序章
空を飛ぶ人影。
この国で空を飛べるのは魔法使いだけだ。
「すごい速さだな……」
「我らも飛行魔法が使えれば、早く目的地に着くのだがな」
「飛行魔法は難しいからなあ」
空を見上げるのは騎士団だ。任務を終え、帰路に着く途中である。
海面が太陽の光に反射してキラキラ光っている。久しぶりに晴れた青空も、澄みきっていて清々しい。
しかし、空を飛ぶ少年は景色など目に入っていない。
前しか向いていない。とても急いでいるようだ。
その理由は、大事に抱えた本にある。
(古代魔導書、氷の魔法編! やっと見つけた! 早く山小屋に籠って読みたい……あぁ、一体どんな氷の魔法が書かれてるんだ!?)
少年の口元が緩む。
そのとき——
——ザッパーーン!!
少年の目の前に、水竜が現れた。
大きな水飛沫とともに首をもたげ、少年を睨みつける。
水中から空を飛ぶ少年を狙っていたのだ。
巨大なクジラほどもある水竜が、大きな口を開けて少年を待ち構えている。
「……はぁ」
少年はため息をついた。
「また邪魔が入った」
そして水竜を一瞥すると、速度を落とすことなく、そのまま突き進む。
少年は指先をほんの少し動かす。
「ギャアアアオオ!!」
竜の雄叫びが間近で聞こえた、その時
——ピカッ……!!!
視界が真っ白になった。
一瞬、すべての時が止まったような感覚……
——ドカーーン!!!
遅れて、凄まじい雷の音が轟いた。
白い光が消え、徐々に視界がクリアになっていく。
水竜は、一瞬で黒焦げになり、煤となって地上へ落ちていく。
「本が濡れなくてよかった」
大事に抱えた本をチラッと見て、そのまま空を突き進んで行く。
一部始終を目撃していた騎士団は、目を疑った。
「今の……見たか?」
「雷……一瞬で灰になった」
「あの凶暴な水竜を!? 物凄い大きさだったぞ!?」
空飛ぶ少年の頭には、早く帰って読書をすることしかなかった。
水竜を倒したことなど、少年にとってはどうでもいい。
大事なのは——
「早く、この本を読みたい」
ただ、それだけだった。
◇
僕は幼馴染を助けたい。
その為には、今よりも成長して、頼られるようにならないと……
「……僕がもっと大きくなったら、エレナを助けてあげる」
「……本当?」
「うん。お嬢様が嫌になったら、逃げてきて」
「ふふふ。分かった」
十年前の約束。
僕はエレナを助ける方法を探すため、図書館へ通った。
「本って……面白い!」
僕は感動した。
そして気がつけば——本の虫になっていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
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