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魔力無制限の大魔法使いは、静かに読書したいだけ  作者: 紙絵。
第一章 大魔法使いと金魚

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21/33

本>御者>刺客

 翌朝、御者の男も元気になった。起きた時は、多少……いや、かなりパニックになっていたが。

 


「わっ!! な、なんだこのトラ!?」

「ガーウ!」


 御者はベッドの上で飛び起きると、目の前で毛づくろいをしていた白虎を見て必死にあとずさった。今にも泣き出しそうな顔をしている。


「あ! 気がつきました? おはようございます。頭痛くないですか?」

「……あの、ここは?」


 御者はエレナを見て、少し安心したようだ。彼が冷静になったところで、エレナは状況を説明した。

 御者もこの森に来た経緯を話す。


「俺は王都の入り口でお客を乗せて、言われるがままこの森に来たんです——」


 ——「ここで止めてくれるかしら?」

 客の女に声をかけられ、御者の男は馬車を止めた。

(こんな山の中で降りるのか? 何もないじゃないか……)

 女は馬車を降り、俺に向かって魔法を使った。突風に煽られて馬車は横転。俺も投げ出されて、慌てて起きあがろうとしたら、女に大きな石を頭にぶつけられて——


「——助けていただき、本当にありがとうございました。この山小屋はあなたの家ですか?」

「私……というか、向こうで本を読んでる人が、この家の主人です」


 エレナが苦笑いで説明する。

 

「ん……? 子ども?」


 ノアは御者のことなど見向きもせず、服屋でもらった魔導書の続きを、貪るように読んでいた。


「古代の魔導書で、今では使われてない術式が書かれていて面白いんだ。もう我慢できないから、読み終わるまで邪魔しないでね」

 

 と言い捨てて。


 ◇


 一方、サリア王国の王城の大広間では……突如として現れた『金魚』に、大臣たちは大混乱していた。

 見たこともない鮮やかな赤い鱗を持つ魚が、宙に浮かぶ大きな水の球体の中に浮いている。


「ちょっと! 私よ、大臣! あの魔法使い、次会ったら、絶対私が仕留めてやるーー!」

「魚が話している……」


 金魚が話すというあり得ない光景に、皆、動揺を隠しきれない。しかし、必死に叫ぶ刺客の女の声は、魔法を検証する者たちの興奮した議論にかき消されていく。


「この水は……一体どんな原理で浮いているのだ?」

「この水を維持しているのは、極めて強固な多重防御魔法だ……!」

「なぜ話せる? そもそも、なぜ水の中で声が届くのだ!? どういう構造なんだ!?」


 王国のお抱え魔法使いたちが総出で集まり、水の球体を隅々まで検証するが、その術式の高度さには半分も理解が追いつかない。


「……こんな途方もないことができる魔法使いに、我々は刺客など送ってしまったのか……無謀にもほどがあったな」

 

 大臣は青ざめた顔で深々と首を垂れ、国王へ事の顛末を報告した。

 報告を聞いた国王は、お腹を抱えて笑い声を上げた。


「だから今どき、刺客などという陰湿な真似はやめておけと言ったのだ! 凄まじい手練れではないか。会ってみたいものだな。機会があれば、我が国へ国賓として招くとしよう!」


 国王は自慢の髭を撫でながら、楽しそうに笑い声を上げるのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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