大魔法使いは敬語が苦手
ノアとルーカスは国王の前に跪く。サリア王国の国王は、ワーナー殿下と同様に、筋骨隆々の大柄な人だった。
「よくぞ参られた。そして、我が国の脅威を倒してくれたこと礼を言う。ゆっくりしていかれよ」
「はっ」
ルーカスが返事を返す。
国王との謁見を終え、退室しようとすると、ノアは国王の従者より声をかけられた。
「ノア殿、少しお話が……」
「では私も……」
「ルーカス殿下はご退室いただいて結構ですよ」
笑顔でかわされ、渋々退室するルーカス。ノアは従者へ付いて、再び国王と対面する。
「ノア殿、呼び止めてすまない。我が国の者がお主に、たちの悪い客人を送ったと耳にした」
ノアは思い当たった。
(金魚になった刺客のことだろう)
「すまなかったな」
「……!」
(一国の国王が、謝罪を……!?)
さすがのノアも驚きで固まっていると、サリア国王の従者が口を開く。
「このことはご内密に」
「我はもともと陰でコソコソとするのは嫌いなのだ。我のことを勝手に思って、家臣が暴走しがちでな……」
「そう……なのですね」
ノアは、ようやくそれだけ答えた。やはり敬語は苦手である。
「うむ。呼び止めて悪かった! この城は自由に使ってくれて構わん。大魔法使いとしての活躍、我が国も注目しているぞ!」
「……はい」
「ノア様、こちらへ……」
従者へ促され、ノアは部屋を後にした。
◇
ルーカスはエレナと共にノアを待っていた。
「エレナ嬢はノア殿と、どこで知り合ったのだ?」
「幼馴染なんです。もともと私の家で働いていた、使用人の息子がノアで……よく小さい頃から一緒に遊んでました」
「ほぉ! そうだったのか」
コンコン——
ドアをノックする音。
ルーカスの従者が扉を開けると、顔色の悪いノアが立っていた。
「ノア殿! 国王と何か話したのか? 大丈夫か?」
「ノア! 顔色が悪いわ……こっち来て座って!」
二人に心配されながらソファへ腰掛ける。
「いや、刺客送ったこと……あ!」
ノアは、はっとした。
「これ、言うなって言われたんだ……」
頭を抱えるノア。
危ない危ない……気を取り直して、口を開く。
「とりあえず、刺客を送ったのは大臣が勝手にやったそうで、国としての意思じゃないらしい」
「そうか! それは一安心だ!」
ルーカスと従者が胸を撫で下ろす。国際問題になる事態は避けられたようだ。
「それと、城は自由に使っていいって許可もらったよ」
「それなら、大臣の部屋をサクッと探して、本だけ取り戻しちゃいましょう!」
「そんな簡単なことじゃないでしょ?」
あまりにも簡単そうに言うエレナに、ノアがツッコむ。
「ほら、顔色悪い人は水でも飲んで? ノアでも緊張することあるんだねぇ」
エレナから水を受け取り、ノアは一気に飲み干した。
「そりゃあ、他国の国王に呼び止められたら驚くよ」
「まぁ、それはそうだな」
「何か脅されるのかと思って、城中の探知に、エレナへの防御結界張、それから国全体の結界の位置を急いで調べたから、ちょっと疲れた……」
「……え!?」
エレナは目を丸くした。
そして、改めて自分の身体を見回す。よく見ると、まわりにうっすら靄があることに気が付いた。
「これが防御結界……?」
「うん」
「それは……全部、あの呼び止められた瞬間にやったのか!?」
「なんてかけ離れた魔法使いなんでしょう……」
ルーカスも従者も、ノアをまじまじと見つめた。
「ほんとに、人騒がせな国王……」
ポスッ……
ノアの頭がエレナの肩にのった。
「え?」
静かな寝息を立てている。
「寝ちゃった……」
よほど焦ったのだろう。
「くぅ! なぜエレナ嬢の方に……私の肩も空いていると言うのに!」
ルーカスはなぜか悔しそうである。
「殿下……一旦私たちは下がりましょう。ノア殿を寝かせてあげた方がよろしいかと」
従者がルーカスを促す。
「まぁ……そうだな。私は大臣を探して本の在処を探ってみる。エレナ嬢はノア殿を頼む!」
泣きそうな顔で、ルーカスは部屋を出て行った。
「スー……スー……」
ノアは気持ちよさそうに寝息を立てている。エレナはそっとノアの頭を自分の膝へ移動させた。
「昨日と逆だね……」
エレナは、ノアの寝顔を見つめながら微笑んだ。
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