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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
15/18

自己再生能力

 



 ーーーいっ、てぇ、熱い、痛い熱い痛い痛い痛い痛い痛い


 なんで、なんでなんでなんでなんでなんで、どうして、



 「ハァ、ァ、は、ぅぐ…」


 呼吸が荒い。

 細く冷たい氷柱が、脚から生えているかのように貫通している

 刺さった部分からは血が流れ、その血は地面を伝い、寝転ぶ背中をも濡らしていく


 大量の出血のせいか、意識が朦朧とする


 グルグルと回る頭の中はとても気持ちの悪いものだった。

 そんな状況の中、疑問だけが頭から離れない


 アザゼルのもつ自己再生能力


 それはルシフェルや低級悪魔も目撃し、自らもしっかりその目で見た

 故に、確実なものと思っていた

 しかし、今回はどうだろう


 “驚異的なまで”と呼ばれるのにふさわしい程の早さで再生すると言われた身体は今も尚、苦痛に震えている


 「はぁ、ハァ、ハ」


 「ーーーぐ、ぅ、はぁ、アザゼルッ!何をして、いますの!」


 荒い呼吸をし、ただただ肩を揺らすアザゼルに向かってサッキュバスが呼びかけた

 彼女の腕にも、同様に氷柱が突き刺さったのだが、刺さった氷柱に対して爪を鋭く伸ばすと勢いよく切り裂いた

 それと同時に氷柱は、パリンと音を立てて消滅する


 驚異的なまでの自己再生能力がある、という話をルシフェルから聞いていたサッキュバスは何を遊んでいるのと言いたいかのように、アザゼルを問い質す。


 早く再生能力を発揮し、起き上がってもらわなければ困るのだ

 脇腹の傷の回復はまだ7割程度。

 それに加えて腕の負傷。

 アザゼルを守りながらでは、回復が終わるまで避け回る事も出来ない


 苛立ちを隠しきれないサッキュバスは、肩膝をつき、自らが着ていた黒いドレスの裾をビリビリと破ると負傷した腕に包帯代わりとして、巻き付けながら


 「自己再生能力ってのは嘘だったのかしら?仕方ない、ですわね!」


 というと、アザゼルの氷柱を見つめながら包帯を巻き終わった反対の腕の鋭く尖った爪で空を斬る


 サッキュバスが空を斬った後に出たのは斬撃というものだろう

 無色透明で目には見えないが、強い風が吹き荒れたかのように地面に転がるアザゼルの服を揺らした

 と、同時に突き刺さった氷柱は衝撃を受け、パリンッと大きな音を立てながら消滅した


 割れたというよりは、粉々になって消えた、という表現が相応しい

 残骸も残らなければ破片が体内に入り込むこともない


 突き刺さっていた部分にはポッカリと穴があいている。


 しかし、その穴は氷柱が割れた数秒後に急激な早さで塞がっていく


 「…はぁ、はぁっ、治っ、た?」


 完全に塞がり切るまでの時間は僅か数秒。

 痛みが徐々に消えていくのを感じたアザゼルは上体を起こし、傷口を見るがその時にはもう既に傷はなく、最早見慣れた血だらけというだけの脚だった


 座り込みながらぼんやりと脚を見つめるアザゼルと合流しようと、地面を蹴りながら移動するサッキュバス


 「アザゼル!貴方、自己再生能力に長けているんではなかったんですの?どれ程まで早いのかと思えば、上級の魔物と大差ないではありませんの?!」


 「いや、違うんだって!俺も今ビックリして…ーーサッキュバス、危ねぇッッ!」


 近くきていたサッキュバスの言葉を耳にしたアザゼルが顔を見上げるとサッキュバスの背後にまたも細く鋭い氷柱が迫ってくるのが見えた

 その光景を目にしたアザゼルは、強く叫ぶ

 その声に瞬時に振り返ったサッキュバスの目にも氷柱が映し出された


 しかし、避けるには少しばかり時間が足りなかった


 「ぐっ、がぁあッッ、ゲホッーーー!!」


 サッキュバスの腹部のど真ん中に氷柱が突き刺さった


 身をくの字に曲げたサッキュバスは口からは血が吐き出される

 その光景を見たアザゼルは大きく目を見開いていた

 まるで、スローモーションかのようにハッキリと目に映るその姿に身動き一つ取れない

 腹部に氷柱が突き刺さったサッキュバスが地面へと倒れ込むのをただただ見つめているだけだった


 ズザァァと身と地面が擦れ合う音が耳に入り、ハッとする

 先程までのスローモーションが嘘のことであるかのように、急に目の前の光景が現実的なものへと変貌する


 「サ、サッキュ、バス……?」


 力なく呟くのが精一杯だった

 喉が締め付けられたかのように声が発しづらい


 「アハハハ!油断した報いだ!背後を取られるなんて有るまじき失態ね!集中力を切らしたのかなぁぁあ!?」


 精霊の少女は命中した事に喜び、甲高い声を高らかに放った


 「ゲホッ、ゴホッ、ハ、ぁ」


 サッキュバスの咳き込む声が聞こえ、まだ息があることを確認したアザゼルは力の入らない身体を必死に地面へ擦りながら四つん這いになり、サッキュバスの元へと近寄って行く


 「お、い、サッキュバス!!」


 倒れ込むサッキュバスの傍らに腰を下ろしたアザゼルは顔を覗き込み、肩を揺らす

 グラグラと抵抗もなく揺れる身体

 何度も何度も声をかけるが、返答はない


 「…嘘だろぉ、そんな、こんな、ごめん、俺が、俺が足引っ張っらなければ、お前は、お前はぁ……」


 「ーーぐ、グホッ、ち、ちょっと、勝手に殺さないで、下さいます…?」


 涙が目に浮かぶアザゼルを横目でチラリと見たサッキュバスが口を開いた

 その目に力はなく、額には汗が滲んでいるがどうやら絶命したわけではないらしい

 その言葉をきいたアザゼルの涙がピタリと止まった


 「サッキュバス、お前、生きて…」


 「この程度で、死ぬわけない、でしょ、う?ハァッ、ハ、でも、とう、ぶん動け、そうにはない、ですわ…くっ、ぅ、アザ、ゼルッ!あなた、回復は終わ、ったの…?」


 苦しそうにままならない呼吸で話すサッキュバスの言葉は途切れ途切れで聞き辛いものだが、しっかりと耳を傾け理解したアザゼルが頷く


 「俺を、誰だと思ってんだよ!ルシフェルが認める再生能力の持ち主だぞ!さっきは何でか回復が遅れたけど、お前が氷柱を壊してくれたおか、げ…で?」


 自信ありげに返事をしたアザゼルの表情が徐々に曇り、最後には眉をしかめどこか考え込むように遠い目をした

 そんなアザゼルを微かに開く目で見つめるサッキュバスは何故、アザゼルが言葉を止めたのかが理解出来ないようで小首を傾げるような気分で見つめ続ける


 「…そうか、わかった、ようやく理解したぞ」


 「なに、が…ですの?」


 「この身体の」


 ーーー仕組みってやつをだ



 そう呟いたアザゼルはスクっと立ち上がり笑みを浮かべた

 ひとりで納得しているかの如く、うんうんと頷くと上を見上げ、大きく息を吸い込んだ


 スゥーーー


 「ケルベロスーーーー!!聞こえるかぁぁぁあ!!!」


 拳を強く握り、天高く声を上げる


 その急な大声にニタニタと笑っていた精霊の少女も、ビクッと体を跳ねさせた


 エコーがかった声が村中へ響き渡ると、頭上からケルベロスが落下するかのように高スピードで降りてくる

 しかし、アザゼルの横にきたケルベロスは地上には降り立たず数十センチ浮いた状態で、欠伸をした


 「ふぁぁ、うるせぇぞアザゼル、急になんなんだよ?ビックリするじゃねぇか…」


 欠伸をした後に前足を伸ばしながら伸びをしたケルベロスが気だるそうに問いかける


 「あぁ、急に呼んで悪かったよ、でもお前に一つ頼みがあるんだ」


 「あぁ?頼みぃ?」


 「そう、わりとお前にとっちゃ簡単な仕事だ、もし俺があいつの出現させる氷柱に突き刺されたらそれを破壊して欲しい、な?簡単だろ?」


 精霊の少女を指差したアザゼルがケルベロスへとニヤリと口を緩ませた

 その表情はどこか無邪気で、自信に満ちたともいえるであろう


 「ほう?まぁ確かに簡単だけどな、勢い余って氷柱だけじゃなくお前も吹き飛ばす事になるかもしんねぇぞ?ガッハッハッハ」


 なかなかに怖い事を口にするケルベロスは鋭い牙を見せながら、大きく笑う

 しかし、そんな言葉にも動じずにフッと笑うと


 「…構わねぇよ、吹き飛ばされた所で全部再生させてやる。その代わりといっちゃあなんだが、サッキュバスの事、頼む」


 真剣な眼差しで傍らに横たわるサッキュバスに目をやる

 ケルベロスが「あぁ」と了承したのを聞くと、ザッと一歩前に出たアザゼルは氷を操る精霊の少女に向かって


 「長らくお待たせ致しました、精霊さん?遅ればせながら、俺の名前はアザゼル、魔王候補第1位のルシフェルの側近にして、テメェが串刺しにしたサッキュバスの同士だ。」


 と、遅い自己紹介をする

 呑気な事のように思えるが、その眼差しは真剣そのもので正しく戦いの前に敵に名を名乗る武士のようだ

 “元”日本男子らしいものと言えるだろう


 「はんっ、貴方の名前なんか興味無い!さっさとその女をこっちに渡せ、そうすればーー」


 「名を名乗れよ、精霊。礼儀ってもんを知らねぇのか?」


 「なっーー!」


 興奮する少女に対して冷たく言い放たれた言葉に動揺した少女だが、フッと息を漏らすと口を開いた


 「…そんなに聞きたいなら教えてやる。、我が名は“フラウ”しっかり脳に刻んでおくといいわ!」


 フラウと名乗った少女は自らの身体の周りに無数の氷の礫を出現させ、浮遊させる

 しかし、アザゼルはそれを見ても尚表情を変えることはなかった


 「あぁ、刻んだ。ぜってぇ忘れねぇ、だってお前、サッキュバスをこんな目に遭わせただろ?そんな奴の名前、忘れるわけがねぇ。そしてなにより、俺に危害を加えた、それだけは」



 ーーーー死んでも許さねぇから



 ニタリと口を広げたアザゼルの瞳には口元とはあまりに似つかわしくない“憎”の文字だけが浮かび上がっていた

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