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*完結* 大海の冒険者~不死の伝説~  作者: terra.
第四話 だから 必要だった
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(9)




 荷車の残骸に呑まれながら沈んでいく。

泳いだ事などなかった。

碌に息も吸えないまま、冷たい海水が、気泡と共に全身の傷を舐める様に這う。

痛くて堪らず、海水を飲み続けた。




 この苦しみが、封じられていた記憶を更に呼び覚ました。

押し寄せるそれらに涙しながら、自身の中のシェナは藻掻き続ける。

身体は酷く重かった。




“まぁ……本当に、すっかり風が止んでしまったねぇ……”



“仕方がなかった……私達も暮らしていかなくちゃいけない……”




 家族に遠ざけられたのは、呼び寄せてしまう風が原因だった。

また、金髪である事が買い手の目を引き、額が良かった。

舐め回される様に見られ、不可解な声質に毒々しい笑みを浮かべられた。

外を出歩いた際に限らず、家の中でも風が吹き続ける現象を、家族や周囲も厄介に思っていた。

だから、家の隅に寄せられ、声を殺して過ごすようにする事が当たり前だった。

そこにいれば興味をそそるものも無く、声を上げる機会もないからだ。




 それがたまらなく嫌で、木材とトタンを集めて出来た、地域の中でも比較的立派に立てられた家から飛び出した。

売られた先で何が待ち構えているのかを、近くの友達を見て知っていた。

そんな目に遭うくらいなら、どこか遠くへ逃げてしまいたかった。




 大きな震災があったとは聞いていたが、家を出て間も無く、草原が広がる開放的な世界に辿り着いた。

嘘の様に清々しいそこで、喜びの声を上げ、まるで自分を迎え入れようと吹きつける緑の風と香りに、足を躍らせた。




 そんな幸せを打ち砕く様に、草原の坂を転げ落ちた途端、一変した街の風景が飛び込んだ。

鉄柵の先に広がる、怪し気で砂煙が酷く立つ薄汚れた街。

自分が暮らしていた所とはまるで違い、鉄柵の根元で竦んでいると、面白がる声と共に大きな影が覆い被さった。

そこから、人生が歪んでしまった。




“俺はビョーキ(病気)だ。身体がこのまま腐ってく。

すぐ死んじまうぜ”



“指の数が多いの。だからいらないって。

でも、ここの仕事はやれる”



“ぶえっ!君、しゃべると砂埃が……

だから売られたのかい?”




周りには、耳を疑う様な事情を抱えた子どもや大人がいた。

そして小さいながらに悟った。

一刻も早く、この状況をどうにかせねばならないと。

そう思った頃には遅く、手足と首に枷を付けられる生活が始まった。






 暗い海の底に、瓦礫と共に沈められていく。

記憶の数々が、虚ろな目が捉える気泡に映し出されては、弾けていく。

声の一件以外には、誰よりも身軽で、身体も強かった。

なのに何も出来なかった。

出会った友達や、守ってくれた大人もいたのに、何の恩も返せなかった。

小さくて、厄介な声を持つ自分にできる事が何かを、見つけられなかった。

そして両親は結局、自分を探しに来る事もなかった。









代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~

シリーズ最終作


2025年 2月上旬 完結予定


Instagram・本サイト活動報告にて

投稿通知・作品画像宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています


その他作品も含め

気が向きましたら是非




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