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魔力無制限の大魔法使いは、静かに読書したいだけ  作者: 紙絵。
第一章 大魔法使いと金魚

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元金魚は、とりあえず行ってみる

(古代の魔導書、早く読みたいなぁ……)


 ノアはそんなことを考えながら、エレナと共に白虎に乗っていた。


「白虎すごい! 力持ちだったのね!」

「ガウ!」


 エレナが白虎を撫で、白虎も褒められて嬉しそうに鼻を鳴らす。巨体からは想像もつかない素早さで駆け抜けていく白虎。目的地まで後少しである。ノアはエレナが振り落とされないように、後ろから支えている。


 一行は、エレナが持ってきたアクセサリーの販売元とされる場所へと向かっていた。進む場所は王都からは少し離れている。街を行くと目立つので、森を抜けるルートを走る。この辺りは裕福な貴族の別荘も多い場所だ。万が一、エレナの顔を知っている者がいたら厄介である。


「あの家じゃない?」


 エレナが指差す。そこには広い庭と、立派な二階建てのお屋敷が建っていた。


(どう見ても貴族のお屋敷だ。なぜ貴族がアクセサリーの横流しを? ちょっと探索しとこうかな……)

 ノアは目を閉じ全域の探知に集中する。魔法の気配はないようだ。

 白虎は屋敷の手前、木々の影で静かに足を止めた。

 

「正面から訪ねたら不審がられるかしら……?」

「そりゃあ、そうだろうね……」


 ノアは一人で突っ走りそうなエレナを抑えつつ、どうするか考える。と、中から男が二人出てきた。

 身なりから見て、一人は屋敷の住人で、もう一人は取引相手の商人だろう。住人の手には大ぶりな指輪が光っており、商人はロングコートを着て、大きな鞄を抱えている。

 

(もしやあの中にアクセサリーが?)

 ノアがじっと観察の目を向ける。

 

「あの鞄、怪しいわ……」


 エレナも同じく怪しいと感じたらしい。住人は屋敷の中へ戻り、客は庭を通って門から出てきた。


「白虎、行くのよ!」

「ガウッ!!」

「え! ちょっと!?」


 エレナの指示で白虎が客に向かって走り出す。急に目前に現れた大きな虎に驚いた客は、尻餅をつく。そして鞄を落とし、中身が散乱する。

 すかさず、エレナが駆け寄る。


「大丈夫ですか!? 旦那様のペットが突然走り出してしまって、申し訳ございません。お怪我はありませんか?」


 完璧すぎる自然な演技に、ノアは深く感心しながら木陰に身を隠し、エレナを見守ることにした。散らばっているのは、やはりアクセサリーだった。


「ええ。大丈夫です……あーっと、商品が!」


 商人らしき男は散らばった商品を慌ててかき集める。エレナもちゃっかり手伝っている。


「ここにはよく来られるんですか? 私、ここの屋敷の使用人なんです」

 

 エレナはフードを被ったまま、口元だけで可憐に微笑んだ。流れるように出てくる言葉はセリフのようだ。

 

「いいえ、初めてですよ。旦那様にお声がけいただいて……それにしても、すごいコレクションですね! 私のような個人商いにはとても手が出せません」


 男は頭を掻きながら、フードの隙間から覗くエレナの顔を見て、思わず頬を染めている。


「とんでもないです。私なんか、使用人になってもう一年経つのにコレクションを見たこともないんですよ……噂は聞くんですが気になっていて。——もし良かったら、コレクションのこと教えていただけませんか?」

「ええ。まぁ……今買った商品のことならお話ししましょうか?」

「ありがとうございます!」

「向こうに馬車を呼んでいるので、そちらでいいでしょうか?」

「はい!」


 二人は連れ立って歩き出す。ノアは白虎をそっと呼び戻し、気づかれないように後をつける。

 大通りまで出ると、男が言う通り馬車が停まっている。ノアは目を閉じ小声で詠唱する。これは以前にも使った、五分間だけ姿を消せる古代魔法だ。

 エレナが先に乗り込み、続いて男も馬車の中へ入っていく。


「私が買い取ったのはアクセサリーです。コレクションには、アクセサリーの他に幾つか本もありました……」

「本も、ですか?」

「ええ。旦那様は古い物がお好きなようでして。普通の古書もあれば、私には読めないような古い文字が書かれた本もありました」

「……へぇ」


 エレナは何気なく相槌を打つ。


「そういう本も、売り物なんですか?」

「さあ……。あれは別のところへ回す、と言っていました」


 男はそれ以上詳しく話そうとはしなかった。

 エレナは少しだけ眉を寄せる。

 

(アクセサリーだけじゃない……?)


 そのとき、男が話題を変えるように笑った。


「まぁ、私たちのような商人には、貴族の考えていることなんて分かりませんよ」

「そうですね……」


 エレナは笑って返した。だが、その言葉は妙に引っかかった。

 男が鞄をひろげて見せる。

 

「なるほど。綺麗なアクセサリーですね。どこで手に入れたんでしょう?」

「……ここだけの話、貴族の方から『訳ありの品』を引き取ったと言っていました」

「そうなんですか……」

(やはり、没落貴族の私財を横流ししているんだわ。このアクセサリーは知らない物みたい)


 エレナがじっと商品を見ていると、隣に座る男がエレナに手を重ねてきた。ハッと男を見るエレナ。


「あの……?」

「いやぁ、失礼。しかし、あなたのような美人が使用人では勿体無いです。私と一緒に来ませんか?」

 

 男はエレナに迫っていく。壁側に追い詰められ、身動きが取れなくなるエレナ。

(これは誤算だわ! 騒ぎは起こしたくないのに、どうしよう……)


「あの、私、そろそろ戻らないと! 皆が心配しますので……」

「使用人一人いなくなっても気づかれないだろ?」


 男の口調が乱暴になり、顔がエレナに近づいていく。

 その瞬間——男の動きがぴたりと止まった。


「……っ、わたし! 帰ります!」


 エレナは間一髪、馬車から飛び降りた。


「はぁ……危なかった……」


 胸を押さえて息を整えていると、すぐ隣にふっとノアが姿を現した。


「ノア!」


 心底ほっとした表情を浮かべるエレナ。ノアは腰に手を当て、少し呆れたようにエレナを見た。

 

「エレナ、一人で行くのは駄目って言ったでしょ?」

「うぅ……ごめんなさい」

「わかればよろしい」


 二人は白虎に跨り、安堵と共にその場を後にしたのだった。

読んでいただき、ありがとうございます。


★おもしろい!→5

★ふつう→3

★まぁまぁ→1


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