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s,24『風船が上がるまでの受難。(一)』

誤字脱字、矛盾点は見つけ次第修正致します


 「急げ、アイツら保たんぞ。」


「さっきの俺らみたいに釘付けにされてんだろうな。」


木崎とアールは銃を持ってバカみたいに入り組んでいる船の通路を走る、行き先は後方甲板だ。


正体は判らないが、さっきの衝撃は明らかに砲撃によるものではなかった、後方甲板にはラルゴとシルフィとマナがいた。上手く逃げていればいいが、あの空間を塗り潰すような濃密な段幕、物陰に釘付けにされているのは確実。木崎とアールがあの砲火の中を無傷で抜け出せたのは奇跡に近い。運が良かったからだ。


「釘付けで済めばまだマシな方だ。最悪は・・・」


その先の言葉は呑み込んだ。言霊の恐ろしさはアールのおかげで腹一杯味わっている。


「その先言うなよ。絶対。」


アールが走りながら言う。


「オメーにだけは言われたくないわっ!」


いつも誰のフラグがトラブルの発生源なのか自覚していただきたい。


後方甲板の出入り口に着くとシルフィがいた。


「二人は?」


「あそこに、二人とも怪我してる」


シルフィは20メートル程先にあるクレーンの残骸を指差した、さっきの衝撃ど倒れたのだろう。その残骸の間に挟まる様にしてどうにか隠れている。


「2人とも大丈夫かーーー」


木崎は2人に呼びかける。


「少し怪我をしましたがなんとか大丈夫ですーー」


マナが答える。


そうは言ってもこのまま攻撃が続けばどうなるか・・・長くは持たないだろう。早く2人を助けねばならない。


「お前!手ぇ見せろ。」


「どうした!?」


アールが急に大声を出しシルフィの手をつかむ、見ると手から出血している。


「大丈夫だって、ちょっと破片刺さっただけって。それに今はそんな事気にしてる場合じゃないし。」


「アホっ、破片刺ったまんまじゃねぇか」


アールはそう言いながら取り出した消毒液をシルフィの手に振りかける。


「あ、ありがとう・・・」


「礼は後でたっぷりしてもらうからな。」


シルフィが頬を赤らめながらアールを見つめる。それに答えるようにアールもシルフィを見つめ・・・


「自分等の世界に入るのは結構だが時と場所を考えてれるか?」


木崎は異世界に飛び出ようとした2人を冷たく引き戻す。


銃弾が雨霰あめあられと飛んでくる状況でフラグ系の雰囲気を発生させられると端から見ていてイラっとするので取り敢えずそれをぶった切る。


「そんなんじゃなくってっ」


「いゃ、コイツが怪我してるからさぁ」


「兎に角、何でいいからあの2人を安全なところに・・・取り敢えず船長に伝えろ、報連相ほうれんそうだ。」


木崎は2人の言い訳に無駄な時間を割かぬよう逸れをスルーして班長として指示を出す。


「分かった。」


アールが伝声管の蓋を開け喋ろうとしたとき、


『被害知らせぇ!!』


伝声管から声が響いた。船長の声だ。


アールはそれに応答する。


「左舷後部が損傷、穴は開いていないが次同じ所に喰らったら・・・」


『クソっ・・・他はっ』


「爆発の衝撃でクレーンの支柱が折れて倒れた、それに後方甲板に居た船員数名が負傷、」


『安全な所へ運べ、医務室だ、』


「それがてきたら・・・」


『 -パコン- 』


伝声管からそんな可愛らしい音が聞こえた、船長がアールの応答を待たずに伝声管の蓋を閉めた音だ。


「おいっーーーー最後まで聞けよッ!!!それが出来たら聞いてないんだよっ!!!」


アールはボリュームマックスで叫んだ。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

        ・・・・

「ヘリウムで何をやらかすつもりですか?」


ユエは「やらかす」の文字を強調して言う。


「やらかすとは心外だなぁ・・・俺にだって考えはあるぞ?」


「あなたのやることはいつも無茶苦茶なんです、大体今ある10億の借金だって一体誰の・・・」


「アアアーー聞きたくなぁーいっ!」


耳を塞いでしゃがみこむ、これが大人(?)の現実逃避術。


「はぁ・・・ で、どんな作戦てますか?」


「ああ、皮の袋にヘリウムを入れて風船にする。」


「なんとなくやることが分かりましたが・・・」


「今から作戦言うから装備班に伝えてくれ、」


「装備班に伝えてきます。」


「あと・・・、」


「何です?」


ハスコックは部屋を出ようとするユエを止めて言う。


「ボードルにスカリー諸島への突入のタイミングはこっちから指示すると、トン・ツー(モールス信号)で伝えくれ、」


「はい、わかりました。」


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


「風船で相手の長に直接交渉とは、いつもの事だが何やらかすかわからないねぇ。」


装備班長、ジゼルは班員と共に身の丈の二番程もある大きな皮袋にピカピカの鉄板を貼り付けながらのんびりと言った。


班員の一人が聞く。


「それにしても、上手くいきますかね?」


「さぁ、それは相手次第だから」


ジゼルが船長から聞かされた作戦はこうだった。


まず、光を反射する光沢のある板を皮袋で作った風船に貼り付けて空に上げる、それに下から投光器で光を当ててこ信号を発し、この諸島のどこかに居る敵の長に直接交渉を持ちかけて攻撃を止めさせ、あわよくば場所を特定してしまおう、というものだ。


光を反射する為の板に鏡ではなく光沢のある鉄板を使うのは袋に穴が開くのを防ぐ防弾の意味もある。その他にも小さな沢山の袋を一つの大きな袋に入れることで一つ破れても堕ちないようにする等の工夫がある。


念の為、片方が墜ちても大丈夫なように班を2つに分けて作らせている。


「いや、それもそうなんですが、この銃火のなか無事に風船を上げられるかなって・・・」


「まぁ、怪我しないよう祈るしかないねぇ、私らに出来ることじゃないし。」


「・・・」


ジゼルは今の状況が分かっているのか不安になる程のんびりとした口調でいうので呆れるほかない。


「よーーし、完成!!。」


「できたら・・・取り敢えず船長に見せに行ってくれる?」


向こうの班の風船が出来たようなので船長の所に持って行かせる。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


「風船、出来たそうです。」


ユエが風船が出来上がったことをハスコックに伝える。


「そうか、それじゃあ上甲板に行って上げるか。」


「上甲板には隠れるところがないのですぐに蜂の巣になるかと」


上甲板には遮蔽物しゃへいぶつがない、行ったところで飛んでくる鉛のでミンチ肉だ。


「じゃあ、窓からは?」


「引っかかって落ちるのが関の山です。」


「どこから上げればいいんだ・・・そう言えば後方甲板に誰かいたな・・・いくか、」


そう言ってハスコックは後方甲板に向かう。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


「やっぱり突っ切ってき来てもらうしか無いよな」


「アホか、そんな事したらすぐに穴だらけだ。それに2人の傷の具合がわからん。」


木崎、アール、シルフィの3人は倒れたクレーンの間で釘付けにされているマナとラルゴを見ながら何も出来ずにいる。


「おーい、ザキとアールとそこのもう一人誰か、頼みたいことがあるんだが、」


後ろから声がしたので見ると船長が何かデカい袋みたいな物を引きずってこっちにくる。嫌な予感しかしないのはいつものこのだ。


「何ですか?その袋みたいな物、」


シルフィが聞く


「風船だ。これを上げてくれ、」


「は?」


作戦を聞かされた木崎は、いやその場にいた全員は理解するのに数分を要した。これを上げて相手と交渉するという作戦だ。


「誰が上げるんですか?」


「アイツらだ。」


そう言って船長が指差したのは甲板に取り残されたマナとラルゴだった。


「あの二人怪我してるんですよ!?」


「無茶です!!」


アールとシルフィが同じく二人を指差して言う。


「ここからじゃ風声が引っかかって上がらんだろうし、バンソーコー貼るにもこの飛んでくるのをどうにかしないとなぁ、」


「そうですけど・・・」


2人は不承不承と言った感じだが、ラルゴとマナにやらせる他に方法が思いつかないのも事実。木崎も取り残された2人の傷の具合が判らないなら無理に動かすのはマズいと思っていたが、どうしようもない。


「で、どうやって渡すんですか?その風船。」


「どうすると思う?」


船長はいつも平常運転だった。


「そんな事言ってる場合ですか!?」


「わかった、教えようこの発射器を使って後ろに紐を付けたアンカーを向こうまで飛ばして風船を紐に引っ掛けてロープウェイみたいにして渡す。」


船長はガスの入ったボンベと直径10センチ長さ1メール半程の筒と先端に返しのついたアンカーを見せる。筒の下にはそれを支える板と棒が付いており迫撃砲のような形だ。


「どうこう言っても始まらんから、さっさとやるぞ、」


ラルゴとマナにもこのことを伝えて飛んでくるアンカーに備えてもらう。


「「はい。」」


手際よくアールとシルフィがそれを組み立てて船長が照準を合わせる。迫撃砲の組み立て方などわかるはず無い木崎は見ているだけだ。


「よーし、あとは発射するだけだザキ、合図したらそのガスボンベに付いている赤いバルブを勢いよく捻ってくれ、」


「はい。」


「じゃあいくぞーーーっ 3.2.1.ファイヤーーーっ」


その号令と共にバルブを勢いよく捻りると、『ブシューーッ』というガスの放出される音が聞こえた。筒から飛び出したアンカーは放物線を描いてラルゴとマナのいる20メートル先の地面に向けて落下を始める。


「よし、届くぞっ!!」


アールがそう言った時だった。「カキンっ」という金属バットでホームランを打った時のような高い音がしてアンカーから派手に火花が散った。それと同時に落下しつつあったアンカーは横に飛ばされ海に落ちていった。


敵の弾が当たってアンカーを弾いたのだ。


「「あ・・・、」」


その場にいた全員の声が完璧なまでにハモった。


「アーーールっ!!なんてことしてくれたんだ。」


「オレのせいかよ!!」


また最初からやり直しである。



















































































































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