(8)
何もかもを思い出した今、これから向かう先で何が起こるのかも分かっていた。
それに恐怖と悲しみに溺れながら、見えない壁を殴り続け、奴隷の姿をした外側の自分に逃げろと訴える。
地盤が悪い道を進むせいで、立位を上手く保てない。
このままでは大事故が起きてしまうと、焦りに涙が溢れ出す。
それを分かっていない外側のシェナは、どこか外が見える隙間がないかを探している。
この落ち着きのなさに、誰かが舌打ちした。
それに振り向いた時、慣れた視界に広がったのは大勢の人だった。
蹲る者もいれば、横たわって寝息を立てる者もいる。
その隣で寝そべっている者は、果たして息をしているのだろうか。
どれも大人だと思っていた矢先、押し込まれた隙間から小さな2つの光が見えた。
見ると、目を涙で濡らした幼い子どもだ。
怯え、激しく咳き込むと嗚咽まで漏らす。
それを煩わしく思う者が、その子を床に押さえつけて黙らせた。
その時、姿勢を前に崩した大人の背後から光が漏れた。
シェナは、微かに見える外の景色に吸い寄せられると、傍の大人を押しやり、隙間を覗いた。
そこからは、この中よりも遥かにマシな空気が薄っすらと入り込んできた。
嘔気を催すこの場は、既に誰かの吐瀉物があるからだろう。
ここから出ようと、必死に情報を集めようとした。
その途端、鞭の音が響くと馬が速度を上げる。
それに姿勢が崩れた時、新たな音が加わった。
板を打ちつけるこれは、雨だ。
嵐がそこまで迫っており、馬は山の側道を駆ける。
内側のシェナは目を見張る。
目的地に辿り着いてしまえば、死ぬのを待つだけの場所だ。
嘗て自分がそう聞かされた時を思い出すと、とんでもないと激しく頭を振って立ち上がる。
何が何でも御者を止めるよう、外側の自分に叫んだ。
だがその声も、力強い雷鳴に掻き消されてしまう。
雷に驚いた馬が暴れ、荷車は激しく揺さぶられると大きく傾いた。
その方向に何十人もの奴隷が傾れ込むと、その重みは、荷車を押し倒しにかかる。
これに御者が騒いでいると、再び雷が轟いた。
皆の悲鳴が掻き消されると共に、荷車は側道の崖に落ちた。
荷車の中で掻き回される人々は声を上げ、互いの身体が縺れ、押し潰し合う。
それに巻き込まれながら、シェナは宙に跳ね上げられていた。
転がる荷車は山肌に叩きつけられ、いよいよ砕けると、外の景色が広がる。
人々がそこから瞬く間に飛び出すのを見たシェナは、その流れに巻き込まれる恐怖に息が止まった矢先、海に投げ込まれた。
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
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その他作品も含め
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