洗濯はありがたい
御者の怪我がだいぶ良くなり、山小屋に慣れた頃——
「ふぁあ……読み終わった……」
ノアが大きく伸びをした。服屋の主人からもらった魔導書を解読しつつ、ようやく最後のページまで読み切ったらしい。
「エレナ?」
ノアが声をかけた瞬間——「ガーウ!」と白虎がノアの服の裾を甘噛みし、ぐいっと引っ張ってきた。
「ん? 白虎どうした?」
白虎の視線を追うと、エレナがリビングでスヤスヤとうたた寝をしていた。白虎は静かにしろとノアに注意を伝えていたようだ。ノアは苦笑しながら、エレナの肩にそっと毛布を掛けた。
ガチャリ。
ドアが開き、空になったカゴを持った御者の男が入ってきた。
「ふぅ。洗濯終わりましたぁ……!」
ノアも御者もお互いに驚いて、相手を凝視する。
どうやら御者の男は、ノアが魔導書に没頭している間、山小屋の家事を自主的に手伝うようになっていたらしい。
「……あの、洗濯してくれたの?」
「はい! 命を助けてくれたお礼を少しでもしたくて……エレナさんに、家事の手伝いをお願いしたんです!」
「あ、ありがとう……」
ノアは自分の洗濯物を干してくれていたことに、感謝もあるが、少し恥ずかしさもあった……。
(あれ、ってことはエレナの洗濯物も……!?)
「御者さん。今日、街に送って行くから!」
「え! いいんですか? 何から何まで……ありがとうございます!」
御者は感激して深々と頭を下げた。しかし、なんだかモヤモヤした気持ちになるノアであった。
◇
ひとっ飛びで街へと向かうノアたち。
ノアは飛行魔法を応用し、馬車と御者。おまけにエレナも空へ浮かせた。
ちなみに、馬車に繋がれていた馬は、熊が来た時に逃げ出してしまい、それっきり戻ってこない。
今日は街へ降りた後、王城へも向かう。なお、白虎はお留守番である。
「お二人には大変お世話になりました! このご恩は生涯決して忘れません……!」
御者は助けられたカメのようなセリフを残して、手を振り別れた。
「御者さん、もう少し療養してもよかったんじゃない?」
空旅の途中、エレナが不思議そうにノアに質問する。
「いや、家事手伝えるくらい動けるんだから、充分でしょ?」
「……そう?」
エレナがノアの顔をじっと見る。ノアはエレナを見ようとしない。
「あの御者さ……洗濯物干してたじゃん? あれ、全部お願いしてたの?」
「え? うん、まぁ……」
「僕のパンツとかも?」
「ノアのは全部お願いしてたよ。私はさすがに自分で干してたけど……」
「……そっか。はぁぁ……良かったぁ」
ノアは安心し、盛大に息をはいた。
「……なんで良かったのよ?」
「……なんでだろ? よく分かんないけど、安心した」
そうこうしている間に、王城に到着した。
ルーカス王子はノアが来たとわかった途端、職務そっちのけで飛んできた。
「ノア殿! そなたが城へ自分から来られるなんて……私は感無量だ!」
「ルーカス、僕のところにサリア王国の刺客が来たんだよ」
「し、刺客!?」
ルーカスと従者、護衛たちは目を丸くする。
「自国に返しといたから、大丈夫だよ」
「それはいつのことですか!?」
「んと……」
「一週間前です」
代わりにエレナが答える。
「その間一体なにを!? もしかして怪我などされたのですか!?」
ルーカスが顔を青くして心配そうに声を上げる。
「……ううん。魔導書読んでたら報告忘れてて。今日になっただけ」
「……ノア殿らしいですが、報告は迅速にお願いします」
従者が頭を下げつつ、しっかり主張する。
「念のため、禁書の管理状況も確認しておきましょう」
「禁書? それ、僕も見れる?」
「いえ、禁書は厳重に管理されておりますので……」
ノアはエレナの腕を掴み連れて行く。
その様子を羨ましそうに見ながら、ちゃっかりついて行くルーカスであった。
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