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第10話 蔵五と楠本は推理する

小雨の中、蔵五は自転車のペダルを踏む。

あと5分程度で楠本の家へたどり着ける。


「ウィルソン、ほら見ろ。ショッピングモールがある」


右の山手側に大型ショッピングモールがある。


「楠本の奴、いい場所に住んでるな。めちゃくちゃ買い物に便利じゃねえか」


5分後、雨がやむと同時に目的地にたどり着く。楠本の住む3階建のマンションだ。各階に2部屋ずつ、合計6部屋ある。築は古く見える。

念の為慎重に階段を登る。ゾンビは潜んでいない。

302 号室の前にたどり着く。表札には『楠本稲穂』と書いてある。ここで間違いない。


「ピンポンピンポンピンポンピンポン!」


連打した後、後ろに後ずさる。


「ああっ!うるさいっ!やめろっ!」


蔵五の前で勢いよくドアが空く。楠本が現れた。


「村田さんってばさあ、何してくれんのよ」

「嫌がらせ」

「はいはい分かってます。どうぞ入ってください」


中へ招かれ玄関で靴を脱ぐ。

玄関入ってすぐにキッチン。その奥に1部屋。ドアがあり奥にもう1部屋あるようだった。とても整理整頓されている。


「へえー。まるで女性みたいな部屋じゃないか」

「うるさい。そうだ、奥の部屋にははいらないでよ。セクハラで訴えるから」

「はいはい」

「濡れてるじゃない。風呂にはいる?」

「そんなに濡れてないよ。それに、防水の服だから大丈夫」

「はい、タオルどうぞ」

「ありがとう。じゃあ、近況報告も兼ねていくぞ。リリース」


テーブルの上にワイン2本とビール1本、袋ナッツ、化粧水をリリースする。


「俺のスキルは亜空間ロッカーだ。亜空間に収納する。」

「すごいわね。カバン要らずじゃない」

「だろ?ストレージで収納して、リリースで取り出す。じゃあ楠本はビールでも飲めよ。俺はワインをもらおうかな」


楠本はビールを人さし指で弾いた。

ビールから声がする。


『私のスキルは腹話術。今日はゾンビ狩りはやめて、飲みながら作戦会議といきましょうか』

「そうしよう」


楠本が台所からグラスを取ってくる。ひとつを蔵五に渡す。

そして自分のビールを空ける。


「ぷしゅっ!」


ビールが勢いよく吹き出し、楠本の顔にかかる。


「よっしゃあああ。シェイクしといたんだ」

「…あんたねえ、小学生じゃないんだから。ガキ」


楠本はタオルを取ってきて、自分と床を拭く。


「じゃあ、改めて乾杯」

「乾杯」


楠本がナッツ袋の中身を皿に出しながら言う。


「村田さんも色々考えてるでしょうし、手っ取り早く行こうか。さて、ここの世界は映画のセットみたいな物ね。これについてどう思う?」

「同意する。確定事項として扱っても問題ないはずだ。雑すぎる」

「だよねえ。ゾンビパンデミックなんてものがあれば、高確率で火事が起きてるはずだし、消防も機能しないからどんどん延焼するはずだし。不自然に平和なものよ」

「あと、ゾンビの量も少なすぎる」

「そう。人口を考えたらありえない少なさよね。わざと雑に作ってるのかもね」

「わざと?ああ、なるほど、神からしたらヒントのつもりって事だな。むしろ気付いてほしいって事か」

「難易度調整の意味もあるかもだけどね。火事とかゾンビの大群とかで簡単に死なれたらかなわないとか。まあ仮定でしかないけど、神がタヌキなのは間違いない」

「タヌキといえば、神がライオンがどうこうとか、人をランダムに選ぶとか言ってたな。あれも一切信用したらだめだよな」

「マジでそれ。あ、ポテチ食べる?」

「食べる」

「はいどうぞ。じゃあ次は、スキルを与える人間はランダムどうこうの件ね。まあ、これも嘘でしょうね」

「任意で選ばれている」

「そう。町には他の人間は見当たらない。村田さんは見た?」

「見てない」

「そう。これから現れるかもしれないけど、とりあえずこれ前提で推測を進めましょう」

「そうだな」

「さて、同僚だった私とあなたがふたりだけ生き残っている。これはたまたまじゃない。もし偶然って言うなら天文学的な確率になってしまう。だから我々は舞台で踊る役として、任意でノミネートされた存在である。オッケー?」

「オッケー。その調子で続けてくれ」

「さらに私たちふたりの共通点、ブラック企業を辞めた同僚ってことを考えると、他には課長あたりもノミネートされてそう」

「御名答。すれ違ってるけど、存在は確認してる。ここで合流するはずだ」

「オッケー。舞台の演者は私たち三人てしょうね」

「ここは断定を避けておこう。リリース」


蔵五はバナナをリリースし、食べ始める。


「バナナ食べる?」

「いらない」

「おいしいのに…ストレージ」

「ええ?バナナの皮を収納するの?捨てないの?」

「うん。意外と役に立つんだ。さて、レベルアップとかスキルとかについて話そう。これはゲームそのものだ。この点でも、神のゲームという仮定はかなりの信憑性を持つ。どうかな」

「同意する。で、この仮定が正しいとして…その、なんていうか、目標というか」

「エンディング?」

「そうそう、エンディング。神の望むエンディングは何なのか。そこなのよねぇ。まあ今は情報量が少なすぎるから…とりあえず村田さんは倫理観とか言ってないで、レベルアップしないと」

「別に倫理観とか言ってないだろ」

「どうせひとりで言ってたんでしょ」

「ふん、正解。しかしまあ、レベルアップシステムがある以上、エンディングにたどり着く為にレベルアップはマストなんだろうなあ。ショッピングモールでゾンビ狩りとかやるかねぇ。あ、羊羹食べる?」

「食べる」

「リリース」


楠本は新しい皿を持ってきて羊羹を取り分ける。

楠本が言う。


「ねえ。私達のこの会話も、神は聞いてるかもよ」

「確かに。実験する?」

「しよう。じゃあ、実験スタート。おーい神様ー。聞こえるかー。アホー」

「くっくっく。もっと言ってやれ」

「神じゃなくて、運営ですかー?ゲームマスターですかー?とりあえず返事してくださーい」

エンディングまでの予約投稿が完了しました

5月初旬で完結です

完結まで毎日17時投稿です


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