s,19『ムカつく貴族様。』
「護衛だ・・・貴族の。」
船長は何故か乗り気でないようだが、そろそろ船員各々の財布事情もキツいので良いことだ。
「船長、どこの貴族ですか?」
船員の一人が聞き、船長がため息混じりに答える。
「ダクロトール・カラヴィナヴ・バックアプ、だ。」
「「「その日休んでいいですか?」」」
木崎以外の船員の声がハモる。
「いや、お前らが休んだら誰かやるんだよ。」
「今、ここにいない奴にこの事を言わなければそいつらがやってくれるさ」
「おい、」
その名前を聴いた瞬間、何故か皆がやる気を無くした。
「そのダク・・・なんとかって誰?」
たまたま近くにいたアールに聞く。
「ん?悪徳貴族だ。詐欺紛いのことなんて当たり前、弱みを握ってタダみたいな給料で人を働かせて、密造酒や薬物、人身売買まで手を伸ばしてる。よほど情報操作が巧いのか、いくら憲兵が調べても証拠が見つからない、腐った貴族様だよ、まったく。」
「悪徳貴族か・・・」
SPの木崎は悪徳貴族だろうが汚職政治家だろうが、命令であれば対象を守り通すのが仕事だ、そこまで拒絶する理由は無い。それに財布の底が見えている、背に腹は代えられない。
「でもこれ請けないとヤバいぞ、金銭的に。」
「まぁそりゃそうだよな・・・いっそ収入の安定した仕事に移るか?」
「そっちの方がいいかも。」
やはり潰れてからでは遅い、今のうちに考えておかねば・・・
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-次の日-
「今回の任務はアルメリア港からマニアルア港までの護衛、対象はダクロトール・カラヴィナヴ・バックアプだ。」
船長が今回の任務についた説明を始める。
「ダクロトール・・・」
「ヤだなぁ・・・」
「休みたい・・・」
船員達から不満の声が漏れるが、説明を続ける。
「ここから、マニアルア港までだ情報によるとこのあたりの海域に海賊の船団がウロウロしているらしい、他のの護衛も雇っているらしいが、相手が5隻以上ならかなりキツいだろう、だからなるべく奴らを刺激しないように進む・・・」
海賊が出るとのことだが、いざとなったらその貴族様をマミヤに乗っけて振り切ればいい。
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「明日の任務めんどくせぇ」
とある穏やかな昼休み、アールが甲板の隅っこでぼやく。
「そんなにいやなのか?」
「ああ、アイツは貴族とかどうとか関係無く最悪だ。前にもある貴族の依頼でアイツの所に行ったことがあるんだがな、女にはセクハラするしネチネチクレーム付けてくるし挙げ句の果てに依頼料値切るし・・・ああもう、思い出すだけで蕁麻疹がでるッ!!」
「お、おう・・・」
どうやら、ダクロトールは絵に描いたような悪徳貴族らしい・・・
「お前は嫌じゃないのか?」
「俺は・・・こっちに来る前はそれ専門だったからなぁ・・・」
「そういや近衛って言ってたな」
「ああ、命令ならどんな屑でも守らなきゃいけない。それに、ダクロトールとやらがどんな奴かも分からんしな。」
「そうか・・・帰りたいか?元居た國に」
どうだろうか、ここにきてから船の設計を押し付けられたり、謎の化け物と戦ったり、金欠に成ったり・・・色々と苦労が多いが前の世界に居たときよりも笑う事が多くなった気がする。正直分からない。
「・・・自分でも分からんが・・・ハーフ・ハーフだ。」
「何だ?ハーフ・ハーフって」
「それはどうでもいい・・・半分半分だ・・・」
「いや、気になるだろ。ハーフ・h・・・」
「ん・・・?あれ船長じゃないか?」
古い言葉を使って通じなかった時のような恥ずかしさがあったので適当にはぐらかす。
船から30メートルほど離れた船着き場で船長が3人と会話している。あの格好なので遠くからでも一発でわかる。
「ああ、確かにあの派手な服は船長だな。」
「誰と話してるんだ?」
「他の船の船長じゃなねぇか?」
「?」
他の3人の格好は普通の船員と変わらない地味な格好をしている。普段のあのパイレーツな服はこの世界の船長の服ではないのだろうか?
「でも、他の人は地味な格好しているな」
「船長が派手なんだ、本当はあんな目立つのは止めた方が良いんだがな・・・」
「そうなのか?」
「当たり前だ、あんなの海賊に襲われたとき真っ先に狙われるだろ。」
「確かに・・・」
確かに、目立つようでは襲ってきた海賊に「私は船長です、どうぞ殺してください。」と言ってるようなものだ。
「何でそんな格好してるんだ?」
「解らん、皆からさんざん狙われるから止めろって言われているのに頑なにあれを着続けるんだよ。」
「ふーん」
あの服に何か思い入れがあるのか、もしくはただファッションやコスプレの類なのだろうか、解らないが命の危険があるようであれば止めてもらいたい。何よりも船長が居なくなることで来て1ヶ月程度しか経ってない世界で居場所と仕事を無くすのは辛い。
そんなことを思いながらいると昼休みはあっと言う間に終わった。
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その日の朝、船員は物差しで測ったようにきれいに甲板の上で整列指定だった。視線の先にはダクロトール。
・・
「こちらがダクロトールさんだ・・・全員ダクロトールさんに向かって敬礼ッ!!」
・
「おい、お前、ダクロトール様と呼べ!!」
ダクロトールの隣にいる小男が言う。それを見て木崎は「ス●夫みたい。」と、思った。
・・
「全員ダクロトールさんに向かってもう一度敬礼ッ!!」
「おいッ!!」
敢えて『様』を付けないのは今出来る精一杯の反抗だからか?
「五月蝿いぞゾーント、下賤の者よく聞け、私はダクロトール・カラヴィナヴ・バックアプだ。この私がお前らのような何の価値もない人間を雇ってやっているんだ、感謝して私の盾になれ。」
「・・・」
-何コイツ、スゲーあからさまに嫌なヤツなんだけど・・・-
どんな屑でも命令なら守るのが仕事とかカッコいいこと言っといてなんだが、3時間も一緒にいれば殴ってる気がする・・・乗る船が違うのが唯一の救いだ。
下手したらそこらへんの海域や化け物より面倒な貴族様に先が思いやられる。




