大魔法使い、サリア王国へ
ノアはサリア王国へ向かう馬車のなかにいた。相変わらず本を読んでるノアの膝の上には、エレナが横になっている。
それもこれも——。
「私も本読んで行く!」
「へぇ。でも、馬車の中で読むのはやめといた方がいいと思うよ?」
ノアはエレナに忠告する。
「大丈夫よ! 移動中って暇だし! ノアもどうせ読むんでしょ?」
そして案の定、エレナは馬車に酔い、ノアに介抱されることになった。
馬車がゆっくりと停まる。
「ノア殿! 休憩だ!」
馬車の中に顔を出したのは、ルーカス王子だった。そして、ルーカスは口を開けたまま固まった。
「ひ、膝枕……!」
エレナの瞼が薄く開く。ルーカスの声で起きたようだ。
「エレナ起きた?」
ノアは本から視線を動かす。
「うん……」
「体調どう?」
「もう大丈夫そう」
ノアはふっと微笑むと、また本へ視線を戻す。
「なんでノアは平気なの?」
「んー……なんでだろうね? 僕、酔ったことないんだよ」
エレナは起き上がり、ルーカスに気がついた。
「あ、殿下……休憩ですか?」
我に返るルーカス。
「あ、ああ。この村でランチがてら休憩だ」
「ほら、ノア行くよ」
「えぇ……うーん」
エレナは本を離そうとしないノアを引っ張って、馬車から降りる。
そこには見たことのない景色が広がっていた。
一面砂漠。
リウム王国とサリア王国は、馬車で一日ほどの距離にある。ただし、その間には広大な砂漠が広がっている。そのため、国同士の距離そのものは近くても、一般の人間が気軽に行き来できる場所ではない。
「この砂漠を越えるとサリア王国だ」
ルーカスが砂漠の向こうを指差す。エレナが遠くを眺めた。
「サリア王国って、どんな国なんですか?」
「そうだな……国王の力が強いな」
ルーカスが考えながら話す。
「リウム王国よりも身分に厳しいって、どこかで読んだよ」
「へぇ……」
ノアが本から顔を上げずに話す。
「サリア王国には、王家が管理している図書館があるらしいですよ」
従者がノアに伝えた。
「図書館! それは楽しみだ!」
ノアは本から顔を上げ、従者を見て瞳を輝かせる。その変わりように、エレナは苦笑を浮かべた。
ルーカスは従者をじとっ……と見る。
「その情報、私が言いたかったのに……」
「うわっ……すみません、殿下! ほら、お昼に行きましょう!」
従者は慌てて、一同を村の食堂へと案内するのであった。
◇
やがて、砂漠の向こうに城壁が見えてきた。
エレナが馬車の窓に顔を近づけて、感心している。
「あれがサリア王国かぁ……!」
馬車は城壁の中へと入って行く。騎士たちが並び、敬礼しながら出迎える様子に、エレナは少し萎縮した。
「すごい歓迎ね……さすが国賓……」
ノアはそんな様子を気にもせず、本を読んでる。
馬車の外では、楽団が音楽を演奏し、街の人々も旗を振っている。王女の婚約発表という一大イベントを、大いに盛り上げているようだ。
「ノアもさすがね……この状況で本を読めるなんて……」
そのとき、ノアがパタンと本を閉じた。
「はぁあ、読み終わった。あれ、着いた?」
「着いてるわよ。窓の外見てみて!」
「すごい人だ……」
ノアは人に注目されるのが苦手である。熱狂する群衆の視線に晒されるのは、馬車の中にいても居心地が悪いらしい。ノアは自分の側のカーテンをさっと閉めた。
「エレナ、そっちのカーテンも閉めて」
「えぇ!? せっかくだから街見ようよ?」
「……はぁ」
「ほら、図書館もあるんでしょ?」
「そうだった!」
ノアは窓の外を眺めた。しかし、人が多すぎて建物がほとんど見えない。
「早く帰りたいなぁ……」
「ノア、早すぎない?」
馬車はパレードの中を走る。サリア城では、国王と大臣がそれを眺めていた。
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