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第14話 蔵五と楠本はモールへ行く

楠本は自分の味噌汁コップで粉末青汁を作り、不味そうに飲む。


「301の部屋は鍵が開いてたの?」

「窓が空いてたから、ベランダから侵入」

「ふーん」

「で、どうする村田さん。今日の予定は?」

「やる事は考えている。説明するから、紙とペンを貸してくれ」


フロアガイドを見ながら、まず紙に店内の略図を書く。そこに矢印で経路を書いていく。


「まず入り口はここ。そして、入ってすぐにスポーツ用品店があるから、ここで武器の鉄アレイをストレージする」

「オッケー、続けて」

「よし。楠本には、あらかじめ一階で腹話術の準備をしてもらう。外で身を隠しながら、腹話術で音を出してもらう」「どういうこと?」

「日光耐性のレアゾンビをおびき寄せるんだ。モール内は明かり取りの窓が天井にある。だから、中にはノーマルゾンビが歩いていないはずだ。日中は光を避けて奥の方に隠れているだろう。そいつらは後で倒すとして、まずはレアゾンビをおびき出して、つぶす」

「なるほどね」

「レアゾンビの数や強さが分からないから、流動的にならざるを得ないな。不本意だが、仕方ない。俺がストレージで倒すから、楠本は周囲の警戒を頼む」

「おっけー」

「そして、レアゾンビ狩りを終えたら、いったん外へ。こちらの入り口から再度モール内に入場して、2階の電気屋さんへ。ソーラーパネルとポータブル電源を貰おう」

「いいわね!電気があったらQOLが爆上がり」

「そして、1階には食料品コーナーと100均があるから、欲しいものがあれば貰おう。海苔とふりかけとかあったらQOLが爆上がりしそう」

「私は鮭フレーク瓶が欲しい。あと、レトルトのおしるこ」

「天才かよ。あと、バナナだ」

「またバナナ?」

「遠足にバナナはつきものだ」

「おやつはバナナに含まれますか、って奴ね」

「逆。バナナはおやつに含まれますかだよ。そして、ザコゾンビ狩りをするか、この時に決めよう」

「多分、疲れていると思う」

「だよな。楠本の話を聞くかぎり、ザコゾンビの経験値はおいしくないみたいだから、無理はしないでいい。あと、服屋さんはないかな。着替えがほしい。モールの服屋はにおいが服に移ってそうだから、避けたい」

「あるわよ。モールの近所」

「オッケー、モールのあとに向かおう。あと、余っている歯ブラシはある?」

「ない。モールでもらって行こう」

「そうだな。じゃあ、行こうか。俺は拙速を尊ぶ」


楠本のゴルフクラブを蔵五がストレージする。

2人はリュックを背負う。

楠本が言う。


「じゃあ行くぞ、村田三等兵」

「はい、楠本隊長!」

「じゃあハルちゃーん、お留守番お願いねー」

『ママいってらっしゃーい』


注意深く302号室を出て鍵をかける。

楠本は自転車を持っていた。2人でキョロキョロしながら自転車を漕ぐ。少し風が強い。東からの風が向かい風となる。


「なあ楠本、元の世界に戻ったら何がしたい」

「二次げ…焼きたてパンが食べたいかな」

「いま二次って言った?」

「はあ?村田さんは耳が腐ってんじゃないの」

「耳が腐るって、アンドリューことでしょう」

「くっ!…とりあえず、今日は帰ったらパン手作りしようか。小麦粉とイースト菌があったらパンって作れるんだったっけ」

「知らん。でも、小麦粉とかはもらっていこう」


5分後、ショッピングモールの前にたどり着く。

中規模のモール。地域住民は休日にここで時間をつぶす。

入り口は南側に二カ所ある。

楠本がゴルフクラブを握りしめる。蔵五は手ぶらだ。

入口天井には監視カメラがぶら下がっている。

2人は1階の自動ドアを開ける。中に入り、閉める。遠くから悪臭がする。一階奥の食品売り場か、2階のフードコートからだろう。

足音を立てないようにゆっくり歩く。

中央には吹き抜けとエレベーター。天井の側面窓から差し込む日光で、吹き抜け付近は明るい。

入ってすぐ右にスポーツ用品店がある。店内の奥は日光が届かず薄暗い。

小声で打ち合わせをする。


「予想外に暗いな」

「懐中電灯はあるけど。それとも引き返す?」

「そこまで暗くはない。このまま行こう」


入ってすぐにレジがある。特売品のゴルフボールが置いてある。蔵五がそれに視線を奪われる。


「ゴルフ始めたいの?」

「いや、興味ない。球でゾンビは転ぶのかな、と思って」

「普通に転びそうだけど」

「だな。でもこれは直径が長い。かさばるし、踏まずに蹴っ飛ばされそうだ。まあ、10個ほど貰って行こうか」


レジを過ぎて見回す。左側に筋トレコーナーがある。


「鉄アレイ発見!村田さん、私が選んでいい?」

「どうぞ」


蔵五は2キロの鉄アレイを5つストレージする。


「よし、行こう」

「おっけー」


レジ横にペットボトルのスポーツドリンクがある。楠本が2本を取る。

忍び足で入り口にもどる。陽光の中、鉄アレイをリリースする。そして、慣性をつけてストレージし直す。

2人はスポーツドリンクを飲みながら小休止を取る。

蔵五が言う。


「思い出した」

「何を?」

「高校の時、近所のスポーツ屋に鉄アレイを買いに行ったんだ。高いのと安いのがあってさ、店員に違いを聞いたら、高いやつのほうが鉄の素材がいいから、高いのを買った方がいいって」

「それで?」

「素直に高いやつを買って帰った。トレーニングしながら思ったんだけど、よく考えたら、高くても安くても重さは変わらないよな。安い方にしとけばよかった」

「ふーん」


しばらくの無言の後、雲ひとつない空を見上げて楠本が言う。


「太陽って、いいね」

「俺も思った」

「終末世界でも、太陽は変わらない」

「うん」


また無言で空をみあげる。

楠本が言う。


「さて、レアゾンビ狩りをそろそろやりましょうか。具体的にどうするの?」

「大した作戦はないよ。まず、ここに隠れる」


蔵五は入口付近に置かれた岩のモニュメントを指さす。


「そして、これでなかの様子を確認する。リリース」


蔵五は手鏡をリリースする。


「鏡に映すということね」

「そう。じゃあ、始めようか。あと、ゴルフクラブを持っておいてくれ。リリース」


ゴルフクラブをリリースして、楠本に渡す。


「じゃあ頼む」


開かれた自動ドアから楠本の腹話術の歌声が出てくる。


『もっしもっし亀さんよー。世界でお前ほどー。歩みの者はないー。どうしてのろいのかー』

「…なんか歌詞を端折ってないか」

「面白いでしょ?ゾンビも爆笑してんじゃない?」


そしてふたりとも黙る。蔵五が鏡で様子をうかがう。


「来た」

「ゴクリ」


蔵五が小声で言い、楠本はつばを飲み込む。

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