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10話 負けてたまるか

納得いかない気持ちを抱えながら

その後も『私』は仕事をこなしていく。


「とにかく今日を乗り切ろう」


挽回するような気持ちでいた。


でも……


彼女のせいで『私』の視界からは

職場の雰囲気に責められてる感じに映る。


朝の空気とはまるで違う。


ピーンと張りつめたような

どんよりと重い空気を感じていた。


雑な仕事をする人間だと

周りに判断されたのだろう……


そう思うと悔しくて仕方なかった。

違うのに事実だと受け止められてしまう。



こういう状況が本当に嫌なのだと

『私』は『私』の気持ちを知った。


今まで雑に縫ったことなど

1度たりともなかったのに……


大好きな洋服を

丁寧に心がけて縫っていたのに……


当たり前の仕事をしていただけなのに。


1つ1つ積み上げてきたものが

彼女の意地悪で簡単に信頼を崩された。


……


今日は店長がいない。


でもきっと、、


憧れの店長の耳に入るのも

時間の問題なんだろうなと思っていた。


想像したら気持ちが沈む……


せっかく褒められたのに

今回のことでガッカリさせてしまう。


店長には本当のことを伝えようか悩む。



……

でもやっぱり伝えはしなかった。




「『私』は悪くない……」

「『私』は悪くない……」


そう、、悪いのは彼女だ。

呪文のように心の中で何度も呟く。



…………

……………



この瞬間から

彼女に対して静かな「怒り」を覚えていった。


ライバルという存在が『私』を変えていく。



一昔前なら


ただ泣いてるだけで

心も弱くダメージを食らっていたはずだ。




……


「負けてたまるか」


1人小さく頷きながら口を一文字に結ぶ。


悔しさをバネに……


更なる闘争心に火がつくのを感じながら

また仕事で信頼を取り戻していこうと思った。




そんな矢先、また事が起きる。



……

……………

…………………………


「そろそろ退勤する時間だ」


やっと、、、


『私』にとって

長い1日が終わろうとしていた。


あの嫌な空気を…


なんとか今日を乗り切る。



緊張が途切れたせいもあり

色々あったことで精神が疲れ切っていた。


「早く帰りたい……」



そんな気持ちが強かったからか

『私』は足早に更衣室へと向かう。


まだ誰もいない。

思わず「はぁ」と、ため息がでる。


1人の空間はリラックスできて楽でいい。




……

でもそれも束の間だった。

同期の彼女たちもすぐ来てしまった。


『私』はそそくさと帰り支度をしようとする。




「ん!?これは?」


ロッカーを開けると

『私』のものではないものが入っている。



手に取ってみると

それは見覚えのあるものだった。


在庫整理などするときに見た洋服だ。




「え?」


『私』は動揺を隠せないでいた。


「なんでこんなものが!?」


お昼休憩の時には

洋服なんて入っていなかったのになぜ…






……

…………


「もしや!?」


『私』はハッとし、彼女を見た。


まただ…


またさっきと同じ顔をしている。

鼻であざ笑うかのようなあの顔。



またハメられたと気づく。



彼女は洋服を隠し持ち


帰るタイミングを見計らって

『私』のロッカーに入れたのだと知った。



「きっとミシンに集中していたときだ」



あの時……


彼女の姿が見えなかったことに

『私』は何の疑いも持たなかった。


「こんな企みがあっただなんて」




まさか彼女から

2度目の仕打ちを受けるとは……


怒りの感情が湧いてくる。



「ただ黙ってるだけじゃダメだ」


『私』は強気で彼女に一言発しようとした。



……


その時だった。

数人の先輩が更衣室に入ってきた。


その中には

さっき『私』を叱った先輩もいる。


一旦、彼女に言いかけていた言葉を飲みこむ。



お疲れ様ですと、挨拶が交わされたあと


彼女は突然

ここぞとばかりに大声で言いだした。



先輩たちに向かって

『私』が店の洋服を盗んでいたと……


ロッカーに入っているのを見たと言った。




一瞬、空気がシーンとなり

先輩たちは『私』を見つめる。



すぐに誤解を解こうとした。

でもこの状況ではきっと信じてもらえない。


そう……

『私』はまだ店の洋服を手に持っていたのだ。


……

…………


「完全に誤解されてしまった」




先輩たちの目線は『私』の手に集まる。

彼女はそれをいいことにまた声をあげた。


動かぬ証拠と言わんばかりに……


在庫整理を理由に

上手くやれば盗んでもバレないとでも!?


そんなニュアンスで更に煽る。


意地悪な言葉が胸の奥にズシンと響く。


「悔しい……」


「悔しい……」

「悔しい……」

「悔しい……」



またみんなの前で貶められ

盗んでもいないのに濡れ衣を着せられる。


先輩たちの顔色が曇るのを感じた。


誤解されたままではマズい……


このままだと同期だけでなく

職場のみんなが冷たい態度になってしまう。


そんな恐怖感も感じていた。




……


もう我慢の限界だ。


「彼女の仕業です!」


本当のことを叫びたくなる。


言ってしまえば

『私』じゃないとわかってくれるかも。


もう泣き寝入りは嫌だ。


『私』は真実を言おうとした。


……


でも言えない……


彼女の仕業だという確かな証拠がない。

本当に彼女だと言い切れる証拠がない。


他に同期は2人……


彼女とグルなAさんと、そうでないCさん。

もしかしたらどちらかという可能性もある。


でもやっぱり彼女の仕業だ。


そんな思いがグルグルと渦を巻く。

『私』は段々と疑心暗鬼になっていた。




……


気持ちが重くなる。


「違うのに……」

「『私』じゃないのに!」


心の中でそう叫ぶしかなかった。




でもやっぱり、、、


この状況じゃどうすることもできない。

現に、店の洋服は『私』の手元にある。




……

…………


案の定、盗んだと疑われたまま

また先輩に叱られてしまうことになった。


その時『私』は先輩に対して不信感を抱く。


「何で…どうして確認してくれないの?」

「何で…『私』だと決めつけてしまうの?」



悔しさや悲しい気持ちを隠し

『私』は歯を食いしばって我慢した。


……


そして

この件も店長へ報告されることになった。


『私』の存続は店長の判断に委ねられる。


「明日…仕事に行くのが怖い」


店長にまで疑われたらもう終わりだ…




…………


バタン!


そのときロッカーを閉じる音がした。


同期のCさんが着替え終わる。


皆にお疲れさまでしたと挨拶をし

何事もなかったように帰宅しようとしていた。


『私』はなんとも言えない気持ちになる…


Cさんのその姿が


自分には関係ないわと

言っているようで悲しかった。


確かに関係はない。

関係はないけれど……


なんだか四面楚歌状態に陥る。


……


気づけば着替えていないのは『私』だけ。


1番最初に更衣室に来たはずなのに

出るときは1番最後になっていた……




……

『私』が盗んだと思われる店の洋服は

あの厳しめな先輩が預かることになった。


やるせない思いのまま

『私』もやっとのことで帰り支度をする。




精神的にやっぱり1人は辛い。

誰にも理解されないのは悲しい。


人間関係で悩むのはもう嫌だ……

誰もいない空間のなか思いが駆け巡った。


気力を失い、しばらく放心状態になる。


…………


そして『私』は

肩を落としながら更衣室をあとにした。


「あぁ…やっと帰れる」


そう思って店を出ようとしたとき

まだCさんとあの先輩が残っていた。


もう帰ったとばかり思っていたのに

なにやら2人で話していたようだった。


『私』は

少し気まずそうに会釈をし去ろうとする。




でも先輩の態度がさっきとは違う。

少し目をウルウルさせているように見えた。


なにがどうなってこうなっているのか

心に壁ができた『私』にはわからない。




ただ……


そのとき感じたのは

怒りではなく優しさのようなものだった。




そして先輩はこう言った。

さっきはごめんなさい、と…………




「なぜ急に!?」


突然の変わりように驚きを隠せない。


先輩はまだ何か言おうとしている。


そのとき


Cさんは意味深な笑顔で

『私』を横目に去っていった。


また何事もなかったように……



とりあえず

先輩の話を聞く為その場に立ち止まる。


申し訳なさそうに小さな声で


更衣室の盗みの件……

事実をCさんから聞いたと言ってきた。


「え?」


……


平然と出ていったCさんが

なぜ『私』をかばうのか理解できない。


敵だとばかり思っていたのに…


少し頭が混乱する。

なんだか心がかき乱された感じだった。


でも、おかげで誤解は解けた。

この件は店長に報告されることになった。


ホッと胸を撫で下ろす。


……

…………


Cさんは一体……


敵か味方か

『私』の中で謎めいていた。

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