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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
14/18

矛盾だらけの言葉

 



 「おい!サッキュバス、大丈夫か!?」


 「うる、さいですわね、何の、用かしら、アザゼル…」


 起き上がったアザゼルは一目散に倒れ込むサッキュバスの元へと向かって行った

 傍らに座り込み、顔を覗き込むアザゼルを見たサッキュバスは悪態を付く


 しかし、その表情は苦痛に歪んでいてほんのり額は汗ばんでいる


 近くによればより一層、出血が多量なものだとわかった


 「何の用って…お前が心配だったからに決まってーーー」


 アザゼルが言いながらサッキュバスの肩に触れようとするが、その手はパシッと弾かれてしまった

 心配を他所に、サッキュバスが睨みをきかせながらアザゼルを見つめる


 「触らないで、くださる、かしら…?貴方如きに心配される程、サッキュバスも落ちぶれ、ては、いませんのよ?さっきはつい、油断してしまっただけの、事。それに、まだ貴方は何も役に、たっていない…ルシフェル様の、傍にいる事すら、不愉快な、まま…ウッーー!」


 息を荒らげながら喋るサッキュバスが脇腹を強く抑え、悲痛な声をあげる


 元々アザゼルの事を疑いの眼差しで見ていたのはわかっていたが、この状況下でも拒絶されると思わなかったアザゼルは少しだけ眉を下げた


 「少しは仲良くなれたと思ってたんだけどな、でもお前の言う通りだ、俺はここに来て傍観してただけ、何もしていない。今回お前が俺を連れてきたのは、俺を見定める為なのにな、悪かったよ」


 「謝る、くらいなら、退いてくださる…?邪魔、ですのよっ!役立たずなのは、充分わかり、ましたの、この傷も、ある程度すれ、ば回復致します、わ」


 申し訳なさそうに頭を下げるアザゼルに対して、見切りをつけたと言う様に、その場から下がらせようとするサッキュバスは荒らげた息で言葉が途切れ途切れになっている

 脇腹を抑えて立ち上がろうとするサッキュバスを見たアザゼルが、それを止めた


 「おいおい、回復ったって全然まだじゃねーかよ、立ち上がるのは無謀だろ?お前こそ大人しく寝てろ」


 「何を、言っていますの!精霊の狙いは、この身体に流れ、る、血ですのよ…?!こんな所に倒れていては、エサにされるだけ、ですわ」


 上体を起こしたサッキュバスはアザゼルに食ってかかる

 サッキュバスが声を荒らげる度に脇腹からは血液が溢れ出ていく

 まだまだ起き上がれるほどの回復をしていないのは、ひと目でわかった


 「だからそのために俺が来たんだろ?役立たずの俺が敬愛するルシフェルの傍にいるのが腹立たしくて、毛嫌いすんのはよくわかってる。でもな、俺にはルシフェルしかいないんだ、お前の目にルシフェルしか映っていないのと同様に。」


 ハッとした顔でサッキュバスはアザゼルを見遣る

 アザゼルの表情は酷く優しいもので、まるで子供をあやすかのようだった


 「つまり、あれだ。同じルシフェル愛好家って事で、仲良くしようぜ?ここは、俺に任せてくれないか?」


 そう言ってスクっと立ち上がったアザゼルは微笑む


 初めてこの世界にきて会ったルシフェルという存在

 その者を敬愛するサッキュバス

 アザゼル自身もルシフェルに対して多少なりとも忠誠心のようなものがあった


 雛は産まれて初めて目にした者を母として認識する、という話がある


 アザゼルの場合もそれに似たようなものがあった

 全く知らない土地に放り出され、目に映るのは全く知らない生き物達

 知識などあるはずがない

 産まれたての雛と何ら変わりないだろう

 藁にも縋る思いでルシフェルを手放さない、と決めるには些か安易であるが、共にいるには十分な理由だ


 そんな彼女の傍らにいるサッキュバスもまた、同士のように思えた

 傍にいる理由は全く違うのであろうがそれは余り重要なものではない


 ーーー同じ、ルシフェルの名に従う者


 これだけで、アザゼルがサッキュバスを守る理由になるのだ


 「バカな男、かしら?」


 微笑むアザゼルを見てフッと息を漏らしたサッキュバスは、そっぽを向いた

 「好きにすればいい」とでも言っているかのような態度に、アザゼルは小さく「ありがとう」と呟いてから、精霊の立つ方向へ身体を向ける


 「何をグダグダ話していたかは知らないけど、その女、もうダメになっちゃったの?クフフ、威勢だけで随分弱いんだねぇ?さぁ、はやくその女を差し出せ!グチャグチャにしてから、血液を絞り出してやるーーッ!」


 アザゼルとその後に座り込むサッキュバスを見つめ、精霊の少女は叫ぶ

 人間を守るという本来ならば褒められる働きをしているのは彼女の方なのだが、その表情は怒りに満ちていて、とても“正義”だとは思えない


 「…俺、お前嫌いだな」


 怒りに満ちた声で叫ぶ少女に対して、アザゼルは冷徹な眼差しでピシャリと言い捨てた


 「は、?誰がお前のような人間の身でありながら魔物に心をうった馬鹿に好かれたいと思ーー」


 「お前、この村で生まれ育ったんだろ?愛着も、思い出もあったんだろ?この村も、村人も、大切だったんだろ?だからこうして禁忌を犯してまで助けに現れたんだよな?」


 少女の言葉を遮って、淡々とした口調で問いかけるアザゼルの言葉に困惑した表情を浮かべた少女は眉をしかめた


 「さっきも言った通りよ、この村は私の大切な大切な故郷、守る為なら禁忌も犯すよ!何が言いたいの!?」


 「じゃあ聞くけど、さっき“多少村人が殺されるのはしょうがない”って言ってたよな?」



 ーーーお前さ、自分可愛さで1度村人を見殺しにしようとしてなかった?



 「ーーーーーっ!」


 アザゼルの的確な言葉に、少女の身体がピクリと反応した


 「だってそうだろ?1度も近寄ってすらいない俺をお前は人間だと言い当てたって事は、つまり、鼻が利く。きっと魔物が近くに来ていれば感知する事だって出来るはずだ。なら、村人に被害が行く前に俺等に攻撃を仕掛けるなんて、容易い事じゃないのか?」


 そういうとアザゼルは地面に落ちていた氷柱を指差して「あんなに便利なものもあるんだし」と付け足した


 微かにだが、少女の瞳に動揺が現れたのをアザゼルは見逃さない、少女を捲し立てていく


 「つまり俺が思うに、お前は村人を1度見殺しにしたけど居てもたっても居られなくて途中参戦してきた、ただの偽善者だ」


 「ーーーーくっ!」


 少女はぐうの音も出ないといった様子で奥歯を強く噛み締めている

 アザゼルの言葉を後ろで聞いていたサッキュバスも多少ばかり驚いているが、納得したというような表情で俯き、「なるほどね」と呟いている


 「……黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れぇえええええ!!!私は村人を救うっ!1度死んだからといって、その女の血を使えば死んだ村人は蘇る!!それでいいでしょう!?救う事には変わりないじゃないッッ!!罪のない同種である人間を殺す奴に付き従い、或いは加担する為にこの地にきたお前に、言われる筋合いなんかないんだよぉおおお!!」


 少女は肩を震わせ、アザゼルに向かって叫び散らす

 顔は真っ赤になり血管が浮き出ている事から過度の興奮状態である事がわかる

 今にも飛びかかってきそうな少女に向かってアザゼルは溜め息をついた


 「…はぁ、確かに俺も最悪だけどお前も最悪だな。あくまで自分を正当化するのかよ、じゃあ言ってやる。お前は村人を見殺しにしようとした、俺と同じ、加害者だ!最終結果が良ければ全て丸く収まるなんてそんな都合のいい話がまかり通るわけねぇだろうがっ!」


 「うるさいうるさいうるさい!!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇええええ!」


 アザゼルの言葉が耳障りなのか、少女はその小さな手で両耳を塞ぎ、地面に頭を強く打ち付ける

 額には薄ら血が流れ始めていた

 そんな少女を尻目に、アザゼルの言葉は止まらない


 「俺は、自分や自分の大切な者に危害を加えられてるのを見て見ぬフリする奴が大嫌いだ、仕方ないで済ませんじゃねぇ、やられた奴が、死んだ奴が、どれだけ痛くて怖かったかわかるか?てめぇが救いてぇって思ってた大事な奴らがどれ程痛い思いをしたかわかるかっ!?わからねぇよなぁ!?結果良ければ全て良しだもんなぁあ!?」


 「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、よ……!!」


 「そんな奴が後々ひょいひょい出て来て、救いますなんて都合いいにも程があるんだよ!!テメェが出る幕はもうねぇ!わかったらとっととお家に帰ってねんねでもしてろ!!」


 アザゼルの言葉がここでようやく止まった

 ぜェぜェと息を吐きながら、肩を揺らす

 少女は相変わらず頭を打ち付けたままだったが、アザゼルの呼吸が整うのと同時ぐらいにその動きは止まった

 ゆっくりと顔をあげた少女の顔は血だらけで、目は虚ろになっていた

 耳に当てられていた手が離れていき、地面へと移る


 「…かえ、る?出来ない、出来ないよもう、手を出してしまった、犯してしまった禁忌は許されない、このまま逃げた所で私の身体は消滅してなくなるわ、それならば、ねぇ?ハハハ、ハハッ、お前達を殺して、村人を蘇させるのよ、私が、私が私が、救うのッ!遅かったなんて、都合がいいなんて、言わせない、言わせないからぁぁぁあ!!」


 叫び散らす少女は地面についた手を強く押し付けると、細く鋭利な氷柱をアザゼルとサッキュバスがいる付近へ無数に突き出した


 地面の割る音が辺りを包み込む

 ようやく、回復しつつあったサッキュバスは勢いよく立ち上がると、アザゼルの襟をつかみ無数に生えてくる氷柱を次々に避けていく


 が、回復が不完全なサッキュバスが男1人を連れながら高速移動するには限界があった

 襟を掴んでいた腕に、氷柱の先端部が突き刺さる


 「ぅぐぅーーッ!」


 苦痛に顔を歪ませたサッキュバスの手からは力が抜け、襟を掴まれて移動していたアザゼルは放り出された

 バランスを崩し、ゴロゴロと転がる


 その姿を見た少女は満足そうに笑みを浮かべた


 「フフ、ハハッ、アハハハ!村人が死んだのはぜーんぶお前達のせい!守りきれなかった私が悪いなんて、そっちの方が都合が良い話!せいぜい苦しみなさぁぁい?!」


 ゴロゴロと転がるアザゼルが止まった所を目掛けて少女は氷柱を出現させる

 細く鋭い氷柱は、アザゼルの右脚を貫いた

 ミチミチッといった肉が避ける音が響いたと同時に、悲痛な叫び声があたりを包み込んだ


 「うがぁぁあああ、!?ぁ、あ、はぁ、あぁぁぁああ!!」


 アザゼルは氷柱が突き刺さった右脚に触れるが、貫通している為身動きは取れない

 元々黒いのズボンは、血がじんわりと滲んでいてより一層その色を濃くしていく


 苦痛で転げ回る事も出来ず、ただ耐える事しか出来ない

 何度か氷柱を拳で叩いてみるものの頑丈でとても素手では割る事は不可能のようだ


 しかし、苦痛はすぐに一つではなくなった


 左脚にもまた、同様に氷柱が貫通したのだ


 「ん、ぐっ、ぁあああぁぁぁあ!い、てぇ、はぁ、ぁあ」


 両足に感じる痛みはまるで、低級悪魔に槍を刺された時のようなものによく似ていたが、今回刺さっているのは氷だ

 故に、冷たさが身体の中にも伝い、火傷をしたような感覚も同時にやって来る

 痛みで脚は一歩も動かない。情けなく苦痛の声を上げるしか出来ない


 しかし、アザゼルの頭は少しだけ冷静だった


 “自己再生能力”


 が、自らには備わっている。

 そのことを自覚しているからだ

 この酷い苦痛もあと数秒すれば消えるという事をわかっているアザゼルは今か今かと期待していた


 だが、何秒、何十秒待っても痛みは一向になくならない


 「アハハハ、アハハハ、ハハハハハハハハハッ!」


 寝転がるアザゼルの耳をさす甲高い少女の笑い声が煩わしい

 苦痛の消えない足を見てみると、やはり血まみれで見事に貫通しているのが見えた


 「な、んで、どう、してぇぇ?」


 涙目になったアザゼルの頭の中は疑問の言葉で埋め尽くされていた


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