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魔力無制限の大魔法使いは、静かに読書したいだけ  作者: 紙絵。
第一章 大魔法使いと金魚

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ドラゴンより、本が大事

 王都の城壁の一部は崩れ、市場には商品が並んだまま。人の姿はほとんどない。


「みんな避難したんだな」


 ノアは呟いた。

 

「お帰りなさいませ、ルーカス王子!」


 騎士たちが一斉に敬礼した。

 ルーカスは軽く頷く。


「避難状況は?」

「完了しております」


 敬礼した騎士たちが、さっと城の重厚な門を開ける。


「ノア殿、一度城にて報告だけしたい。しばし城内でお待ちいただいても宜しいか?」

「うん。相変わらず手続きだの何だのって面倒くさいよね」

「悪いな」


 ルーカス王子は従者を連れ、足早に城内へと入っていった。


「ノア様、こちらへ」


 残された従者に促されるまま、ノアは歩みを進める。


「あれが大魔法使いノア様か!」

「あの少年がか?」

「でも王子が直々にお連れしたのだから……」


 周囲から噂する声が聞こえる中、応接室へと通された。城に残っているのは、城や街を守る最低限の騎士団くらいのようだった。


「ねぇ、ドラゴンの様子、見て来てもいい?」


 応接室に通されてから五分と経たぬうちに、ノアは立ち上がった。


「しかし、ルーカス様がもうすぐお戻りになりますので……」

「でも、ルーカスがいてもいなくても、ドラゴンを倒すことに変わりはないでしょ?」

「えっと……いや、それはそうですが」

「早く倒して、本もらわなきゃ!」

「え……?」


 従者は目を丸くした。

 この少年は、本当にそれだけのために来たらしい。

 そして、ノアは窓を開け放つと、空へと飛び立っていった。


「……行ってしまわれた」


 従者は呆然と、遠ざかる背中を見送ることしかできなかった。


 ◇


 森の上空。ノアは高度を下げた。

 ドラゴンに気づかれないよう、木々の間を低く飛ぶ。


「……いた」


 森の奥。

 巨大なドラゴンが群れを成していた。その数、数十。

 さらに地面には、いくつもの卵がある。

(これ、孵化したら大変だ……)

 

 ノアは地面へ降りた。左手を地面につける。

 次の瞬間。

 

 ——森が凍った。


 地面から巨大な氷の壁が伸び、木々を包み、ドラゴンたちの身体を一瞬で凍結させていく。

 咆哮すら上げる暇がない。


「……!」


 後から追いついたルーカスと騎士たちは、言葉を失っていた。


「ノア殿……?」

「凍らせただけ」

「……だけ?」


 ルーカスの声が震える。ノアは凍りついたドラゴンの群れを見つめる。


「このままだと後片付けが面倒だね」

「後片付け!?」

「うん」


 ノアは再び左手を地面につけた。


「少し下がって」

「何を——?」

「熱くなるから」

「全員、退避!」


 ルーカスが叫ぶ。騎士たちが一斉に森の外へ走る。


「ルーカスも」

「私はここにいる!」

「……じゃあ、これ」


 ノアが手をかざす。ルーカスの身体を透明な防御壁が包み込んだ。


「これで大丈夫」

「……おお! ありがとう」


 次の瞬間。

 炎が噴き上がった。

 凍ったドラゴンたちは一瞬で灰になり、氷すら残らず消えていく。

 そして、何事もなかったかのように、森が静かになった。


「……」


 ルーカスは呆然としていた。


「終わったよ」

「すごい……」

「いや……」


 ルーカスの目が輝く。


「氷結魔法でドラゴンの動きを完全に止めて、そのあと炎を放ったのか……!」

「うん」

「相反する性質の魔法を、あれほどの規模で同時に扱うなんて……!」

「さっき読んでた本に載ってて。使ってみた」

「本に載っていたからといって、できることではない! ノア殿、今の魔法の理屈をもっと詳しく——」

「それより」


 ノアが手を差し出す。


「本」

「……」

「約束したよね?」

「ああ」


 ルーカスは苦笑した。


 ◇


 城へ戻ったノアは、すぐに魔導書を開いた。

 豪華な応接室。巨大なソファ。そして、その上で体育座りになって本を読む少年。

 そこへルーカスが入ってきた。


「ノア殿、少しいいか?」

「……」

「ノア殿?」


 返事がない。ルーカスが顔を覗き込む。


「……」


 ノアは本から目を離さない。


「本当にすごい集中力だな……」


 しばらく待ってから、ルーカスが口を開く。


「ノア殿。城に住む気はないか?」

「嫌だ」


 即答だった。


「まだ最後まで言っていないぞ?」

「城に住むのは嫌」

「なぜだ?」

「人が多いから」

「しかし、城には珍しい書物が——」

「……」


 ノアの目が初めて本から離れた。


「どんな本?」

「興味があるのか?」

「少し」

「なら城に住んでは——」

「でも嫌」

「そこは変わらないのか……」


 ルーカスが肩を落とした。その日、王都は救われた。


 そして翌朝、一つの噂が広がり始めていた。

 ——リウム国には、とてつもない大魔法使いがいる。

 その名は。

 ノア・ミラー。


 その頃の本人はというと——

 

「……この魔導書、面白いな」

 

 まだ城の応接室で、本を読んでいた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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