第七十四話 思い
「――――――ユルサナイ」
気付けば俺は何かを全力で殴り飛ばしていた。
吐き気を催すほど激しく、体の内から黒いものが飛び出てくる。それには何かに対する憎悪しか詰まっていない。
「……っ! 予想以上に強いな」
何かが逃げる。それを追いかけようとしたが、
「お前の相手はあれだ」
何かが何かで指した方へ振り返ると、カナンが狂ったようにこっちへ走ってきていた。
「殺すっ」
顔を酷く歪ませ、殺気を帯びた目が俺へ向いている。
「カナン……」
どうすればいいのか。カナンを守らなくてはならないのに、俺のことを敵か何かだと思っている。
異常な速さへこちらへ迫り、頭に触れようと手を近付けてきた。俺はその手首を掴んで引き寄せた。
「……ぐっ。何をする、離せ」
カナンを腕ごと抱き締めていた。こうしていれば攻撃出来ないだろうと思った。傷付けるような方法はとりたくない。
「さすがは守護神、選択を間違わない。カナンを傷付けることは許されない、か。今まで一緒にいたのもそういうことだったんだな。私達の行動は全部あいつの思い通りだったわけだ」
守護神だろうが何だろうがそんなことはどうでもいい。
確かに俺は唯果を守るために生まれてきたのかもしれない。
……だからどうした? 俺は操り人形ではない。俺は今自分の意志で唯果を抱き締めている。動けないようにするためだと言い訳をしているが、本当はただ抱き締めたかっただけだ。
抱き締めたくなるに決まってるだろ。……だって泣いてるじゃないか。
「……唯果が好きだ。この思いが作られたものだなんてことは絶対にない」
唯果はボロボロと涙を流していた。憎悪の塊のような顔をして俺を全力で睨んでいるのに。
「はは……、そんなに怒るなよ。いつまででも待ってやる。だからお前も頑張れ。偽りの感情なんかに負けるな!!」
「うああああああぁぁぁぁああああああっっっ!!!!!!」
唯果は首を横に振りながら手のひらで氷柱を生成し、手首だけを動かして俺の左足に突き刺した。体験したことのない激痛が走り、顔を歪ませずにはいられなかった。
「ぐっ…………。大丈夫だ、この程度じゃ俺の気持ちは揺るがな…………ぐあああぁぁぁぁ痛い痛い痛い捻らないでくれるか? かなり痛い……」
突き刺さった氷柱は消え、さっきまで暴れていた唯果が大人しくなった。
「グルルルル…………」
犬みたいに唸る唯果の頭を優しく撫でる。すると落ち着いたのか、静かになり、なぜか体重を預けてきた。
……いい匂いと暖かい感触のせいで今の状況を忘れかけた。
「……どうなっている?」
神が舌打ちする。
「あいつ、そこまで計算していたのか。……もういい、私が直接殺してやろう」
攻撃を仕掛けてくると判断した俺は唯果から離れ、神が消えると同時に両手を顔の前でクロスさせた。
鈍い音とともに俺の体が吹っ飛んだ。




