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魔力無制限の大魔法使いは、静かに読書したいだけ  作者: 紙絵。
第一章 大魔法使いと金魚

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魔力無限になるか、死ぬか

 コンコン。


「こんにちはー」


 森の入口に建つ小さな山小屋。その扉を、今日も誰かが叩いている。


「……」


 しかし、中から返事はない。

 もう一度。


 コンコンコン。


「大魔法使い様ー! いらっしゃいますよねー!」

「……うるさい」


 ベッドに寝転んだ少年——ノア・ミラーは、顔を上げることすらせず、呟いた。

 

 部屋の壁という壁は、本棚で埋め尽くされている。

 物語。図鑑。歴史書。魔術書。論文。禁術に関する研究書。種類を問わず本がある。

 少年の手元にあるのも、分厚い魔導書だった。


(この魔法は威力を倍にするのか……ということは、炎魔法と組み合わせると……)

 ノアは夢中でページをめくる。

 読むことで知識が増え、魔法の扱いも上手くなる。魔力も減らないノアは、その組み合わせで最強魔法使いになっているのだが……

 本人は、そんなことは気にも留めていない。

 

 そんな彼が呪いを受けたのも、図書館だった。ノアはそこで、ある呪いの書を開いてしまった。

『魔力無限になるか、死ぬか』

 本にはそう記されており……ノアは生き残ったのだ。

 それ以来、ノアの魔力が尽きることはない。


「ノア、誰か来てるわよ」


 部屋の隅に置かれた金魚鉢から声がする。


「知ってる」

「じゃあ出なさいよ」

「嫌だよ」

「なんでよ!」

「本読んでるから」

「いつもそれじゃない!」


 水面から一匹の金魚が顔を出す。

 名前はエレナ。

 ノアとは幼い頃からの付き合いである。


「ほら、ちゃんと話を聞いてあげなさいよ。何か大事な用事かもしれないでしょ?」

「大事な用事なら手紙を置いて帰ればいい」

「あなた、手紙すら読まないじゃない!」

「そのうち読むよ」

「絶対読まないでしょ!」


 そのときだった。


 ドンドンドンッ!


「大魔法使い様!」

「ノア・ミラー殿!」

「どうか話を聞いてください!」


 外から大きな声が響く。ノアは眉をひそめた。


「最近、多いな……」

「そりゃあ、そうでしょうね」


 エレナがため息をつく。


「あなた、ドラゴンを何匹倒したと思ってるのよ」

「さぁ……数えてないよ」


 ノアは読んでいたページに、近くにあった手紙を挟んだ。


「少しだけ話を聞いてくる」

「それがいいわ」


 扉を開ける。そこには、王家の紋章を身につけた男が立っていた。


「ノア殿!」

「……また?」

「まただ」


 男は疲れ切った顔で答えた。


「頼む、助けてくれ!」

「……一応、聞くよ」

「ドラゴンだ」

「何匹?」

「数十匹」

「多いね」

「王都の近くに巣を作った。卵もある。数日以内には孵化すると思われる」


 男は頭を抱えている。

 

「騎士団は?」

「住民の避難で手一杯だ」

「他の魔法使いは?」

「集めているが、ドラゴンの群れに対抗できる者はいない」

「そう?」

「ノア殿にしか、頼めないのだ!」

「……」


 ノアは扉を閉めようとした。


「待て待て待て!」

「僕は読書の途中なんだけど」

「頼む!」

「嫌だよ」

「国家の危機なんだ!」

「そうなんだぁ……」

「少しは危機感を持ってくれ!」


 男が再び頭を抱える。

 ノアの顔には、面倒くさいとはっきり見てとれる。


「うーん……」


 そのとき、男の後ろに控えていた従者が一歩前へ出た。


「ノア様」

「なに?」

「こちらを」


 従者が両手に抱えていた箱を開く。

 中にあったのは、一冊の本だった。古びた黒い革表紙。表面には、見たこともない魔法文字が刻まれている。


「我が国に三冊しか存在しないと言われている、古代魔導書です」


 ノアの目が変わった。


「それ! 読んでいいの?」

「今回の依頼を引き受けていただけるのであれば——」

「行くよ」

「え?」


 ノアはもう外へ出る準備を始めていた。


「ドラゴン退治でしょ?」

「あ、ああ……」

「早く行こう」


 その様子を見ていたエレナが、金魚鉢の中で呆れた顔をする。


「ほんっと、分かりやすいんだから……」


 こうして、世界最強と呼ばれる大魔法使い、ノア・ミラーは、たった一冊の魔導書を読むために、王都へ向かうことになった。


 ◇


 ノアは空へ飛び立った。

 目的は、一冊の未知の魔導書。


「どんな本なのか、楽しみだな〜」


 ノアは笑みを浮かべる。

 ノアにとってドラゴンの群れの討伐は、本を読むための寄り道に過ぎなかった。

読んでいただき、ありがとうございます。

面白ければ星5、つまらなければ星1

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