14話 嬉し悲しや
それから数か月……
挽回するためにも今まで以上に頑張った。
『私』には何のおとがめもなく
店長の評価だけが下がってしまったから…
それが歯がゆくも辛かった。
どうやら店長は『私』に期待をしていたらしい。
試したのは理由があったのだと後から聞く。
店長が販売員として駆け出しの頃と
今の『私』が重なってしまったみたいだ。
特別な目で見てくれていたことを知った。
「それなのに『私』は・・・」
結果的に……
認めてもらうこともできず
かといって責められることもなく
店長の期待に応えることができなかった。
「目標を達成したかったのにな…」
……
…………
複雑な気持ちを抱えたまま
気づけば入社して1年が経とうとしていた。
そんな中『私』にとって悲しいことを耳にする。
憧れの店長が店を辞めることになったのだ。
「もしかして『私』のせいで?」
一瞬、戸惑いを隠せない。
引きずっていた思いが顔を覗かせる。
でもそうではなかった。
周りから聞いて安心する。
ビックリしたのは
店長が今妊娠していると聞いたときだった。
「お腹に赤ちゃんが!?」
『私』はまったく気づけなかった。
そう……
店長は結婚というカタチで退職される。
めでたいことだと知りながら
辞めてしまうことが悲しいと思ってしまった。
祝福モードのなか
『私』だけは違う空気を漂わせていた。
「また好きな人がいなくなってしまう…」
昔の記憶が意図なくよみがえる。
そばからいなくなるだけ…
ただそれだけのことだ……
「永遠の別れではないのだから」
そう言い聞かせてみたりした。
店長は好きな人と家族になり
幸せに暮らすという”選択”をしただけ。
『私』も自身で決めて
ここまで生きてきたのだから。
……
「ちゃんと祝福しなきゃ」
切ないこの気持ちを切り替え
『私』は店長におめでとうの言葉を伝えた。
……
憧れだった店長。
春を目前に
大好きな人は
満面な笑顔でこの店を去っていった。
それからの『私』は
寂しい気持ちを忘れるかのように
販売員の仕事に集中し磨きをかけていく。
……
…………
月日は流れ
『私』は成人を迎えることとなった。
やっと、、、大人の仲間入りをする。
後輩もでき、教える立場になっていった。
いつかお店を持つために
その夢を叶えるためにも
一日でも早く現実味を帯びるよう
一人前になるために頑張り続けた。
…
……
………
そして更に5年の月日が経った頃
『私』の環境にも変化が起きようとしていた。
…………
ある日、1本の電話が鳴った。
久しぶりに聞く安心する声。
福井にいるYおばちゃんからだった。
でもなにやら困っている様子で
一旦、福井に戻ってきてくれないか?と…
相談を持ち掛けてきたのだ。
理由は会ってから話すとだけ言われる。
「え?」
突然すぎる言葉だった。
応えるのに少し戸惑ってしまう。
”仕事が恋人”だというくらい
順調な日々を過ごしていたからだ。
頼られる存在にもなり
正直、休みたくない気持ちが強かった。
でも、、
『私』にとってYおばちゃんは恩人。
理由はどうであれ断るわけにはいかない。
そう思い、上司に休みを頂けるか相談する。
今の店長はあの先輩。
憧れの店長のあとを引き継いでいた。
『私』との色々な関係性もあり
相談の結果、快く快諾してくれることに。
…………
後日、福井に行けることを
改めてYおばちゃんに電話で伝える。
そして『私』は
東京のお土産を手にして
寝台列車で向かうことにした。
…………
福井へは何年ぶりか…
東京とは違い、まだ肌寒さを感じる。
春の訪れはすぐそこだった。
学生の頃の、、
あの頃が良くも悪くもよみがえる。
「なんだか懐かしい」
そんな気持ちになれたのも
大人になった証拠なのだろう。
卑屈にもならず穏やかな『私』がいた。
久しぶりに会うYおばちゃん。
親戚のみんなも元気そうで何よりだ。
妹も弟も成長しているのを見て安心する。
『私』は自然と笑顔がでた。
…………
ひとしきり会話したあと皆と食事をする。
あの丸いちゃぶ台は変わらずそこにあった。
「今ではもう見ても大丈夫みたいだ」
『私』もちゃんと成長しているんだと感じる。
…………
そして食事が終わったあと
Yおばちゃんと和室に移動することになった。
福井へ呼ばれた理由…
気になっていたことが明らかになる。
Yおばちゃんはおもむろに
タンスの引き出しに手をのばす。
「ん?これは!?」
見ると、和紙製の包み紙が…
その中から着物を取り出したのだ。
白とゴールドに近いベージュ。
艶やかでゴージャス感もある色合い。
でもどこか品があって綺麗な着物だった。
そして唐突にYおばちゃんは言う。
呉服店で働いてはくれないか?と…
つまりは、、、
「この着物を着て働いてってこと?」
単純にそう思った。
でもそうではなく
東京にいる知り合いが
人手が足りなく困っているとのことだった。
Yおばちゃんは
困っている人を放っておけない人だから…
それをよくわかっているのは『私』だ。
だから東京に住んでる『私』に
Yおばちゃんは相談してきたのだと知る。
でも、、、
それならわざわざ福井まで呼ばなくても
電話で言ってくれたら話せることなのに…
「この着物を見せる意味は何なのか?」
疑問に思ったがそれは後から知ることとなる。
…………
『私』は再びきた”選択”に迷う…
流石にすぐ返答することができない。
今の仕事をどうしたって考えてしまう。
悩んだ挙句……
この件は一旦持ち帰ることに。
Yおばちゃんには
「電話で返事をします」と言い
次の日、『私』は東京へと戻ることにした。
でもその帰りの道中、、、
心が『私』にこう言ってくる。
「恩を忘れてはいけない」と。
ここまで生きてこられたのは誰のおかげ?
「そうだ……」
そんなのわかっている。
……
ならば、、、
その心に従うまでだ。
『私』は思い切って行動にでる。
……
潔さを身にまとい
販売員の仕事を辞めることにした。
上司には、一身上の都合によりと話す。
偶然にも憧れだった店長と同じ時期に…
『私』もこの店から去ることを選んだのだ。
自身の気持ちとは違えど
”選択”したのはYおばちゃんではない。
『私』なのだから。
「少しは恩を返せたかな」
呉服店で働くことを伝えると
Yおばちゃんは電話の向こうで喜んでいた。
もしかしたら『私』が断るかもしれないのに。
販売員の仕事をしてるのを知ってて
辞めてほしいなんて望んではいないはず。
それでも頼ってきてくれたのだから…
『私』は、、、
気持ちで応えることが正義とさえ思っていた。
せっかく慣れたこの場所から
離れることはとても寂しいことだけど…
別に夢をあきらめたわけじゃない。
もしかしたらきっと
「呉服店でも学ぶことはあるかも」
そうプラス思考で考えたりもする。
ただ……
やっぱり人生は
思い通りにはいかないことも知った。
いい意味でも悪い意味でも。
決めた道を進み切ろうとしても
人との絡み合いで選択肢が与えられるのだと…
生かすも殺すも自身であることを。
それがチャンスだと捉えるか否か!?
巡ってきた転機。
今後どう転ぶのかなんて
きっと行った先でしかわからない。
関係ないと思うことでも
いつか結びつくことになるかもしれない。
…
……
約7年間。
大好きな洋服に囲まれて働けたことに
仲間と同じ時間を過ごして働けたことに
『私』は感謝をした。
きっと次の呉服店でも
今までやってきた仕事が役に立つかもと
そんな思いを馳せながら新たな場所へと…
環境が変わることを恐れずに
「今は目の前にできた道を進んでいくだけ」
そう言い聞かす。
……
そして季節は春を迎える。
『私』にとっての”春”も…
まさか恋愛することになろうとは
まだこの時は思ってもいなかった。




