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史上最恐の男と呼ばれるまで※改変前  作者: 鯨鮫 鮪
第1章
11/18

魔王候補第21位サッキュバス

 



 ーーーキャアァア!魔物よ…!


 ーーー逃げろ、逃げろぉお!



 目の前に広がる光景。

 それは、人が逃げ惑い、死体がそこら中に転がる地獄絵図だ。

 逃げる者は、死体を踏みつけ、血で出来た水溜りをビシャビシャ音をたてながら走り抜ける。

 自らの生命が最優先、死体となったもの、転んで足をくじき立ち上がれなくなった者は容赦無く置いていく。

 逃げなければ、死にたくない殺されたくない、そんな生への執着のみがこの場を支配する。


 あぁ、なんて、なんて



 ーーーー醜い光景なんだろう






 ************





 “領土交渉”


 人間の住まう村や街の土地の権利を欲するが為に、人を殺す事を繰り返す。

 魔物達によっては、容易い仕事の一つである。

 その行動の意は、魔王国で行われている王候補戦の順位をあげる為と言われている。

 順位は、自らよりも高い順位の者を殺す事によって変わるが、その他にも、土地の所有数、人間を殺害した数、奴隷にした数などによっても変わるとされている。


 故に、領土交渉という名の殺戮は、今現在、人間が住まう場所で多く行われている。


 そしてまた、この小さな名も無き村でもーーー




 ********





 アザゼルとサッキュバスは、ルシフェルが所有する番犬、ケルベロスという名の者の背中に跨っていた。


 番犬とは言っているが、黒くとても巨大で鋭い爪に、尖った牙、身体は真っ黒の毛に覆われている。その巨大な大きさを除けば、パッと見は狼のようだ。


 それに一番おかしいと思われるであろう事は、翼が生えている理由でもないのに、その生き物、ケルベロスは空を飛んでいる、という事だ。


「なぁ、ケルベロス?村まであとどれぐらいなんだ?」


「もうそろそろ見えて来るんじゃねぇか?」


 ケルベロスはその見た目からは、まさか喋れる生き物だと思えなかったがわりと口が悪く流暢に喋る事が出来るらしい。


 ベッドでいつの間にか寝ていたアザゼルをサッキュバスが叩き起し、庭に連れていかれたかと思えば目の前には喋る巨大狼だ。ついでに空も飛べる。

 初めはその見た目、喋れる事、空を飛び上がった事に度肝を抜かれたアザゼルだが、もう彼の上に跨って1時間を経過した。


 近く感じる空も、口の悪い声も、見た目よりフワフワとした黒い毛も時間が経過してしまえば、案外慣れてしまうものだ。


 この世界にやってきた時に、初めて見たのがあの気持ち悪い低級悪魔と呼ばれる者達だ。喋る巨大狼など可愛いものの様に思える。


 それに、アザゼルは魔王国を初めて出て、新発見をした。

 空の色、だ。

 魔王国の空は常日頃から淀んでいて暗く、昼間でも夜でもそれは変わらない。

 しかし、魔王国から一歩外に出れば、見慣れた青空が広がっていた。

 どうやら暗いのは魔王国の上だけらしい。


「見えてきましたわ、あそこよ」


 アザゼルの前に跨るサッキュバスは、正面を指指す。

 指さされた先を見ると、辺りは森に囲まれた小さな小さな村が見えた。

 100人程しか住めないのではないだろうか、と思えるほど小さな村が今回の目的地のようだ。


「あー、あれか?なんか思ったよりちっちぇな、10人殺したら村滅びたりして」


 軽口を叩くアザゼルは、これから人間である自らが人間を殺める事になるかもしれないというのに平常心、とも見えるほど落ち着いたものだった。

 不思議に思ったサッキュバスが口を開く。


「それで滅んでくれたら疲れなくてサッキュバスとしては喜ばしい事ですのよ、それにしてもアザゼル、貴方ずいぶん落ち着いてるのね?これから人間の身でありながら人間を手にかける事になるというのに」


「あ?あー、そりゃあ、な?俺は別に人間が昔から大好きだと思った事は一度もないし、むしろ大嫌いとも言える。まぁ、人間が人間を殺めるなんて俺が昔住んでた所じゃ日常茶飯事だったからな、自分の私利私欲の為に誰かを手にかける、そんなんはしょうがない事だ。みんな自分が可愛いに決まってんだから、それに殺めた奴はそいつがどんな事を思いながら死んでいったかなんて知ったこっちゃねぇんだ、だから俺も知ったこっちゃねぇ、それだけだ」


 時折、冷たい目をするアザゼルはサッキュバスの疑問に淡々と答えた。

 そしてその言葉を聞いたサッキュバスは何か考えるかのように、アザゼルを見ようとはせず真っ直ぐ小さな村を見据えながら、「ふーん」とだけ言った。


「おい、サッキュバス、村の入口で降りるか?それとも中心部で降りるか?」


 気付けば村のすぐ上空まで来ていたケルベロスが、振り向きながらサッキュバスに声をかけた。


「…あ、うん、そうですわね、どうせなら派手にいきたいですわ!」


 考え事をしてボーッとしていたサッキュバスはケルベロスの声にハッとすると、張り切るかのように手を広げながら答えた。


 派手に、というのはつまり村人が多く集まる中心部にそのまま降り立つ事を意味する。

「了解だ」と言いニヤリと笑ったケルベロスは飛んでいたスピードをあげると村の中心部の上空まで行く。


 下を見れば、村人であろう者達が多く見えた。

 小さいながらにはやり建物の造りは洋風で、屋台のように様々な店が並び、噴水や広場などもあるようだ。

 今にも笑い声が聞こえてきそうなほど平和な村という印象だった。


 しかし、そこに一匹の魔獣であるケルベロスは中心部、広場となっている場所を目掛けて勢いよく降り立った。


 ーーーズドォォォォオォオオオン


 降り立った衝撃で、広場であったアスファルトは粉々になり、砂埃のようなものをたたせる。ケルベロスの大きな身体が勢いよく落下してきたのだ。アスファルトであろうと無事なわけはなかった。


 大きな音により、村人が広場に次々と集まってくる。

 砂埃が立ち込めていて、ケルベロスの姿はハッキリと見えないようで、なんだなんだ?と騒ぎ立てていた。


 やがて、砂埃が風に流れた時、ケルベロスの姿がハッキリとしたものに変わった。


「ごきげんよう、人間諸君、私は魔王候補21位サッキュバス。我が主ルシフェル様の為に」


 ーーーー死んでもらいに来た



 ケルベロスから慣れたように地上に降り立つサッキュバスの口調はいつものお嬢様口調などではない。ハッキリとドスの効いた声だった。

 口元はニタァと横に広がり、集まる村人に向けて掌を向けたと思えば、その爪は徐々に鋭くなっていく。

 そして、驚くべきなのは笑みを浮かべたサッキュバスの瞳。

 血が滲んだように赤く豹変している。


 ケルベロスに跨ったままその禍々しいサッキュバスの姿を見たアザゼルは息を飲んだ。


 頭には黒い角、鋭い爪、真っ赤な瞳、そして人を殺す事が喜びであるかのように笑みを浮かべる口元



 あぁ、これが


 ーーーー魔物なのか




「ま、魔物だァァ!魔獣も連れてるぞ!逃げろ!逃げろぉおっ!」


「キャァァアア、だ、だれか誰か助けてぇ…っ!」


 広場に集まってきた村人達は、ケルベロスの姿、サッキュバスの姿を見ると一斉に反対方向へ逃げ出す。


 泣き叫ぶ者、一目散に走り出す者、腰を抜かす者、人の波に足をつっかえ盛大に転がる者


 事態の緊急さが人々の焦りようで手に取るようにわかる。

 人々が走る事で、先程消えた砂埃がまたも立ち込める

 悲鳴と足音が混ざり合うその光景を、サッキュバスは嘲笑うかのように声を上げた。


「ハハッ、アハハハハハハッ!!さぁ逃げなさい!全力で走るのよ!息も絶え絶えになって、足がもつれて転がった無様な奴から」


 ーーー殺してあげる…



 恍惚な表情を浮かべるサッキュバスは先程、人の波に足をつっかえ転んだ者をチラリと見ると、前に進む為地面を軽く蹴った。

 しかし、その軽く蹴った、と思われる行動からは考えられない程のスピードで移動するサッキュバスはやはり人間ではない、駆け寄るというよりは軽く前に飛んだだけ、ただそれだけで数10メートル先に転がるその者の所まで辿りついてしまった。


 転んだのは青年、地面につく身体を仰向けにし、目の前に立つサッキュバスを恐怖に染まった表情で見上げる。歯はガタガタと音をたて、逃げ出したくても身体が固まったかのように動き出すことが出来ず、ただ真っ赤に染まった瞳をしたサッキュバスを見つめる事しか出来ないでいた。


「貴方、綺麗な顔立ちをしているのね、気に入ってしまいましたわ」


 怯える青年を見下ろしながら口元は微笑んでいるが、どこか虚ろな目をして呟いた

 そしてそのすぐ後の事だ。

 鋭く尖ったサッキュバスの爪先によって、青年の首が飛んだ。

 ゴロゴロとボールでも転がるかのように転げ落ちた首は血液の道を作る。

 首を切断された青年の身体からはまずで噴水の如く、血液が吹き出し、サッキュバスの顔を返り血で染め上げた。


「キャァアアアアアァァァアア!!」


 逃げていた女がその光景を目の当たりにし、悲鳴をあげる

 しかし、悲鳴をあげたのはその女だけではない。

 嘔吐する者、恐怖で笑い出す者、過呼吸を起こし倒れる者など後を絶たなかった。


 青年の首を切り落としたサッキュバスはまた地面を蹴りながら素早く人々の群れへ移動する。


 移動しては、喉を切り裂き、移動しては、胸を貫き心臓を握り潰す。

 サッキュバスの黒いドレスは血に濡れ、顔や手足その身すべて血液がついていない箇所はないのではないだろうかと思えるほどだ。


 その光景はまさに地獄絵図。

 数秒の間に何人もの人間が無惨にも殺されていく光景をケルベロスの背に跨りながら、見つめるアザゼルの身体は小刻みに震える。


 しかし、それは恐怖からではない。

 何故なら、彼の口元は笑っていたのだ。

 それも、サッキュバスのように歓喜であるかの如く、笑っていた。


「…ケルベロス、行こう、連れていってくれ、俺も」



 ーーーー混ざりてぇ


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