魔獣あらわる
砂漠の魔獣——ノアは読んだことのある本の情報を思い出していた。
(砂漠の魔獣といえば、獅子とかフェリックスとか? ワーナー殿下は、姿は黒いモヤでしっかり見えないって言ってたけど……)
椅子に寄りかかり、ウンウン唸っているノアをじっと見るエレナ。
「ノア、何考えてるの?」
「もし、砂漠の魔獣が白虎みたいな猛獣だったら、家にモフモフが二匹いるのはどうなんだろうって」
「持ち帰る気だったの!?」
「気に入ったらね」
(……山小屋、増築した方がいいのかもしれないわ)
「ノア殿、そろそろ向かうとのことだ」
ルーカスがノアの部屋へ顔を出す。
「じゃ、行ってくるね」
「持ち帰ってこないでね!」
エレナに釘を刺され、ノアはルーカスと共に城壁へと向かう。ワーナーと騎士団も、既に城壁の上から魔獣を探している。ちなみに、今回ルーカスは見学だ。
城壁の上から街を見下ろすと、温かい街明かりが輝いていて、とても綺麗だ。
(図書館はどこだろう……?)
キョロキョロするノアをよそに、下にいる門番が声をあげた。
「で、出ました……! あの黒い靄です!」
門は閉じられ、門番は小窓から覗いている。その表情は、目を見開き、冷や汗が流れている。よっぽど恐ろしいのであろう。
黒い靄が蠢いている。
「あれが……!」
「出たな魔獣め!」
ワーナーと騎士たちは、城壁の階段を颯爽と駆け降りる。一方、ノアは城壁の上から魔獣を見つめていた。
「行くぞ!」「おぉ〜!!」
剣を振り回す騎士たち。しかし、魔獣は実体を掴むことができず、剣は当たらない。
「砂……邪魔だな……」
ノアは呟くと同時に、何の躊躇もなく、数十メートルある城壁から飛び降りた。
「ノア殿!!」
ルーカスが驚愕の表情でノアを凝視する。無事に着地したノアを見て、興奮の表情へと変わる。
「さすがだ……!」
急に上から飛んできたノアに、ワーナーと騎士団は一瞬ひるむ。
「第魔法使い様! あんな所から飛び降りるとは……! お怪我は!?」
「うん。大丈夫。それより魔獣さぁ、本体は砂の下にいるよ」
何ともないノアの様子に、ざわつくワーナーと騎士たち。
ノアは短く呪文を詠唱すると、手を上から下へ振り下ろす。
次の瞬間——
バリバリバリ!
何本もの雷が空から落ち、黒い靄を貫いて砂の中へと突き刺さった。
「ギィヤアァアアァア!!!」
魔獣の叫び声に身を震わせる一同。砂が激しく波打ち、黒い靄が消える。
「深いね……やっぱり砂どけようか」
「砂をどける?」
ワーナーが首を傾げる。
ノアは地面を軽く蹴り、空へと舞い上がった。砂が盛り上がっている真上で止まると、下に向けて掌を開く。
途端に強い風が吹き出す。そして、それは徐々に渦を巻き始め……砂が空へ舞い上がっていく。
「これは……竜巻か!?」
ルーカスは、大興奮で砂を巻き上げる渦を見ている。
「竜巻を魔法で作り出す……そんなことできるのか!?」
「下!! 魔獣だ!!」
ワーナーと騎士たちは騒ぎながらも、剣を構え直す。砂が巻き上がり、隠れていた魔獣の本体が見えてきた。
その色は黒。月明かりに照らされ、黒光りしている。太く、危険な尻尾には毒がある。
それは大きなサソリであった。
ノアは軽くため息をついた。
(サソリかぁ……)
ノアは右手で風を操りつつ、左手は下を向けたまま広げられている。指を向けると、竜巻は遠くまで砂を持っていき霧散した。砂漠の上に砂が落ちる。
その間、魔獣は低い唸り声をあげながら、ピクリとも動かない……
「まさか、ノア殿、魔獣を拘束しているのでは!?」
ルーカスがその事実に気づき、感動のため息を漏らした。
「い、行けええ!」
「おお!」
しかし——
サソリへ剣を突き刺そうとするが、硬いらしくダメージを与えられない。
「くっそぉ……」
「どうして傷一つ追わないのか……」
悔しそうな表情のワーナーたちを見下ろすノア。右手を上げ、振り下ろした。
一瞬の光、遅れて聞こえる大地を震わせる雷鳴の音——
ドカーーン!!!
雷がサソリの頭部を貫く。
巨大が大きく揺れ、そのまま砂の上に倒れ込んだ。
「うわぁ!」
ワーナーと騎士たちは、目の前の光景に呆然としている。
それを見届け、ノアはゆっくりと地上へと降り立った。
「巨大な雷で魔獣を貫くとは……! しかも一撃で……白虎の雷よりも攻撃力が高い。何より抑え付けつつ、攻撃するというあんな強力な魔法を同時に……!」
ルーカスが早口で何やら解説している。
「……終わった……のか?」
「魔獣が倒された!!」
「すごい!」
歓喜に沸く中、ノアはまっすぐにワーナーへと向かった。
「ワーナー殿下」
「ノア殿! さすがです! なんとお礼を申したらいいか……」
「明日から王家管理の図書館に行きたいんだけど……街のどこにあるの?」
「…………」
魔獣を倒したばかりなのに、ノアの頭には本のことしかない。
ワーナーはきょとんと、大魔法使いを見つめるのであった。
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