大魔法使いは根に持つ
「ふわぁ……寝てた……」
「おはようノア」
(……あれ?)
膝枕されていたことに気が付いたノア。のっそりと起き上がり、エレナをじっと見ている。
「どうしたの?」
「柔らかくて寝やすかった……またやって」
「あ、ええっ!」
あたふたするエレナ。何事もなかったかのように伸びをするノア。
「白虎のフワフワもいいんだよなぁ……」
「……私、枕じゃないんだけど!」
頬を膨らませるエレナ。そんな姿を横目で見ながら、ノアは立ち上がった。
「じゃあ、僕、図書館行ってくる」
「いやいやいや……今ルーカス殿下が、例の本の在処を調べてるから」
「そうなんだ。やることないし、いいよね?」
「えぇぇえ!?」
ノアはさっさと歩き出す。仕方なくエレナも付いていくことにした。と、前方から急足で歩いてくる黒いローブの男性……
「あ! あれ、大臣だよ」
「え! 刺客送ってきた人!? 隠れなきゃ!」
二人は急いで柱の陰に隠れた。大臣は二人に気付いていないようだ。
そのまま柱の近くまで向かってくる大臣。
冷や冷やしながら潜んでいると、ちょうど手前の部屋に入っていった。
「なんであの人が大臣だって分かったの?」
「王城でローブ姿なのは多分大臣。あと、僕たちがこの城についた時、めっちゃ見てたから……」
「そんな見てる人いた?」
エレナは思い出そうと頭をひねる。
「ワーナー殿下が出迎えてくれたとき、窓から視線感じて……僕、人から見られてると落ち着かないから」
「それで、見てる怪しい奴=刺客送った大臣ってことね!」
「そんなとこ」
「あの部屋に呪いの本あるのかな……」
「エレナ、行っちゃダメだよ? また間違って、あの本開いたら、金魚になっちゃうんだから!」
「うっ……」
不注意で本を開いた前科があるエレナは、何も言い返せずに項垂れた。
「そっと忍び込んでくるよ」
「また見えない魔法?」
言い合っているうちに、ドアが開く。二人は慌てて口を閉じた。本を小脇に抱えているようだ。そして大臣は来た道を足早に戻る。
「あの本……」
「呪いの本じゃないわよね?」
「大臣もいなくなったし、本物探しに行こう」
二人は部屋へ忍び込む。鍵は……かかっていても、ノアには意味のないことである。
足を踏み入れる——
「ああっ!!」
どこからか驚いた声……
「金魚だ……」
エレナが絶句する。
「あの時の刺客だね。ちゃんと飼われてたんだ……」
ノアは冷ややかに一瞥する。エレナを殺そうとしたことを、だいぶ根に持っているようだ。
「な、なんであんた達がこの部屋に……!?」
「呪いの本どこ?」
有無を言わさない迫力に、金魚のランは唾を飲み込んだ。
「それは……さっき大臣が持って行って——」
「あれは別の本だったわ!」
エレナが声を上げる。
「私、一回開いてるんだから! 間違えるはずないわ!」
偉そうに胸を張っている。
……自慢できるようなことではない。
「えっと……」
「言わないの?」
今にも水を抜きそうな冷たい目に、金魚は慌てて叫ぶ。
「言うわ! 言うから、私を元に戻してよ!?」
「やだ。大臣に頼みなよ」
「そ、そんな……」
「返答次第で、元に戻るための材料はあげてもいいよ?」
青く光る鉱石のことだろう。
確かにノアは準備の時に、せっせと詰めていた。とエレナは思い返す。
「くっ……! わかったわよ。この水槽の下、棚の開きに入ってるわ」
本棚ばかり見ていたエレナは、水槽を載せてある棚を見る。確かに開き扉の収納がついている。
「でも、その扉は強力な鍵の魔法が施されてるわ! 国家の精鋭の魔法使いたちが何人も、何日もかけて……」
「本物だね」
ノアが呪いの本を持って、呟いた。
「え!?」
ランは目を丸くする。
彼女が話している間に、強固な鍵はノアによって簡単に破られていたようだ。
「ありがとう、場所教えてくれて!」
エレナが手を振る。ノアは金魚に見向きもせず、二人は部屋を出て行った。
「……!」
ランは驚きのあまり動きを止める。
(あんなに何重にも封印の魔法をかけていたのに……なんで開けているの!? 一瞬のうちに破られたってこと……!?)
ノアの規格外さに口をパクパクして、本物の金魚のように声も出せないランであった。
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