s,28『ニートな薬師と神棚とケセラセラ』
投稿遅れてすみません
とある日の昼過ぎ
木崎は警備係長のワグドと共に痛む脚を引きずりながらとある部屋の前まで来ていた。鎮痛薬を貰いに来たのだ。
何でもこの部屋にはマミヤの船医兼薬師がいるらしいだが、医務室かと聞いたら『あんな汚ったない。所が医務室でたまるか』と言われた。それに木崎の脚から弾を取り除いたのはユエさんだった。
-この船の船医は何やってんだ?-
「・・・こんな所あったんだ。」
「お前が設計したんだろ?」
ワグドが軽くツッコミを入れる。
設計したのは大まかな構造だけで、実のところ木崎が知っているのはせいぜい船室の数とトイレの位置くらいだった。
「まぁそうなんですけど・・・ところでさっきから気になっていたんですが、持ってるそれ何です?」
「ん、これか?破城槌だ。」
そう言ってワグドが持ち上げたのは先端が金属に被われたトイレットペーパーより一回りほど太い長さ1メートルほどの取っ手のついた丸太だ。
「いや、それは知ってるんですが・・・なんでそんなもんが必要なんです、この中にテロリストでも居るんですか?モンスターでもいるんですか?」
すごく不安だ。
破城槌とは衝角とも呼ばれ、投石器などと同じく古くからある攻城兵器の一つで、巨大な丸太や金属の棒などを使い、振り子の要領で城の門や壁を破壊する。
攻城兵器として使われた大型の破城槌は中世後期には姿を消し始め、大砲などに取って代わられたものの、現在でも今ワグドが持っているような小型の破壊城槌は各国の軍や警察で使用されている。
「まぁ、この部屋はコレがないと開かないからな。モンスターってのもある意味間違いじゃない・・・・・かな?」
「は?」
ますます意味が分からなかった。ドアに鍵がかかっている様子も歪んで開かなくなっている様子もない上に、この船は造ってまだ二週間も経っていない、何故そんな物がいるのか?
「おーし、開けるから離れてろ。」
「ちょ、待って」
ワグドは破城槌を持ち直すと、重心を後ろに下げて勢いをつけてからドアを躊躇いなく打った。
「いっせーのーせッ 」
-ドカッ-
「さ~ら~にッ」
-ドカッ-
「もう一丁っ」
-バキッ・・・-
謎のかけ声と共に破城槌でドアを突くこと三回、木板が折れる音と同時にドアが勢いよく開いた。ブワッとホコリが舞って咳き込んだ。
「ゲホゲホっ・・・なんだこりゃ!?」
「ゲホ・・・おいコラ起きろォ!アルコホリック・モンスターっ!」
ワグドが怒鳴り、どんな奴が出て来るのかとドアから少し離れて身構える。
「・・・ん、なんじゃ?朝っぱらから騒がしの~」
しばらくして煙幕のようなホコリが収まり始めた時、部屋の奥から声が聞こえた。
汚い部屋。
この船は完成してから1ヶ月経っていない、なのに部屋はカビと埃と蜘蛛の巣の集合体となっており、テレビでみたアニメ映画の風の谷のなんやらのでっかいダンゴムシを思い出す
ドアの縁に色々張り付いているなかなか開かなかった原因はこれらしい
もしここが爆発的感染 の発生源だと言われても疑わないだろう、むしろ否定する方が難しい。
布団からムクリと起き上がったその声の主は見た目10~12歳、メグと同じくらいの少女だった。
碧眼に金髪のおかっぱ、服装は洋服と和服を足して2で割った感じの服だ。ベロンベロンに酔っ払っており、まさにアルコホリック・モンスターだ。
今更だが、平均寿命の短いこの世界では15才から成人とされる、さらに、飲酒に関する法律は国によってまちまちで、基本的に子供でも飲むことがあるらしい、ただし自己責任で。
「もう昼過ぎだ・・・お前には昼も夜も関係ないだろうがな。」
ワグドが呆れたように言った。
「あ、あのこれはなですか」
「コイツはキリナこの船の薬師だ。だが見ての通り仕事せずにアルコホリック・ヒキニートだ・・・まったく。」
「無礼ではないか!アルコホリック・ヒキニートとは!それが753年の時を生きる人生の大先輩に対する態度かっ!」
ワグドの雑な説明にキリナと言う名の少女が吠える。
「753年?」
「ああ、儂は753年の時を生きる不老長寿の身を持つ女じゃ・・・同志として覚えておけ」
「本当ですか?」
普通、幼女に『753年生きてます。』なんて言われても信じる事なんてないが、港街アルメリアの銃砲店、銃煙の店主は500歳でピンピンしている、この世界では見た目と年齢が比例しているとは限らないのでその人への対応に困る。
「俺はこの船で生まれたんだが・・・・・753年が本当かどうかは分からんが、少なくとも俺がガキの頃から頭も体も成長していない。一ミクロンたりともな」
-超古代ロリババアじゃねえか-
「誰が超古代ロリババアだ、同志と言えどはっ倒すぞ!」
「え?」
「あと、コイツは読心術が使えるらしいから気をつけろよ」
「マジで!?」
ついタメ口になってしまう
それと、なぜかこのキリナという少女(?)木崎を同志と呼ぶ。
勿論、アルコホリック・ヒキニートの同志になった覚えなどない。
「あと、コイツには敬語を使う必要はないぞ、何万年生きていようとアル中ニートに年功序列の優位権なぞ認めん」
「はい、」
という事なので、警備係長の言葉に従ってこれからはタメ口でいこうと思う、
「ところで同志よ」
「なに?」
「いきなり容赦なくタメ口とは・・・・まぁいい、今のおぬしにぴったりな物をやろう」
そう言ってキリナは背後に山積みになったガラクタの中から何か取り出して見せる
「何・・・これ?」
「もうこれ以上ガラクタを増やすな・・・・・溜め込み早く治せ」
「コレクションと呼べ!これはカミダナと言ってな、わし40が年程前に見つけた異国の物じゃ」
渡されたそれは日本の神棚だ木崎の実家にも飾ってある、
そんな日本を思い出せそうな物を貰ったのだが・・・・あんまり嬉しくない、
こんなもの貰ってもどうしようとない、というのもあるが一番はあちらこちらにカビが生えており、衛生的によろしくない事だ。
全体的に黒、茶色、深緑のカビで迷彩柄みたくなっている上に側面からは謎のホワホワな綿毛が生えていて白い粉を振り撒いている、
臭い、潔癖症なわけではないが限度はある、一刻も早く焼却処分したい。すぐに機関室のボイラーに放り込もう
「焼却炉に入れるなど考えるでないぞ?それはいつかおぬしの危機を救うからな」
「は?」
「おぬしは・・・・人を殺めたことを気に病んでおるだろ?頭では仕方ないと分かっていても納得できぬところがあるんじゃろ?」
「・・・・・」
いきなり言われた事だが、図星だった。
『仕方ない』頭では理解しているつもりだが自分で思うそれは何か言い訳にしか聞こえない。いや、言い訳だ。だがそれ以外の言い訳が見つからない。
「人は何故、神様を信じると思う?」
「?」
いきなりそんな事聞かれても困る、木崎も例外なく現代の日本人はほとんど無神論に近い、神様を信じる理由なんて中学の社会科で世界の宗教について習って以来考えた事もない
「まぁ、どう考えるかは人それぞれだが、わしは安心する為と考える。例えば地震や津波、自分等の力ではどうにもならない事態が起きて不安になった時、その不安を和らげる為に人は神様に頼る。神様という存在はある種の精神安定剤という側面もあると考えている」
「つまり、どうしろと?」
「そのカミダナを精神安定の為に使うのもアリじゃと言うておる」
「・・・・」
「『それでいいのか?』と思うとるな。別にわしはずっと逃げ続けろと言っとる訳ではない、そのカミダナに祈りを捧げて殺めた者達が救われると信じろ、それと向き合えるようになるまでな、つまりヒット&アウェイじゃ。」
割といい話だった
本当にに自分の事を考えて言ってくれているのならその言葉はしっかりと受けよう、と木崎は思った。
「あと・・・・おぬしの仲間が近いうちに色々大変な事になると思う・・・・その時は金髪の言霊男を頼るが吉じゃ」
キリナが付け足すように言った
「はい・・・?何を根拠に」
金髪の言霊男、アールの事だろうか?というかそんな事を言う時点でもうすでにフラグが完成している、本当にこの世界には爆弾フラグ人間しか居ないのか?
また何か起こるのか、考えると今から胃が痛くなる
何度も言うがこの世界、フラグの実体化率が妙に高いのだ、主に悪い方向で・・・・
「勘じゃ、まぁ気を抜くな」
「は、はい・・・・、」
「ところで薬を早く出してくれ、俺はこんな汚い所に居たくないんだが」
ワグドが本来の目的を言って軌道修正をする。
「薬ならもう既に渡しておるわ」
「え?」
「鎮痛薬であろう?そのカミダナの横に生えている綿カ・・・・植物性ケセラン・パサランがそれじゃ」
-今この人、綿カビって言いかけたよね?ねぇ?-
「ま、まぁ鎮痛薬は渡した、用が済んだらな出てった出てった・・・・」
木崎とワグドは追い出された
「あの話、役に立ったか?」
ふとワグドが言った、なんとなく優しい声で
「なんとなく・・・・ですかね、アール(?)のくだりは全く分かりませんでしたけど、」
「そうか。」
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その後、神棚を棄てるのも罰当たりかと思い、きれいに洗って自分のロッカーに飾ることにした。
棉カビ、ではなく植物性ケセラン・パサランに関してはこの話を聞いたアールが悪戯で飲み物に溶かして結果それを飲んでしまった。
それから偶然か必然か、脚の痛みは引いていった。
棉カ・・・ケセラセラで治ったと思うと何か悔しいが、ともかく結果オーライだ、




