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11話 気持ちの変化

窓から差し込んでくる朝日で目が覚める。


モヤモヤしたまま寝たからなのか

目覚まし時計が鳴る前に起きてしまった。



昨日のことがあったから

まだ気分は晴れやかではない。


あの先輩には誤解が解けたけど

まだ他の先輩は『私』が無実だと知らない。


「変に噂が広まってなければいいが…」


少し職場の空気が気になっていた。

それに、Cさんの行動も気がかりだった。


なんだか休みたい気持ちと

やっぱ行かなきゃという気持ちが交差する。


とりあえず遅刻しないよう

身支度をし、『私』は重い腰をあげた。




…………


「いってきます」


写真立ての中の父と母に

今日も挨拶をし、職場へ向かう。



……

…………


「ふぅ…」


着いた途端、軽く肩で息をする。


『私』は周りの空気に敏感になり

変な目で見られていないかと意識する。


昨日の件……

先輩が報告し終わっていることを願った。




……


そしていつもと同じように朝礼が始まる。


「あれ?」


『私』を貶めた彼女がいない。

周りを見渡してみてもやはり姿はなかった。


そのときCさんと目が合う。


勢いで聞いてみようかと思ったその時

あの先輩がボソッと『私』に耳打ちしてきた。


今、彼女の姿が見えないのは

店長に呼ばれているからだと知る。


昨日の件を店長に報告してくれたみたいだ。


「ちゃんと伝えてくれたんだ…」


『私』はホッとする。




それに更衣室にいた他の先輩にも

ちゃんと真実を伝えてくれたらしい。


「Cさんのおかげだ…」


このことをキッカケに

先輩へ抱いていた不信感がなくなっていく。




……


『私』は気持ちの変化を感じていた。


まだ敵か味方かもわからないCさんが

"確かな存在" に変わっていくのを感じた。




……

…………


朝礼が終わってもまだ彼女の姿はなかった。


盗みを『私』に着せた彼女は今

店長に対してどんな風に認めているのか…


少し気になりながらも仕事に取り掛かる。


…………


とりあえず誤解を解いてくれたCさんに

一言お礼を言おうと話しかけることにした。


少しモジモジしながら


「更衣室の件…ありがとう」


そう伝えるとCさんは歯を見せながら笑った。


意外すぎて思わず驚いてしまう。


「笑うとこんな感じなんだ」


屈託のない笑顔に

一瞬、心を掴まれたような感じになる。



Cさんはあまり笑うほうではなかった。

どちらかと言うとクールなイメージだ。


喜怒哀楽が顔に出ないタイプ。


だから笑顔を向けられたとき

何だかくすぐったいような気持ちになった。


ただ笑っただけで

別に言葉が返ってきたわけでもない。


でもその笑顔は


誤解が解けて良かったね

と、言っているようだった。


不思議と

Cさんとの間に柔らかい空気が流れる。


今まで感じていた距離が近くなった気がした。


……


もしかしたら

『私』は誤解していたのかもしれない。


そもそもCさんをよくわかっていない。

どんな人なのかを知ろうとしていなかった。


ただ1つわかっているのは口数が少ないこと。


『私』はフッと思った。

同期の中で感じたあの疎外感……


「Cさん自身そんなつもりはなかったのかも」


態度がよそよそしく感じたのは

勝手に思い込んでいただけかもしれない。


それにあの時、、、


更衣室をササッと出て行ったのも

先輩に本当のことを伝える為だったのかも…



『私』の存在がどうでもいいなら

わざわざそんなことなどしないはずだ。


……


Cさんは彼女とAさんとは違う。


冷静に思い返せば

直接何かをされたわけじゃなかった。



『私』はCさんの存在が気になりはじめる。

そしてこの日を境に少しずつ歩み寄って行く。





しばし穏やかな空気に包まれる。


気持ちがスッキリしたせいか

久しぶりに居心地の良さを感じていた。


聞きなれたミシンの音が響くなか

いつもより仕事への意欲が増していく。


『らしさ』を取り戻せた感じだった。



…………

………………


「そういえば……」


フッと時間が気になった。


彼女の姿がまだ見えない。

かれこれ朝礼から1時間は経っている。


とりあえず店長には誤解されてはいないはずだ。


もう心配することはなかったが

言葉にできない何かが引っ掛かっていた…



「仕事に集中しよう」


……


そう思っていた矢先

背後に誰かの気配を感じた。


彼女が戻ってきたのかと振り返る。


「あ、ちがった」


そこにいたのは、あの先輩だった。

『私』はミシンをかける手を一旦とめる。


小さく手招きをされたので

その場で立ち上がり先輩のあとについていく。




どうやら『私』も店長に呼ばれているみたいだ。


「え…彼女と話している中に!?」


突然のことに少しどぎまぎする。


とりあえず言われた通り

先輩と一緒に店長のもとへと向かった。



……


「お疲れ様です」


挨拶をしたあと

店長に椅子に座るよう手で促される。


『私』は嫌々ながらも彼女の隣に座った。


その時…


「ごめんなさい!」


突然、彼女が泣きながら謝ってきたのだ。


まさかの出来事に面を食らう。




『私』は言葉を発することができなかった。

あんな仕打ちを受けてすぐに許せるわけがない。


店長を目の前にして

なんて言えばいいのかもわからない。


「泣きたいのはこっちのほうなのに…」


複雑な思いだった。




彼女は『私』に謝るだけ謝って

店長に会釈をし、この場から出ていった。


先輩もそのあとを追う……


流れについていけないまま

この場に店長と2人きりになる。


すると店長の方から話しかけてきた。


更衣室の件はもちろん、ミシンの件も

彼女の口から真実を聞いたとのことだった。


「あぁ…良かった」


ホッとした気持ちからか涙が出そうになる。


店長は、なだめるように


そっと『私』の肩に手をかけると

ここに呼んだ理由を話し始めた……


彼女がいる時に呼んだ理由を。


そして今まで知らなかったことを耳にする。




店長のクチから初めて彼女の気持ちを聞く。


なぜ貶めるようなことをしたのか

理由を聞いて『私』は唖然とする。


……

…………


店長に褒められたあの日…

『私』は嬉しさのあまり有頂天になっていた。


その時の会話を彼女は聞いてしまったらしい。




『私』の評判が周りからいいと知り

悔しさのあまり今回の件に至ったみたいだ。


『私』より仕事ができる彼女にとって

きっとそれが気に食わなかったのだろう。


濡れ衣を着せられたことは許しがたいが

原因がわかったことで妙に納得してしまった。


「だからか……」


思い起こせばそのあたりから

風当たりが強くなった気がする。


彼女は『私』のことを意識していたのだ。


お互いにライバル視していたのだと知る。


……


『私』に直接言えない本心を

彼女は店長に託したのだと理解した。




でも謝罪だけは

謝ることだけは直接『私』にと……


それが店長から呼ばれた理由だった。




…

………


彼女の気持ちを知ってしまった今

店長に何を言っていいのかわからずにいた。


言葉がまったく出てこない……




『私』は少しうつむき加減になる。


そんな姿を見かねてか

店長から明るく話しかけてきた。


……


「え!?」


……

…………


『私』を耳を疑った。


今回の件で聞いてくるのだと思っていたが

店長はそれとは全く違う話をしてきたのだ。


突然、接客の仕事はどうかと勧めてきた。


思いもよらない言葉に驚きを隠せない。


でも内心思ってしまった。

「これは願ってもないチャンスかも」と…


本当は販売員のような表舞台で働きたかった。

心の中でその思いがずっとあったのは確かだ。


まさかこんなカタチで

店長に声をかけてもらえるなんて……


まるで夢のようだった。


彼女からされた嫌な仕打ちが

一瞬で吹っ飛んだような気持ちになる。


今回の一件がなければ

きっとこんなことはありえないだろう…


そして何より

店長が配慮してくれたことが嬉しかった。


目の前がパッと明るくなる。




「ぜひお願いします」


『私』は迷うことなく店長に返事をした。


人生って何が起きるかわからないものだ。

生きていると良くも悪くも何かが変わっていく。


そしてこれから

販売員としての仕事が始まろうとしていた…



『私』は店長に試されることになる。


この時はまだ、そうとも知らずに…

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