大魔法使い、帰宅する
その頃エレナは——
快適な水槽の中で悠々と泳いでいた。
「ノアまだかな……」
少し心細いエレナは、ノアが置いてくれた大きめの石に寄り添う。
(この陰にいるとなんだか落ち着くのよね)
「ふわぁぁ」
大きなあくびをし、何気なく石を見る。
「ん?」
うっすら文字が見える気がする。
「もしかして、呪いを解く為の呪文だったりして……」
尻尾でツンと触ってみる。しかし、普通の石のように何も起きない。エレナは石の周りをクルクル泳ぎ回る。やはり文字のようだ。声に出して文字を読む。
「——癒しの力を付与する……?」
(もしかしてノア、私の為に、癒しの魔法をこの石に仕込んでくれた……?)
エレナは嬉しくなって、水槽の中をスイスイと楽しげに泳ぎ回る。——その時
「ただいま〜」
ノアが帰ってきた。
「おかえり!」
エレナは大きな声で出迎えたのであった。
◇
南のダンジョンを攻略した一行は、白虎を従えて外に出ようと歩き出す。
「……風の音が聞こえる」
ルーカスが呟く。耳をすませると、確かにどこからかビュウウっと音がする。ダンジョンの途中、分かれ道の一つから聞こえてくるようだ。
「こっちだ!」
ルーカスが先導する。それは外に続く別の道であった。空に月が見える。ずっと閉鎖空間にいた一行は、外の景色を見て安堵した。
「外だ!」
そこは海が望める小高い丘の上だった。空には星がキラキラと瞬いている。
「これ、昼間に来たら絶景だろうな……」
「もしかして、今までダンジョン入ったやつらって、ここから出てたんじゃ?」
このダンジョンに入った者は、誰も出てこない——あの噂は、横道にある絶景の出入り口を見つけたからという意味だったようだ。
「じゃあルーカス、僕もう行くから、後よろしくね!」
感動している一行をよそに、さっさと帰ろうとしているノアである。
「ノア殿、このダンジョンの攻略者として名前を書いてもらわねばならない。それも初めての攻略者だからな……何か褒美を渡さねば……後日、登城してくれるか?」
「ええ、また手続きぃ? もう。わかったよ。そのうち行く」
そう言うとフワリと浮かび上がり、飛び立とうとする——が、ローブの端を引っ張られる。振り向くと、白虎が裾を噛んで、ウルウルした瞳でノアを見つめている。連れて行ってほしいようだ。
「城にいた方がよくない?」
ノアが訊ねるが、白虎は必死に首を振っている。
「家来る?」
「ガオオー!」
嬉しそうに吠える白虎。その姿に諦めたノアは、白虎の背に降り、跨った。
「行こうか」
その声と共に、途轍もない速さで走り出しす。ルーカスと騎士たちは、呆然とノアと白虎を見送っていた。
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