サリア王国の図書館
王家管理の図書館は、城のすぐそばにあり、連絡通路で城と繋がっていた。城で働く者たちが、多く利用している。サリア王国でも有数の大きな図書館だ。
ノアはそこで、朝からずっと入り浸っている。まるで銅像のように動かない。
昨夜の魔獣退治はすでに城中の噂になっている。他国から来た大魔法使いを一目見ようと、図書館はいつも以上に賑わっていた。しかし、ノアは本に没頭しており、皆の視線に気づかない。
「あの方が、魔獣を倒した大魔法使い様か……」
「思ったより若いな!」
「騎士団でも歯が立たなかったのに、本当にあの少年が倒したのか?」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
もうすぐ昼になるころ、エレナはノアを呼びにきた。しかし、
まるで動物園のような状態に足を止めた。ノアの周囲を、人々が遠巻きに取り囲んでいる。
「これは……」
「なんと。ノア殿は注目されることが苦手だというのに……本に集中しているのか、流石だ!」
一緒に来たルーカスが腕を組みながら、感心している。
「殿下、感心してないで人払いした方がいいのではないでしょうか?」
ルーカスの従者がもっともなことを伝える。エレナも隣で頷いている。
「そうか。……オホン」
「ノア殿!!」
ルーカスの咳払いをかき消す声。振り向くと、ワーナー殿下が図書館へ走ってきた。
「ワーナー殿下!」
「やば、仕事に戻らないと……!」
人混みは、ワーナー王子を見つけて道を開けている。
「ノア殿! 一緒にランチをどうですかな? さぁさぁコチラへ!」
ワーナーはノアに詰め寄り、耳元で話している。流石にノアも気が付いたようで、ワーナーを見ている。
「そういえば……お腹すいたかも」
「そうでしょう! 城の中庭でいかがですか? あ! ルーカス殿とお連れの方! 皆様もぜひご一緒に!」
ルーカスは悔しそうな顔をしている。従者は苦笑して、そんなルーカスを宥めている。
(これはワーナー殿下も、ノアのファンになったということかしら……)
エレナは、やれやれとノアを見つめた。当の本人は、本を持ったままワーナー殿下の後を付いて行っていた。
◇
ランチ終了後、ノアは再び図書館へ行こうとするのを、エレナに止められた。エレナはノアのローブを掴み、引き寄せる。
人に聞かれないように声を落とすエレナ。
「ねぇ、ノア。何しにきたか覚えてる?」
凄むエレナは迫力がある。
「……王家管理の図書館に行くため」
当然のように答えるノア。エレナは頬を膨らます。
「違う! 呪いの本を持ち帰るためでしょ! 金魚の呪いが書かれている禁書、図書館にはないの?」
思い出したノア。そういえばそうだったと、頭を掻く。
「……閲覧制限されてる所にもなかったな。だとしたら、あの刺客が言ってた大臣のところかな?」
「それは、私たちだけじゃ不審に思われるわね。ここは、殿下に一肌脱いでもらいましょう」
「ルーカスに?」
エレナはニコッと人の良い微笑みを浮かべる。
こうして二人はルーカスを巻きん込んで、大臣のもとへ向かうことを決めたのであった。
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