s,27『罪悪感。』
諸事情により、しばらくの間投稿を休止させていただきます。ですが、蒸発はしないのでよろしくお願いします。
(気まぐれで投稿するかもしれません。)
「ふぅ~、何とか終わったなぁ。」
ハスコック船長は海図の広げられたら机の上に腰をかけて言った。
「はぁ・・・また船壊れましたね。護衛も失敗しましたし、どうします?船の修理費。」
ユエは世知辛い現実を突きつける。
その時ガチャンと扉が開き、アールとラルゴに支えられながら、木崎が入ってきた。
「おお、木崎!脚は大丈夫か?」
聞きたくない、考えたくないと言わんばかりにわざとらしく話を変える。
「はい、まぁ・・・」
「ユエ、糸と針の準備だ、弾を取り出すぞ。」
「はい、分かりました。で、修理費どうします?」
「明日には港に着くからな、」
「修理費」
ユエの追撃は続く。
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その後
木崎は船内のトイレに籠もっていた。
吐き気がする、さっきから何度も。ここ任務が始まってからこればかりな気がする。実際に何度か吐いた。
脚は動かないように木の棒と包帯で固定されている。この世界には残念ながらゲームのような治療魔法も無ければ麻酔薬も無い。脚にめり込ん弾の摘出と傷口を縫い塞ぐのに苦痛を伴い、何度も失神しかけた。
吐き気の原因の一部だが一番大きいのはそれではない。
一番大きいのは人を殺したこと。
ダクロトールの船に突入した際に海賊の青年を撃ち殺した。その罪悪感は正当防衛などで割り切れるものではなかった。
人型のネイヴを撃った時は見た目が真っ黒のマネキンみたいだったので射撃訓練の的を狙っている感覚だったが、今回は全く違った。
あることを思い出した。
自衛隊に入隊して一週間か二週間ほとだったと思う。初めて銃を渡された時、教官に言われたこと。
初めてそれを持った時は興奮した、それはその場にいた殆どの人がそうだったのではないかと思う。銃刀法のある日本において一般人が実銃に触れる機会など皆無に等しい。
銃を持った時の感想は「以外と軽いし、オモチャみたい。」だった。
だが、教官の放った次の言葉で皆が凍りつく。
『これは自衛隊の誇る八九式小銃だ、殆どの奴は実物を見たのは初めてだと思う。テンションが上がるのも分かる。だが、これだけは覚えておけ、お前らの持っている鉄とプラスチックの塊は・・・』
だんだんと教官の顔が険しくなる。
『指一本で人を殺せる。』
ずっしりと重い響きだった。
当たり前と言えば当たり前のことだ。それが出来なければ役に立たない。
だが聞いた瞬間、手に持っている塊がオモチャには見えなくなった。
銃は人を簡単に殺せるという当たり前を実感し、それが恐怖に変わった瞬間だった。
銃を持つこと、撃つことにはそれなりの注意と覚悟がいる。一般人がいきなり銃を持って大活躍出来るのは映画やアニメだけの話だとわかった。
「キザキぃ~、ベンジョイしてるか?」
上から声が聞こえた。見るとアールが個室のドアの上から進撃のナントカのように頭だけを出していた。
「何だよベンジョイって、便所とエンジョイをかけるな。」
「いいツッコミだな・・・ところで後からジワジワ来るだろ?」
「ああ、本当に。ある程度覚悟はしてたがキツいな。」
例えるなら、四隅に火をつけた折り紙が段々と中心へと小さくなっていく感じだろうか?ゆっくりと実感と罪悪感が押し寄せて来る。
「ひとつアドバイスを与えよう。」
「何で上から目線なんだ?」
位置的にも態度的にも上なアールにイラッとしたと同時に疑問を抱いた。
「まぁ、それは俺の方が長いこと此処で働いているしぃ~要するに俺はお前の先輩だ。」
「俺が班長でお前が班員、どうだ?後輩に立場的に抜かれた気分は?(嗤)」
「う、うるせぇ!(嗤)はヤメロ、そっちこそ年下の女の子にお姫様抱っこされたじゃねえか、ヒゲ姫さんよぉ!」
「ヒゲ姫言うな!あ、あれは不可抗力だろ!」
かなり低レベルな言い合いをしばらく続けたあと、アールが唐突に切り出した。
「ああもう、埒が明かねぇ。そのアドバイスってのはなぁ・・・人を撃つ時は何も考えるな、ディス・コネクトだ。」
ディス・コネクト。
直訳すれば『遮断する。』だが、この場合は『前頭葉を切り離せ。』という意味になる。社会性を司る前頭葉を切り離して相手のことを考えるな。要は『冷酷になれ』である。
特殊部隊員がテロリストをためらいなく射殺でき、その後罪悪感に潰されないのはディス・コネクトができているから。生きるか死ぬかの極限状況ではそれが運命を分ける。冷酷であるが、残虐と言うのは少し違う。
「まぁ、安っぽいアドレスかも知れんがこんな仕事だ、それができなきゃ生きていけない。」
そう言うと、アドバイスが終わったのかアールはトイレから出て行った。
『生きるため。』責任転嫁かも知れないが、それ以上の答えが見つからないのも事実。
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次の日、怪我をした木崎、ラルゴ、マナの3人はそれが治るまで保育室にて働く事になった。
「人手が足りなかったので助かります、でも怪我してるんですから無理しないでくださいね。」
エレナが子供たちの遊び相手をしながら言う。
子供の人数は16人、5歳~12歳まで、それに対してベビーシッターがエレナ、ユエの2人。だが、ユエは船長の秘書としての仕事もあるので実質エレナ1人。これにはビックダディも真っ青だろう。
ちなみに1歳~4歳の子供は親が直接面倒を見て13歳になると船の船員として働くらしい。
「そう言えばメグはあれからどうです?」
相変わらず部屋の隅っこで本を読んでいる。
メグは少し前まで人に対して不信的だったが最近は友達もできているらしい。だが、やはり見守る側としてはまだ心配なのだ。
「はい、何時も本を読んでいますが、年下の子たちの世話もするようになりましたし、同年代の子たちとも仲良くしています。」
「良かった。」
それを聞いて一安心する。
「キザキ~!見てみて、かわいいでしょー」
パタパタと近づいてきた6歳くらいの女の子が頭にある小さな貝殻が付いている髪飾りを見せる。
「お、似合ってるね、かわいいよ。」
手伝ったり、愚痴を聞いてもらうために一週間に2回くらいのペースで保育室に来ていたおかげか、この数ヶ月で木崎は子供たちにかなり懐かれていた。
「子供ってやっぱりかわいいな。」
「キザキってそういう趣味なんだ。」
木崎の独り言を聞いたラルゴが酸っぱそうな色の柑橘系のミックスジュースを飲みながら冷たい目線を向けて言った。
「ち、違うわ!俺はあくまで、純粋とか無邪気って意味で言ったのであってだな・・・」
「まぁ趣味は人それぞれだ・・・ロリザキ班長。」
「ロリザキ違う、キザキだ!!あと、照れ隠しで暴力を振るうのは止めろ!」
自分でも多少は気にしているのか、そう言い返した途端にラルゴは顔を赤くして全身でぷるぷると震えだした。
「お、また殴るのか?」
少し煽ってみると、ラルゴは机に置いてある飲みかけのの柑橘系ミックスジュースを手に取り、木崎の怪我をしている方の脚にぶっかけた。いくら包帯を厚く何重にも重ねて巻いているとは言え、コップ一杯分の液体を吸収出来る筈もなく、
無論、柑橘系の汁は目や傷口に入るととんでもなく染みて痛いわけで・・・
「ダイレクトビタミン摂取ッッ!!!!」
思わずそう叫んだ。
「ああ、ゴメン手が滑った~(笑)」
「ラルゴ・・・てめえ・・・覚えてろよ・・・」
まさかこれまでの人生でトップ5に入る程の痛みを1日に三度も味わうとは夢にも思わなかったし、いつか絶対に仕返ししてやると心に決めた。
「あれ、マナはどこ行った?」
気付くとマナが見当たらなかった。アールと違って勝手に仕事をサボるような性格ではないので、何か他にやることでもあったのだろうか?
「マナさんならさっきから10分近くトイレに・・・」
エレナがトイレの方を見ていった。
昨日トイレでゲロゲロと滝のように吐いていた自分を思い出して心配になったので声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「は、はい・・・大丈夫です・・・少し気分が悪いだけです。」
明らかに大丈夫ではないが正直どう対応すればいいのか分からない。そんな事を思い、戸惑っていると、不意にラルゴが言った。
「1カ月経ってあの調子なら・・・この仕事辞めさせた方がいい。」
「どういう事だ?」
「キザキも気を付けて。」
それだけ言うと、質問に答えずに保育室から出ていく。
「えー・・・何!?」
只々不吉だった。
誤字脱字は見つけ次第に修正致します。




