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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
13/18

生きる者と死んだ者


だいぶ話のテンポが早くて申し訳ないです

あと、更新頻度が下がっていたのは今後改善致します!!

 




 「…チッ」


 砂埃が立ち込める地上からは、少女の舌打ちが小さく鳴った


 地上を覆う砂埃のせいか視界が悪い


 徐々に砂埃は消え、その地上には先ほど氷の礫を放った精霊の少女が立っており、サッキュバスはその少女と距離をとるように数m離れた所で肩膝をついている


 肩膝をついたサッキュバスの黒いドレスが少し捲れ、白い肌が顕になる

 地面には先程の残虐行為を行った時の返り血がドレスに染み込んでいた為、薄ら血痕がついていた


 「まぁ、なんて物騒な事をするのかしら?それに舌打ちだなんて女性がするには余りに下品極まりない事ですのよ、精霊界には上品に振る舞うといった概念は存在しないのかしら?はしたない生き物ですわねぇ?クスクスクス」


 肩膝をついているが、無傷のようだ

 サッキュバスは口を出て覆い、精霊の少女を嘲笑う

 その表情はいかにも相手を馬鹿にしたようなもので、その言葉を聞いた少女はピクッと眉を動かした


 「…はんっ、そんな人間の血にまみれた生臭い身体で上品を語るなんてどうかしてるんじゃないの? それに1度避けたぐらいで調子にのらないでよ、ねっ!」


 またも掌を前に翳した少女は小さな氷の礫を無数に出し、肩膝をつくサッキュバスにむけて放った

 地面に礫がぶつかると、軽く穴があいている事から威力としては銃と大差ない程のもののようで、当たったとしても貫通まではいかないような あくまでスピード重視の攻撃のようだ


 右へ体を回転させながら、サラリとかわしていくサッキュバスは未だに余裕な表情で、避けるサッキュバスを追いかけるように氷の礫は次々と放たれていく


 「遅い、遅いですわねぇ、これなら目をつぶっていても避けられそうですわぁ!」


 「いちいち喋るんじゃないわよ、鬱陶しいっ!魔物の声を耳に入れるだけでこっちは不愉快なのよ!」


 サラリと避けていくサッキュバスが避けながら口を開くと、少女は氷の礫を放つのをやめた

 地面をその場でドンドンと片足で踏み潰し、苛立ちを抑える


 氷の礫が放たれなくなったのを確認したサッキュバスは、やれやれといった様子で立ち止まり、ため息をついた


 「…はぁ、ならば関わらなければ良かったのではなくて?貴女が来ても来なくてもこの村はサッキュバスの手によって壊滅、じゃなかった、交渉成立としてルシフェル様の物になっていたのですよ?それにわざわざ首を突っ込んできたのは貴女ではないのかしら?」


 確かにサッキュバスの言う通りであった

 先程の奇襲とも言えるサッキュバスの行動によって、この村の人間が何人殺められたかというのは誰一人としてわかるはずもない

 しかし、数多くの村人が手にかけられた、というのは辺りに広がる血液の量、死体の数を見れば一目瞭然だ


 遅かった、とも言えるであろう


 本来ならば、精霊の少女は最初からそこにいてもおかしくはないのだ

 魔物を敵視するのであれば最初からその場にいて応戦していてもおかしくない

 だが、少女は遅れて邪魔に入ったのだ

 それでいて魔物を酷く毛嫌いしている

 途中参戦、首を突っ込んできた、と言われても何ら不思議ではない


 「そうね、確かに貴女の言う通り。でも私としたら村の人間が多少殺されるのはしょうがないと思っていたんだよ、本来なら私達精霊が人間の生死に関わってはならない。という決まりがあるのだから、ーーーでも、この村は私が生きて死んだ大切な村だ。見殺しなんて、とてもじゃないけど出来なかった」


 俯く精霊の少女は声を震わせながら、拳を強く握った


 その少女の姿を見たケルベロスに跨り、空中で待機しているアザゼルは疑問の表情を浮かべながらケルベロスに問いかけた


 「なぁ、精霊ってのは人間に関わる事は禁止されてるのか?」


 「あぁ?お前そんな事も知らねぇのかよ、当たり前のことだろ?本来、精霊ってのは死んだ人間が木々や水、大地のような自然に魂を宿して陰ならその地に加護を成すものとされているんだ、まぁ稀にアイツのように人型として存在するケースもあるけど、殆どねぇ。だから、精霊が自由に動く事すら稀なんだ。」


 「へぇ、じゃあ元はあいつも人間っていう事か、でもそれとこれとどういう関係があるんだ?」


 “精霊”という存在について話したケルベロスに、またも問を投げかけたアザゼルに答えるケルベロス。


 「お前は、死んだ者が生きた者に自ら接近していいと思っているのか?しかも、人型の精霊というのは実体もある。見た目だけじゃあ人間と間違われても可笑しくねぇ。だが、間違いなく死者だ、死んだ者と生きる者の世界は決して交わってはならねぇんだよ、それが生きた人間を助ける為だ、なんて言語道断だ」


 ケルベロスの言葉にハッとした


 アザゼルが元いた世界でも幽霊は幽霊であって、怖い話などには度々登場するが、幽霊に命を救われたなんて話は聞いたことも無い。

 死者が実体を持つ事が出来る方法があるなんてケルベロスの口から聞かなければ、知る由もなかっただろう。

 この世界だけの話なのかもしれないが、今この世界にいるアザゼルにとっては良い知識を得たというところだ


 「なるほど、ね。良くわかったよ」


 納得したアザゼルは地上に目をやると、サッキュバスが嘲笑うように腹を抱えている姿が見えた



 「ハハハ、アハハハハハハッ!ーーーバカバカしい。思い入れがあるからといって禁忌を犯し、このサッキュバスの手によって殺されるなんて哀れを通り越して滑稽な話ですわね」


 サッキュバスは嘲笑うと、次第に声が止み、冷たく言い放った

 その言葉を聞いた少女は顔をバッとあげ、サッキュバスを睨み付ける

 その瞳は怒りに満ちていて、宛ら通り魔に殺された時のアザゼルのように怒り、憎しみ、憎悪、を感じさせる程のものだった


 「ーーー貴様ぁぁあ!ふざけるなふざけるなふざけるなぁ! 人間を殺して回るのが魔物の利益になるというならば、禁忌を犯した精霊にとってはこの場でお前が死ぬ事に利益があるということを忘れるな!その血で償え!私の、私の大切な村を!!村人を!返せよ!この、魔物風情がぁぁぁあああ!!」


 怒鳴り散らす少女は両手のひらをサッキュバスに向けると、氷の礫とは違い、とても大きな氷柱のようなものを掌の前で生成し始めた


 その大きさはケルベロス程あるであろうか、先端は鋭く尖っていて、最初は薄ら透明なものであったが生成が完了する頃には、ハッキリと水色がかったものへと変貌を遂げていた


 「…チッ、若いからといって侮っていましたわ!魔力ははやり精霊だけあって相当なもののようですわねッ…!」


 煽りに徹していたサッキュバスの表情が急に焦りを感じさせるものに変わっていった

 想像していたよりも大きく、礫より数段威力が高いと思われる氷柱を目の前にし侮っていた自分を悔やむかのように呟いた


 サッキュバスは後ろへ軽く飛ぶと、少女から距離をとる


 とても巨大な氷柱だ、威力はあるにしても重量もあるはずだ

 よって射程圏内にいなければ目の前で崩れ落ちる事は間違いないだろうと考えたのだ


 ーーしかし、そう都合の良いものではなかった


 少女の手から離れた氷柱はサッキュバスに向かって放たれたのだが、それは氷の礫よりも速く、地面スレスレの場所を通り鋭い風を巻き起こした


 「ーーーなっ!?」


 あっという間に目の前にきた巨大な氷柱の鋭利な先端部を見て驚愕するサッキュバスは、急所を守るように多少、身をよじり避ける事しかできなかった


 ゴロゴロと地面の上を転がるサッキュバスの横を巨大な氷柱が通り去っていく

 数m進んだだろうかの所でようやく氷柱は地面へと大きな音をたてて、沈んだ


 「ーーーゲホッ、ゴホッゴホッ」


 砂埃が舞う地上の傍らに倒れ込むサッキュバスは脇腹を抑えながら咳き込むと、口から血を吐き出している

 抑えている脇腹からは大量に出血していて、横たわる地面は血にまみれていた


 「サッキュバスーーーー!!!」


 空中に待機しているアザゼルが叫ぶ、がサッキュバスからの返答はない

 それどころではないのだということを察する


 「あぁー?サッキュバスの奴、何やってんだよ情けねぇなぁ」


 焦りを見せるアザゼルのすぐ真下で、呑気に呟くケルベロスからは一向に焦りは感じられない


 「何呑気な事言ってんだよ?!完全にサッキュバスがやられてる状況だろ!助けに入らなくていいのかよ!!」


 「はぁ?何で俺が助けに入らなきゃならねぇんだよ、あの精霊はサッキュバスの血が狙いだろうが、俺には関係ねぇし、それに仮にも魔王候補者だぞ?そんな奴があんな若い精霊一匹に簡単に負けるわけーーーっておい!」


 ケルベロスが喋り終わる前に、アザゼルは跨っていた足でケルベロスの脇腹を何度も強く蹴った

 気分は乗馬と同じで、進めと言わんばかりの行動だ


 「ちょ、おま、いってぇな!確かにこんなごつい身体とは言え腹はそれなりに柔らけぇんだぞ!って、いて、おい、アザゼル!話をーーー」


 「うっさい!お前の言い分はわかった!なら俺だけ地上に降ろせ!俺はルシフェルの側近、右腕だぞ!お前の主人と殆ど立場は変わらねぇ!従え!」


 「あぁ!?ふざけんなよテメェ!誰がテメェなんかに従うか!そんなに降りてぇなら振り下ろしてやる!!」


 そう言ったケルベロスは勢いよく、地上を目掛けて落下する

 風の抵抗を受けたアザゼルは空中に放り出されそうになるが、ケルベロスの黒い毛を掴み、なんとかくっ付いているという状況だ


 ものの数秒で地上付近にきたケルベロスは大きく身体を揺らした


 「うおっ!?」


 その衝撃で毛に掴まっていたアザゼルは地上へと放り出される

 ゴロゴロと地面を転がり、仰向けになったアザゼルがケルベロスを見上げた


 「死んでも俺は知らねぇぞ、ルシフェルには勝手に死んだ、とでも伝えておいてやる」


 見下ろすケルベロスはそういうとまた空高く飛び上がっていく

 その背を見つめ、親指を突き立てケルベロスに向けたアザゼルは


 「バーカ、死なねぇよ!なんたって俺の身体は不死身だからな!空から俺の有志でも眺めてな!」


 と、言って歯を見せて笑った


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