s,25『風船が上がるまでの受難。(二)』
誤字脱字、矛盾点は見つけ次第に修正致します。
「よし、届くぞ!」
アールがそう言った直後。
「あ・・・、」
その場にいた全員の声がハモった。
ガスの圧力により放たれたアンカーは「カインっ」という甲高い音と派手な火花をたてて横へ弾き飛ばされて海へと落ちてく。
「アーールっ!何やってくれてんだ。」
「オレのせいかよっ!」
アンカーは敵の銃弾により弾き飛ばされたのだ。
いつもいつもフラグ発言しやがって!と、アールに八つ当たりしたい気分だが今はそんな事をやっている暇はない、次のアンカーを用意して飛ばす方が先だ。
「船長!予備のアンカーを!!」
「・・・」
返事が無いので振り返ってみると、船長は海へ落ちたアンカーに付いていた紐を引っ張っている。当たり前だが千切れた紐の先端は返ってきてもアンカー自体が返ってくるはずがない。
返ってくる返答は大体わかっているが、一応聞く。
「船長・・・アンカーって」
「予備は・・・ない。」
「普通、予備くらいは用意しておきますよね?」
「すんませんしたぁ。」
木崎は責めるように言うと船長は何故か拗ねたように謝った。
自分から作戦を提案しておいて二の策を考えていなかったらしい。
「まぁまぁ、そんなに責めないであげて。」
「怖い顔すんなって、人生どんな時でも面白可笑しく進むのが一番だぜ。」
シルフィが木崎をなだめるようにして言い、アールがこんな状況にも関わらずニコニコしながら言うので-、
「じゃあ、お前らは鉛の嵐の中をこ面白可笑しく進んでみろよ。」
「無理無理。」
「そんなの出来る訳ないだろ。」
「では、警備係-第三班班長、木崎の権限を持って命ずる、砲火の中を風船を持って進め。」
「・・・船長、予備とか普通なら用意しますよね?」
「用意しないとかありえませんよね?」
しれっと職権乱用する木崎に対してシルフィとアールがさっきとは一転、船長を責め始めた。
「方向転換早すぎだろ!?」
珍しく船長がツッコミをいれる。そんな事をしていると、
「早くどうにかしてよッ!」
「まだてすかっ!?」
銃弾が飛び交う中、クレーンの残骸の間からラルゴとマナが叫んだ。確かにこんな事をやっている場合ではない。
「早くどうにかしないと、・・・」
「おいキザキ、まさかこの俺が第二の策を考えていないとおもうのか?」
「はい、て言うか考えてあるなら早く言ってくださいよ!」
「で、第二の策って何です?」
「これだ、さっきザキのロッカーから素晴らしい宝物を見つけてな。」
船長が持っていたのは木崎がこの世界に来た時に着用していた防弾ベスト、スペクトラ・シールドtype3だった。
「走れと?」
「YES!」
「無茶言わないでくださいよ!あんな所に飛び込んだら死んじゃいますよ!!」
この中に飛び込めば意識と身体がサヨナラするのは目に見えている。
「んじゃあ、誰が走るかジャンケンで決めるか。」
じゃんけんなら当たる確率は4分の1だ、だからいいという訳ではないが。
「よし、ジャンケン決定、アール、シルフィ、お前らもだ。」
「「え~~」」
こんな非常時になんとも呑気なことだ。
結局2人とも渋々じゃんけんに参戦する。
「じゃあ俺はチョキを出すぞ。」
船長が高らかに宣言するが本当ににチョキを出すのか疑わしい。裏をかくつもりなのか、裏の裏をかくつもりなのか、紛らわしい。
「止めません?そういう心理戦。」
「よーし、恨みっこナシよ~じゃんけんポン。」
言い出しっぺの船長が音頭をとり、一斉に手を出す。
船長-チョキ
アール-チョキ
シルフィ-チョキ
木崎-パー
「神よッ!!!!!」
結果、裏の裏をかかれ木崎だけパーの独り負けである。ジャンケンの神様にグー・チョキ・パー、になぞらえて顔面パンチと目潰しとビンタを喰らわせたい気分だ。
「ジャンケンで負けたんだ文句言うなよ。」
アールの言うことを無視して防弾ベストを白い制服の上から着る。
「キザキ、これ被って。」
そう言ってシルフィが放り投げたのはマミヤの船内でよく見かける鉄帽だった。
「ありがとう・・・でもこれ役に立つのか?」
鉄帽といっても鉄製の丼にクッションと顎ひもを付けたような感じの安物だ。高速で飛来する弾を防げるとは思えない。
「ああ、使えない使えない、奇跡的な角度で当たらない限りスパスパ抜ける。」
「邪魔になるだけだろ!!?」
「安心感はあるでしょ?」
「まぁ確かに・・・」
木崎は受け取った鉄帽を被る。頭がガードされる安心感は確かにあった。
「You can do it you!」
「怪我しないでよ。」
「骨は拾ってやるよ。」
3人から中身の無い言葉を無視し、鉄板が貼り付けられた皮袋の風船とヘリウムガスの入ったタンクを麻の紐で背中にくくりつける。
端から見ると一昔前のSF映画に出てくるジェットパックみたいだった。
廊下の突き当たりに立ち、そこから息を整えてクラウチングスタートの体勢をとる。
「せいっ!!」
木製の床板を蹴り、100メートルで世界に出れるのではないかと思えるほどの勢いで飛び出す。
その勢いを維持したまま後方甲板に出る一歩を踏み出し、視界が開けた瞬間。
「ぐッ!!」
横腹に重い安全靴で蹴られたかのような衝撃と痛みを感じ、左前に倒れたが、すぐに起き上がって走り始める。そうしなと頭を狙われるかも知れないし、何よりこんな所に一秒たりとも長居したくない。
起き上がった木崎は恐怖で失禁するのを堪えながら残り十八メートルを全力疾走する。
それから十メートルほど進み、残り半分を切ったとき、右の太ももの辺りに突き抜けるような痛みを感じ、走る勢いそのままに前方に何三転ほど転げた。
強烈な痛みの第二波を覚悟したが、アドレナリンが体内で洪水を起こしている今、その痛みは来なかった。
すぐに立ち上がり、残り八メートルを走る。
その間に右脚に強い衝撃を受けたがそれでも走る。
走り続けてクレーンの残骸まであと二メートルまで迫った所で後頭部に火花が見えたかと思うと顎ひもが根元か千切れて鉄帽が弾け飛んだ。
木崎はバランスを失い、身体は慣性の法則に従ってラルゴたちのいる物陰に頭からダイブする。身体は何かにぶつかって止まり、直後に激しい頭痛と吐き気と耳鳴りを感じた。
「だい・・・ぶ・・・ねぇ!?」
「・・・ですか!?」
ラルゴとマナの声がしたが耳鳴りのせいで聞き取れたのは断片的だった。
「大丈夫だ・・・大丈夫。」
深呼吸を何回かしたあと、そう答えるとともに自分に言いかける。
「走って突っ込んで来るとかバカなの!?」
気付ラルゴが耳元でそう叫んだ。心配してくれるのは嬉しいが、頭の奥に響くのでボリュームを下げて欲しい。
「耳元で叫ぶな、耳鳴りと吐き気が悪化する。」
「心配してやってんのに・・・誰の声で耳鳴りと吐き気がするって?」
「ぇっ?」
急に静かになったと思ったらストマッククロー(アイアンクローの要領で腹部を締めるプロレス技)を決められた。木崎は呻き声を上げながら腕をパタパタと動かす。
「ごめんなさい、ごめんなさい、許して下さいもうしませんッ!!」
実際に締め技を喰らって動けなくなると、『痛い』と『ごめんなさい、許して下さい。』が自然に口から出てくるので不思議だ。
なんとかラルゴの殺人的ストマッククローから解放されると、吐き気と耳鳴りが治まった。というか26年の人生で暫定一位の痛みを味わったのだ、吐き気や耳鳴り程度、気になるまい。
何故いきなりプロレス技をかけられたらのか、敢えて考えない事にした。
「なんでバカみたいに走ってくるの?バカなの?」
ラルゴは持っていた縄を止血帯の代わりにして木崎の脚を縛りながら言う、できればストマッククローを決める前にやって欲しかった。
「ジャンケンする前に頭を使え!」
「考える前に弁慶の泣き所蹴ってくる女に言われたくないな。」
少し落ち着いた今、アドレナリンによる鎮痛効果はなくなり、思い出したように脚に痺れるような痛みが走った。と同時にラルゴの耳をつねり上げる痛みも。
「いだだだっ!!。」
「大丈夫か?」
「ああ・・・う゛う゛三割はお前のせいな。」
気付くと鉄帽も偶然、木崎らの居る物陰に飛ばされていた。それを拾って見ると、後頭部に当たる部分の塗装がに右から左へと流れるよにして削り取られ、奇妙な凹みが出来ていた。弾丸の入射角が浅かったため、運動会エネルギーの方向が上手い具合に逸れて貫通せずに済んだのだろう。要するに、シルフィの言っていた『奇跡的な角度。』である。
「奇跡・・・運が良かった。」
-一緒分の運を使い果たした気分だ。-
「おい、ザキ何やってんだ、さっさと風船上げろ!!」
「はい!、 早く上げるぞ」
「わかった。」
「わかりました。」
船長の叱咤激励の声が聞こえたので、ボンベから延びるホースを皮袋に繋いでヘリウムを入れる。それは少しずつ大きくなり、貼り付けてある鉄板が起き上がった。しばらくするとフワッと持ち上がり、火花を散らせながら空に上がっていく。鉄板に当たって跳ね返った弾が身を掠める度に寿命が何年か減っていく気がする。
風船があがり切り、それの下に付いているロープがピンと張る。
「上がりましたっ!!」
木崎が船長の方へ叫び、それを聞いた船長は伝声管の蓋を開けて指示を出す。
「投光器を点けろ。」
『はい!』
返事が来てから一瞬遅れて船橋の下の辺りから光が鉄板の貼りついた風船に投げつけられる。
投光器はの光はぱかぱかと点滅を始め、相手にこちらの意思を伝える。
『コウゲキヲ、チュウシサレタシ、ハナシガシタイ。』
後は相手が攻撃を止めて交渉に乗ることを祈るしかない。
タイトルは来週までに変わると思います。




