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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
12/18

白き氷の精霊

 



 ーーーー混ざりてぇ


 確かにアザゼルはそう言った。

 その言葉を聞いたケルベロスは、かすかに目を見開く。

 この状況を見て人間であるアザゼルが混ざりたい、自らもあの惨劇に加担したいと言い出したのだ。


 「お前、正気かよ」


 「ハハッ、俺はいつでも正気だよ、それよりケルベロス、連れていってくれるのか?くれないのか?俺は結構短気だから早めに返事をくれないか?」


 アザゼルの口はニタニタと笑っている。両手の掌は小刻みに震え、興奮しているかのようだった。

 今にも一人で飛び出して行きそうな勢いを必死にこらえている、といったところだろう。


 「…あぁ、別にお前を背に乗せて暴れろってんなら構わねぇけど、お前があの中にいったところで所詮はヒョロヒョロの人間だ、ましてや武器も持ってねぇじゃねぇか、何にも出来ねぇぞ」


 確かにケルベロスの言う通りだった、アザゼルには自己再生能力はあっても攻撃手段はない。

 武器になるようなものだって、持ってきていない、はずだった。


 「残念ながら用意周到なもんでな、武器だけは持ってきてある」


 そういうとバッと、着ていたマントを広げると、内側一面に小さなナイフが無数に備え付けられていた。


 「…本当に用意周到なこった、でもお前そんなもん使えんのか?」


 「こう見えてダーツは得意だったんだよ、だいたい一緒だろ」


 「ダー…ツ?」


 初めて聞いた言葉に首をかしげるケルベロスに、「まぁ気にすんな」と付け足したアザゼルは、暴れ回っているサッキュバスを見つめながら、再度確認をした。


 「という事だ、もう一度聞く、ケルベロス、俺をあの中に連れていってくれないか?」


 「…はぁ、わーったよ、仰せのままに」


 ため息混じりにケルベロスは呆れたように呟いた。

 しかし、ケルベロスがアザゼルを背に乗せて人々の群れの中に入ろうと一歩踏み出した時の事だ。


 背後から、何者かの足音が聞こえてきた。


 「ずいぶん好き勝手してくれてるじゃないの、魔物風情が」


 甲高い声だが、しっかりとしたドスの聞いた声が背後に近付いてくる。

 ピクッと耳を動かしたケルベロスは、警戒するように瞬時に後ろを振り返る。

 背に乗っていたアザゼルはその行動についていけず思わず体制を崩し、ケルベロスの背から転げ落ちてしまった。


 「いっ、てぇ…ケルベロス、もうちょっとゆっくり…」


 「ガァァァウウウウ、グルルルル」


 地面に落ちたアザゼルは、打った身体を手で擦りながら言ったが、ケルベロスの耳には入っていないようだ。

 まるで獣のように、毛を逆立てながら喉を鳴らす。

 鋭い牙が顕になり、対象を睨み付ける。所謂、威嚇をしている事がわかった。


 ケルベロスが睨みつけている先を見れば、目の前には少女が立っていた。


 真っ白な髪に、真っ白な肌。青い瞳に長い睫毛。

 生気を感じない、人形のように美しい少女はケルベロス同様にこちらを睨みつけていた。


 「ふん、魔獣ケルベロスね、ルシフェルのやつこんな猛獣を放し飼いとは、本当に頭のおかしい化け物だわ」


 「ルシフェルの事を悪く言うなら、噛み殺すぞ、若き精霊」


 ケルベロスの口から出た言葉


 “精霊”


 「精、霊…?」


 初めて聞く言葉にアザゼルは疑問の表情を浮かべた。しかし、ケルベロスの興奮状態を見れば、説明してもらえるのはあとの事になりそうだ。


 「あらぁ?精霊じゃあありませんの、こんな所で何をしてらっしゃるのかしら?サッキュバスが人を抹殺するのを見物だなんて、精霊も趣味が悪いのねぇ?」


 いつの間にか、状況の変化に気が付いたサッキュバスが興奮状態のケルベロスを宥めるように黒い毛を撫でながら隣に立っていた。

 口調はいつものようなお嬢様口調だが、相手を煽る事を目的としていているようで、ニタニタと笑っている。


 インキュバスに対する態度と差ほど変わらないもののように見えた。


 「なーに?魔物ってのはバカばっかりなの?まぁ人を殺すしか脳のない連中だものね、当然か…この私がそんなもの見物するわけないじゃない、あんた達を」


 ーーーー殺しに来たのよ


 精霊と呼ばれた少女はサッキュバスを睨みつけながら冷たく言い放った。


 その瞬間の事だ、アザゼル達を囲むように地面から巨大で鋭利な氷が突き出てきた。

 1歩でも動けば突き刺さってしまうのではないだろうか、というようなギリギリの場所を狙ってきているのがわかる。


 「うわ、なんだこれ」


 しかし、驚きの声をあげたのはアザゼルだけだった。

 サッキュバスとケルベロスは表情も変えずにその場にただ、立っている。

 全て氷が出きったのだろうか、地面から氷が這出る音は消えた。


 沈黙があたりを包み込んでいる。

 サッキュバスが追いかけ回していた人間達は既に皆、逃げたようで悲鳴はなくなり、静かになっていた。


 「今なら逃がしてやらない事もないよ、 そこの女の全身の血をくれたら、ね。」


 精霊は人差し指でサッキュバスを指差すと、微笑んで言葉を続けた。


 「お前、見た所、淫夢の魔物ね?淫夢の魔物の血は死んだ生き物を生き返す事が出来ると聞いているわ、お前の血を使ってお前が殺した村人を生き返す事が出来れば、今回の事は水に流してあげる、どう?いい提案だと思わない?」


 「ふざ、けんじゃねぇ!サッキュバスは俺の仲間だ!お前みたいな得体の知れないもんに殺されてたまるかよ!ボカボカ変な氷出してきやがってビックリするじゃねぇか!」


 「最後のはお前の不満だろ…」


 精霊の言葉に反論したアザゼルにケルベロスがツッコミをいれる。

 そんな姿を見たサッキュバスは、笑みを零した。


 「ハハハッ、ルシフェル様が気に入るの、少しわかる気がするわ、確かにサッキュバスは貴女ごときに殺されるわけにはいきませんの。ルシフェル様から受けた命令をしっかり遂行しない事には死んでも死にきれませんわ!それにサッキュバス、淫夢の魔物と呼ばれる事が大嫌いですのよ!あのインキュバスと同じだと思うだけで、腹立たしい!」


 笑っていたサッキュバスは徐々に声を荒らげていく、1番興奮しているのはインキュバスの話をした時だった。

 きっと、サッキュバスはライバルであるインキュバスが相当憎たらしいのだ。

 地面をドンドンと片足で踏み続けている。


 「ふ、ルシフェルも随分従順な配下を手に入れたものね、そう、この条件、のんでもらえないみたいだね、それじゃあ仕方ない」


 ーーーーお前を殺すことにするよ


 精霊が掌をサッキュバスにむけると、周りを囲んでいた氷がパキンッと音を立てて散り散りになった。

 しかし、それは邪魔氷を退かしたにすぎない。


 掌からはまた、新たな氷の粒が無数に出てきた。それはまるでビービー玉のように小さいのものなのだが、数が多い。

 そして、スピードも早い、銃で撃たれるような気分だ。


 ケルベロスはアザゼルの服をくわえ引っ張りあげると、空高く上へ飛んだ。

 サッキュバスも同様に、同じ方向ではないが避けられたようだ


 「あっぶね、なんだあれ、鉄砲かよ、なぁケルベロス、サッキュバスはあいつに勝てる見込みとかあるの?相手は氷を自由に使ってるけど、サッキュバスって物理攻撃しかできないイメージあるんだけど 」


 服を咥えられながら、ブラブラと宙に浮くアザゼルはケルベロスに問いかけた。

 咥えている為か、喋れない様子のケルベロスはくいっとアゴを上に向けると咥えていた口を離す。

 すると、アザゼルは宙を舞い、綺麗な放物線を描いてからケルベロスの背の上に見事、着地した。


 「サッキュバスは確かに物理攻撃が主だが、その分速い。もしかしたら俺より速いかもしねぇな、本気で競った事がないからわからないけど、それにサッキュバスにはそれだけじゃねぇよ、まぁ俺とお前はとりあえず空中で観戦といこうか。よく見とけ、仮にも魔王候補者の実力、ってのをな」



 そう言うとケルベロスは宙に浮いたまま、地上に降りようとはせず、下を眺めている。

 目線の先には、精霊と少しを距離をとったサッキュバスがいた。


 「ちぇっ、せっかく暴れるチャンスだと思ったのになぁ」


 楽しみにしているかのような視線を向けるケルベロスとは違い、アザゼルは黒い毛に頬をつけながら、拗ねた子供のように突っ伏し、サッキュバス等を見つめていた。


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