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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: Terra
第四話 だから 必要だった
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(9)




 馬車の残骸とともに呑まれていく。

骨まで沁みる流水が気泡と共に全身を這っていく。

これまでに負ってきた傷がビリビリと疼き、痛くて堪らず口が開いてしまう。

次第に塩辛くなっていく水が、容赦なく喉に流れ込んだ。




 この苦しみが、封じられていた記憶を更に呼び覚ました。

押し寄せるそれらに涙しながら、内側のシェナは藻掻き続ける。

身体は酷く重かった。




“近隣住民が武装連中にどんな聞き込みを受けているか、もう少し気にかけてもらわないと。その子のことを知られちゃ困るってことくらい、家の動きを見てりゃこっちも分かる。その子が“何”か、少しくらい周りにも言っておいてもらわないと。協力しようにもできないでしょ”



“さぁ、髪を隠して! それから風のことは言わないでおくの!”



 風のことは言わないこと。

 頭に布を巻くこと。

 大きな声を出さないこと。




 家族や村の人々に遠ざけられていたのは、呼び寄せてしまう風が原因だった。

だから外を出歩いてもいい時は限られ、それ以外のほとんどは家の隅で声を殺して過ごした。

異国の血を引いていないにも関わらず、そう思わせる肌の色をし、金髪であることと不可解な声質が、余計に武装団の目を惹いた。

彼らや、彼らが率いる仲間達は、風を起こす声で陣地の取り合いを始めようとした。

この力を我先に手に入れようと、金銭をもチラつかせて。




 この力を求め、武装団が馬車で家にやって来ると、母が一時的に捕えられた。

その際に反射的に浮かんだのは、母の解放と引き換えに自分が故郷を離れることだった。

そうする方が、家族や周囲を楽にできるような気がした。自分がもし“使い魔”であるならば――




 大好きな丘があった。

 家を出てすぐのところに広がる草原が、真っ赤な朝陽に照らされ、温かい風に揺れる開放的な世界だ。

蝶や蟲が金色の光と共に舞うのを楽しめる、ほんの少しの許された時間。

清々しく喜びの声を上げ、足を躍らせたその時は、心からの救いだった。




 そんな幸せに背を向けた夜、母の元から去るその足で、襲撃が自分に向き続けた。

大声を上げて馬車と兵を翻し、その反動で近くの川に転げ落ちた。

そうして流れ着いた先が、帰らぬ父がいるはずの地――先ゆく世界。

スラムであった故郷よりも栄えていたその地には、その呼び名に反して富や幸を感じられるものは無かった。

岸辺を歩いている最中、麻袋のようなものに頭から入れ込まれ、攫われた。

兵の話し声がし、ようやっと視界が開けたそこに広がるのは、崩落した元刑務所。

そこから、人生が激しく歪んでしまった。




“俺は病気だ。身体がこのままクサってく。すぐ死んじまうぜ”


“指の数が多いの。だからいらないって。でも、ここでは仕事をくれた”


“ぶえっ!きみ、しゃべるとすなぼこりが……だからうられたのかい?”




 周りには、様々な事情を抱えた子どももいた。

そして小さいながらに悟った。

一刻も早く、この状況をどうにかせねばならないと。

しかし小さすぎる自分には、そんな大きすぎる目標に手をかけるのも難しく、手足と首に枷を付けられる生活が始まってしまった。






 瓦礫に掴まっていた腕が力尽きると、海の中へ呆気なく沈んでいった。

記憶の数々が、虚ろな目が捉える気泡に映し出されては弾けていく。

助けるためにこの声を使う。

そう決めていたはずなのに下手ばかりを繰り返し、何も出来なかった。

出会った友達や、守ってくれた大人もいたのに、何の恩も返せないまま彼らを途中で投げ出した。

自分にできる事が何かを、また見失ってしまった。









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月上旬 完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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