(7)
空間にこもるシェナは、その音の正体を目にした途端、悲鳴を上げた。
鎖がぶつかり合う音に、全身が鞭打たれる様に激しく振動する。
再び自由が利かなくなる恐怖が、そこまできている。
まるで実際にそれらに繋がれている様な生々しい感覚を振り解こうと、そこら中を掻きむしった。
剥ぎ取ろうと引っ切りなしに暴れても、外側の自分はぴくりとも動かない。
どんなに止めろと叫んでも、それは叶わなかった。
終いには寝そべり、重過ぎる枷を外せと嗄れた声を絞り出す。
そうしている内に視界がぼやけ、辺りが見えなくなった。
どんなに泣き喚いても一切の風が吹かない閉鎖的なここから、抜け出す手段を見出せない。
そこへ、再び身体が揺れた。
その拍子に砂っぽい景色が浮かび上がると、遠くから話し声や激しい物音が聞こえてきた。
中でも、こちらに向けて短く何かを叫んでくる声は、何度も振り向かせようとしてくるようだった。
だが、外側の自分はそれらに応じる力はなく、そのまま聞き流しては背後へ遠ざけてしまう。
そしてこの時、自分が先ほどよりも暗い道を歩いているのが分かった。
足取りの悪さを視界の揺れから感じる。
強く頭をぶつけたせいで意識がぼうっとしていた。
その影響か、閉ざされていたありとあらゆる記憶が溢れ出た。
自分の首の鎖を引いて前を歩いている男と、その名前が何だったのか。
そこから、互いが持つ名前に随分と重みがあると感じたこと。
“使えない使い魔”であるから、その男の手でこれから、自分は“神に返されようとしている”こと。
他にもまだ、この世界で共に呼吸をしてきた友達の顔が浮かんだ。
どんなに清々しい朝が来ようとも、この街だけは薄汚れた暗い世界のままであると知っている。
大陸が沈み、分断されてしまうほどの大惨事――“大地の号哭”と呼ばれていたそれが起きても尚、闇で犇めき続けるここは、皮肉にも残ってしまったのだ。
「おい、忘れモンだア! とっとと持ってけエ!」
怒号が聞こえたのも束の間、胴体が抱えあげられると、馬車の荷台のそばにいた別の男が見えた。
その次の瞬間、ゴミを投げ捨てるように放り投げられると、荷台の中へ転がり込んだ。
身体の中のシェナは、その間も声を絞り出し続けた。
しかし喉に力が入らず、これでは外に声が届くはずもないと、首を落とす。
声が籠る孤独の間では、衝撃や痛みは受けるものの、こちらからの合図に誰も振り向く事はなかった。
荷車の中は悪臭に満ちている。
シェナは生温かい何かに触れ、掠れた悲鳴を上げた。
一体何だと口を開いても、声は言葉を成そうとしない。
何も見えない荷車の中は広く、辺りを見回しながら慎重に歩いた。
だが、1歩踏み出すなり何かに躓くと、それに痛みを上げる誰かの声がした。
誰かはそのまま、鬱陶しそうに腹から蹴り上げてくる。
この小さな身体はボールの様に軽々飛ぶと、違う誰かの上を転がった。
汗か水か、何かは分からないもので滑りを帯びたそこは不快でならず、逃げるようにそこから這い進んだ。
そして漸く落ち着いたのは、木造の床だった。
シェナはそれを匂いで判断しては身体を起こすのだが、外からの太い掛け声がするや否や、荷車が激しく揺れた。
その拍子に顔から転ぶと、全身に凹凸を感じる強い振動を感じた。
体内のシェナは、何かが物を打ち叩く音の正体を確かに知っていた。
数頭の馬が鞭で打たれ、鼻息を立てている。
足音から察するに、今は一定の速度を保って荷車を引いているが――
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~
シリーズ最終作
2025年 2月上旬 完結予定
Instagram・本サイト活動報告にて
投稿通知・作品画像宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
その他作品も含め
気が向きましたら是非




