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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
16/18

返り血を浴びた殺戮者

 



 ニヤリと緩んだ口元が現すのは、“余裕”だった


 後ろには伏せの状態でサッキュバスの前に自らの身体を壁にする様に寝転ぶケルベロス

 その内側には血塗れで微かに肩を動かし浅い呼吸をするサッキュバス


 見るからに追い込まれている状態なのにも関わらず、アザゼルは笑う


 その余裕の笑みを浮かべるのには理由があった


 先程感じた“自己再生能力への違和感”

 単純に考えるのであれば、再生能力の低下なのだが、治り始めてから完治するまでのスピードは低下していると考えるにはあまりに速過ぎた


 氷柱が突き刺さり身動き一つとれない苦痛はあまりに長く、氷柱が消滅した後の苦痛はあまりに短く…


 そこで思い付いた事があった


 前日の低級悪魔、1号との事だ

 彼が武器とした槍は、アザゼルの太股に突き刺さった

 しかし、槍が引き抜かれた後はどうだろう?

 そのポッカリと空いた穴は瞬時に回復を始めた


 ルシフェルの時も同様だ

 傷が治り始めたのは彼女が腕を引き抜いた後だった


 そして今回もまた、氷柱が消滅した直後に回復を始めた


 それはつまり“異物が体内から消えた”事を意味する


 どれもポッカリと空いた空洞ともいえる傷口には何者も触れていない状態になってから、回復を始めるのだ


 この事から察するに、自己再生能力を発揮するには少なくとも条件があるという事が判明した


 しかしそれは余りに安易な条件だ


 もし刃物などに刺されたら、引き抜けば瞬時に痛み、傷口は消える

 自らの手で引き抜くにはそれなりの度胸が必要だが、死に直面した人間が希望を目の前にして躊躇する事など有りはしないだろう


 死を何度も感じ、一度は体験したアザゼルにとっては大した問題ではなかった

 むしろわかってみれば動揺した自分が憐れに思える


 今回の様に自らで引き抜けそうにない巨大なものは、同じく巨大な獣、ケルベロスの手によって破壊してもらえばいい

 サッキュバスが動けるのならば先程のような斬撃を頼めばいい


 実に他力本願な事だが魔物の戦いを目の当たりにしたアザゼルが、自らの非力さを充分に感じて出した答えだった


 武器であるナイフは懐にある

 いくら攻撃を受けようとも全て回復させてしまえば敵であるフラウの魔力が尽きるのを待つだけの簡単な作業になる

 疲労したフラウを忍ばせたナイフで、或いはサッキュバスやケルベロスの攻撃によって仕留めてしまえば、終わりだ


 ケルベロスの参戦は現状から見るにあまり期待は出来ないが、ここまで降りてきてくれた事、アザゼルの頼みを了承した事を踏まえて考えると0%ということではないように思える


 それ等を含んだ余裕の笑み


 そして、この作戦において必ず聞こえるであろう

 アザゼルの悲痛な叫び

 先程の痛みを思い出しては、唾を飲み込みざる得ない感情に襲われる


 痛いのも苦しいの熱いのも、全部

 そうだ、全部許せない

 フラウを殺すその時に全てを発散させてやる


 ぜってぇに許さねぇからな


 何度も何度も自身に言い聞かせるかのように頭の中でリピートするアザゼルにフラウがワナワナと肩を震わせながら、怒鳴り散らす


 「許さない、だと?私が正義で貴方が悪なのに、それなのに?!なぜ私が貴方に許しを得なきゃいけないのよぉっ!?」


 「あぁ、そうだよ、フラウ。俺は正しく悪党だ、だから悪党は悪党らしくさせてもらう事にするよーーーッ」


 そう言うと地面を強く蹴りフラウの元へ走り出したアザゼルの顔は“悪”と呼ばれるに相応しいもので、目は血走り口元は気味悪く笑ったまま


 「ハハ、アヒャ、フフ、アハハハハハハハハハハハッ!!殺す、コロスコロスコロス、正義なんて、正義、ククッ、ハハハハハハハハァァ!」


 体制を少し前屈みにし、狙いはフラウの首元であるかのように両手を伸ばしながら一直線に走り抜ける

 その笑い声には、まともさは一つも感じない

 我慢していたであろう理性がプツリと切れたかのようなその姿は、狂人とも呼べるであろう


 「流石は魔物に加担する人間!脚の痛みは理性と共に何処かへ置いてきたのか?!」


 「アヒャハハハハハーーーッ!!」


 フラウの言葉など既に耳には入っていないアザゼルは脚を止めない

 ただ狙うべき急所、フラウの首元だけを一直線に見つめている


 そんなアザゼルに嫌悪感を抱くフラウは片手の掌を前に突き出すと、身体の周りに浮遊させていた礫がアザゼル目掛けて猛スピードで飛んでいった


 しかし、目の前に無数の礫が飛んできたというのにアザゼルは表情一つ曇らせない

 そのまま正面からスライディングを、というよりは転がり込み礫の死角へと身体を滑らせる


 ズザァァーーー


 地面と身体が擦れ、激しい音が聞こえたと同時に滑り込む前のアザゼルがいた場所の地面に礫が埋まっていく

 どちらも激しい音を立て、砂埃を巻き起こす


 地面に転がり込んだアザゼルは何事もなかったかのようにスクっと立ち上がった

 その表情は相変わらずのようだ


 「こんなの痛みのうちに入らねぇ、全然死なねぇ、ハハ、ハハハハ」


 顔を空に向け、ヘラヘラと笑ったアザゼルは先程よりも速度が遅くフラフラとしているがしっかりとフラウの元を目指す


 「そうか!ならばお希望通り苦痛を感じながら死ねぇええ!」


 近付いてくるアザゼルに吐き捨てたフラウが肩膝をつき、地面に手を置いた

 すると、アザゼルの真下である地面がボコボコと音を立て揺れ始めた

 先程と同様、地面から氷柱を出現させるのだろうと察した

 しかしアザゼルはその場から避けようとはせず、ケタケタと笑うばかりだ

 声は確かに高らかに笑っている、だが行動は別だ

 避けたのではない、氷柱の出現に瞬時に身を後ろへと倒したのだ

 仰向けになるようにバタりと倒した上半身は見事に氷柱を避ける

 下半身はというと、その場から1歩も動いていない為、氷柱が突き刺さってしまっている


 「ぐ、ぅう、ッッ」


 必死に奥歯を噛み締め苦痛に絶える


 アザゼルにはサッキュバスのようなスピードはない

 故に、いくら跳んで避けたとして転がった所にまた氷柱を瞬時に出現させられては意味が無いのだ


 今回の判断において一番重要だったのは、急所を避ける事

 いくら再生能力に優れているといってもやはり心臓を守るように行動せざる得ない

 今まで心臓に直接的なダメージを受けた事がない、警戒して当然の事だ


 「フフ、怖くて身が仰け反ってしまったのかな?身動き一つ取れずに死んでいけ、悪党が」


 勝利を確信したフラウは不敵に笑みを浮かべる

 もう1度地面に置いた手を強く押し付けようとした時の事だった


 「ゲル、ベロズゥゥ、ウーーーッッ!」


 アザゼルの声が響いた

 その声に反応したケルベロスは、閉じていた口を開けるとガチンッと噛み合せた

 上下の歯がぶつかる音が響いた後、バリバリバリと音をたてて氷柱が破壊される

 その割れ方はまるで、噛みちぎられたかのようなものだった


 てっきり物理的に破壊してくれるものだと思っていたアザゼルは割れた氷柱が消滅していくのを見詰めながら


 「…遠距離攻撃も出来んのか、フフ、上等上等」


 そう呟く最中、苦痛は見事になくなった

 苦痛のない脚はすぐにでも自由に動く、走ることだって可能だ

 ゆっくりと立ち上がると、準備運動をするかのように伸ばしたり曲げたりを繰り返す


 「なっ、なんで立ち上がれるの、!貴方、もしかしてルシフェルに何かされてるんじゃ…」


 「ピーピーうるせぇ!自己再生能力、さっきも見ただろぉ?てめぇから受けた痛みなんか、全部全部ぜーんぶ一瞬にして完治するんだよぉお!ハハハハ、ハァ、おもしれぇ、こんなに楽しいのはいつぶりだ?死なねぇ、死なねぇ、死なねぇ!」


 アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!


 身を怖ばらせるフラウに対して、狂人の如く笑い続けるアザゼルはこれまでで見た事ないほど楽しそうで無邪気で、恐ろしい


 「うるさい!」


 ひたすらに笑い続けるアザゼルの声が煩わしく感じたフラウが叫ぶと、地面に置いていた手を前へ翳して氷の礫を自身の体の周りに出現させ放つ


 猛スピードで放たれたそれを避けるには時間が足りなすぎる

 無邪気に声をあげていたアザゼルが気づいた時には既にもう無数の礫が身体のあちこちを貫通していた


 「がっ、ぁ!」


 先程の無邪気さは何処へいったのだろう

 急な体の変化に動揺を隠せない、小さく苦痛の声を上げた


 ドサッーー


 「どうっ?!これで死んだでしょうっ?!」


 期待の眼差しを向けるフラウの目にうつるのは、身体中から水しぶきのように血を吹き出し、膝をつくアザゼルの姿だった


 腕、脚、腹、耳、頬


 それらを貫通した礫は真っ赤に染まり、背後で消滅した

 ボタボタと傷口から漏れ出す血が地面を鮮やかに染め上げる


 膝をつき俯くアザゼルはピクリとも動かないーーーはずだった


 「フフ、フハ、ヘヘェ!」


 グリンと顔を上げた頬には大量の血がこびりついている、目を見開きより一層口を横に拡げ、笑みを浮かべる


 「ーー…ひッ!」


 あまりに不気味な表情だった

 それでいて先程、貫通したはずの傷口が見当たらないのだ

 本来なら空洞となってぽっかり穴が空いていてもおかしくはない

 肉が巻き込まれて変形していてもおかしくはない


 なのに目の前に映るのは傷だらけの男の姿ではなくまるで返り血を浴びた殺戮者


 勝利を確信していたフラウが小さく悲鳴を上げた



予約投稿したと思ったら間違えて投稿してしまったので削除して再投稿です……申し訳ない……サッキュバス空気ですね……回復中故……申し訳ない……

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