ゾンビが起き上がろうともがいている。
「プロテイン…」
「いやっ!今度はなんかプロテインとか言ってるしっ!絶対にいやっ!」
「チッ!俺も嫌だっつーの。じゃあなんかつかえそうなものは…」
隅に放置されたショッピングカートがある。
「リリース」
蔵五は301号室でストレージしたビニール紐をリリースする。紐をショッピングカートに結ぶ。
「ストレージ」
ショッピングカートがストレージされる。
「ちょっと村田さん、早くして。なんか生理的に嫌なのよ」
「お待たせ。リリース!」
ゴリマッチョの頭上にショッピングカートが現れる。重力に従い落下し、ゴリマッチョを押しつぶす。
「ゴスッ」
「ストレージ、リリース」
「ゴスッ」
「ストレージ、リリース」
「ゴスッ」
「ストレージ、リリース」
「ゴスッ」
「ストレージ、リリース」
「ゴスッ…」
『テレレテッテッレー』
『ゴリマッチョゾンビ撃破』
『おめでとうございます』
『スキルストレージのレベルがアップしました』
『ストレージ容量が50kgから71kgになりました。』
『では、頑張って終末世界を生き延びてください』
「オッケー、レべルアップ!楠本はどうだ?」
「こっちは今回、何もなし」
「そっかぁ。残念だな。ちなみに俺は、ストレージ容量が71キロになりました」
「ふ、ふーん。71って、中途半端な数字ねぇ」
「楠本さんは体重52キロだったよねぇ」
「ヒィィィ。あっち行けぇぇぇ」




