大魔法使いの正装姿
「ノア殿! 戻ったぞー!」
意気揚々と、ノアの元へと戻るルーカス。手には分厚い魔導書らしき物を持っている。
「ルーカス、おかえり」
「殿下、お疲れ様でした」
「おお、ノア殿起きたか。ワーナーにも少し協力してもらって、大臣から例の本受け取ってきたぞ!」
ルーカスは魔導書をノアへ手渡す。タイトルは「呪いの書に関する記述」とある。明らかに偽物を渡されているが、この本は別の意味で興味深い……
「ありがとう、ルーカス。鉱石渡した?」
「ああ。渡しておいたぞ!」
本物の呪いの書はすでにノアの持ち物の中だ。どうやら、それをルーカスに言うつもりはないらしい。
しかし、これで大臣が呪いの書がないとわかったとしても、偽物を渡したなんて言えるわけがないだろうし、鉱石を貰っている手前泣き寝入りするしかないだろう。
「助かったよ、ルーカス」
言いつつ、ノアは受け取った本をそっと開く。
中には魔法陣に、呪いについての記載などがびっしりと書かれていた。
そして、ノアはそのまま本に没頭してしまった。
せっかく本を持ってきたのに、あっという間に本に夢中になってしまったノアを、少し寂しそうに見つめるのであった。
◇
婚約披露パーティーは、滞りなく終わった。
ノアは本を抱えて出席した……というか、エレナに引きずられて会場へ入場した。
「本当に行かなきゃだめぇ?」
「当たり前でしょ! 国賓として招かれてるのよ!」
エレナが頬を膨らます。
「でも、この本まだ途中……」
「その本、置いていってね!? 見つかったらややこしいでしょ?」
「うーーん……あ!」
ノアがニヤッと笑う。
本を左手に持ち、右手を本に向かって広げる。フワッと風が吹き、本が美しく煌めいた。
その本は、見た目がガラッと変わっていた。いかにも魔導書だった茶色の表紙は、深い青色に変わり、中身も魔術の記載ではなく、外国語で書かれたかのようだった。
「これなら持って行っても大丈夫だね!」
瞳をキラキラさせて自分を見るノアに、エレナは大きくため息をついた。
「……もう。しょうがないんだから。でも、ちゃんと着替えて行くのよ?」
「着替え……? そんなの持ってないよ」
「ルーカス殿下が用意してくれたわ! はい、それまで本は没収。こっち来て!」
「ああぁ!」
◇
エレナは淡い紫色のドレス姿に着替えた。長い金色の髪は、一つに結えられている。その姿は凛としていて、元貴族の令嬢なだけある。
「エレナ嬢、とてもよく似合っているわ」
「ルーカス殿下!」
ルーカスが着替えを済ませ、従者と共に現れた。
「ノア殿が着替えを渋っていてな……先に会場へ参ろう」
「わかりました」
(ノアは、確かに嫌がりそうだ……)
エレナは苦笑した。
会場は、キラキラした衣装に身を包んだ人々で賑わっていた。
「ではエレナ嬢、あとでな!」
「はい。殿下」
ルーカスがいなくなり、エレナは知り合いもなく落ち着かない……しかし、そんな事は一切顔には出さずに微笑みを顔に貼り付けていた。
「こんばんはレディー」
「リウム王国からですか! お名前お聞きしても?」
「私はバーム王国の者で……」
「お一人ですか?」
エレナの美貌に寄ってくる人々。
(どうしよう……)
流石のエレナも戸惑いはじめた——
「ごめん。エレナは僕のパートナーだから」
「……!」
そこにはスーツ姿の青年が立っていた。
「……ノア?」
それは正装したノアだった。
いつものローブ姿ではなく、仕立てられたスーツを着こなし、姿勢もとても良い。
冷たい瞳でエレナの取り巻きを見る姿に、人混みは散っていった。眉間にシワを寄せ、機嫌の悪そうな表情は確かに迫力がある。
普段のノアを知っているエレナでさえ、一瞬別人に見えた。
「ノア……背高くなった?」
「靴の底がいつもより高いし、姿勢も良くしろってメイドに言われてさ。こんな窮屈な服、すごいヤダ」
外見はカッコ良くなっているのに、中身はまるで変わっていないギャップに、エレナはぷっと吹き出した。
「何笑ってるのさ? あ、本返して」
「ふふ。どうぞ」
ノアは本を受け取ると、表情が少し和らいだ。
その時、ワーナー殿下の妹が婚約者と共に現れた。会場中から、拍手が巻き起こる。
◇
二人で会場からバルコニーへ出た。
そこには外用ソファが置かれており、涼しい風が吹いていた。
「エレナ寒くない?」
「うん。少し寒いかも……。ノア外にいていいよ。私会場に戻ってるから」
ノアは本を読むのだろう。
長時間ドレスで夜風は寒い。邪魔しないように会場へ戻ろうとすると、不意に手を掴まれた。
「エレナ! 今日はすごい綺麗なんだから、一人でいたらダメだよ!」
「……へ!?」
エレナの顔がみるみる赤くなっていく。
それに全く気付かないノア。
「ちょっと待ってて」
ノアがエレナに手をかざす。
すると、エレナは、ホワっと体の外に膜が張ったかのような感覚になった。
「寒くない……」
「炎の魔法を薄くしてエレナを覆った。これで一緒に読書できるね!」
「一緒に?」
ノアは外にあったソファに座り、隣に手を置く。
「ほら、おいで?」
「……うん」
ノアがいつも通り本を読み始める。
隣に座ったエレナは、体温が上がって、むしろ夜風に当たりたいと思うのであった。
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