第七十三話 発狂
ネックレス……が千切られた……? 確かそのネックレスって……。
思い出せない。カナンが何か言っていたような。体の内から出続けている何か黒いものが俺を包んでいるせいか、何も分からなくなっている。
「王女から話は聞いているか? ネックレスがこの王女から一定距離離れると頭痛がするという話を」
「返してよ!!」
俺は何かに飛びかかろうと思ったが、それはダメだとも思った。それがカナンの安全に繋がると考えたからだ。
「それは私のセリフだよ。これは元々私が作った物だからね」
「嘘を吐くな! それはお母さんから貰った物だよ!!」
「ああ、まあ確かにその通りだな。私が女王にこのネックレスをつけさせたのだから」
「……何を言ってるの……?」
何かがニタリと笑った。
「別におかしくはないだろう。では仮に女王がこのネックレスを作り、お前につけさせたとしよう。変ではないか? 愛する娘を痛めつけようとしているのだぞ」
「じゃあ何であんたは私にそんなネックレスをつけたの?」
「神の能力を封じるためだ」
俺はいつの間にか元に戻っていて、黒い何かは引っ込んでいた。
「神ってあんたでしょ。それとも別の王国の神のこと?」
目の前の神はネックレスを握りしめて首を横に振る。
「言っただろう、私は途中から火星の神になったのだ。つまり私が来る前の神だよ」
一体何体神がいるんだよと思ったが、よく考えたら地球だって神は多い。
唯果はネックレスを取り返そうと神に向かって何度も手を伸ばすが、軽く避けられてしまう。
「カナンという女だ。第四王国王女、お前はそいつの分身みたいなものだ」
俺と唯果は固まった。どうせ嘘だと笑い飛ばしたくても、神の鋭く真剣な眼差しの前では無理だった。
「私はカナンを拘束し、監禁している。私の邪魔される前か、自らの能力のほとんどを使って第四王国の女王にもう一人のカナンを宿したのは」
唯果は膝を折って座り込んだ。目は見開き、どこを見ているのか分からない。自分は自分ではなくただの分身だと言われたのだ、誰だってそうなるだろう。
神は構わず続ける。
「産まれてきた赤ん坊の計り知れない能力を感じた私は、神の能力を封じるネックレスを作り、女王にそれをかけさせたのだ。外して捨てれば頭痛がし、最終的には怪物になる」
そのネックレスは今、神が握っている。何をしようとしているのかは容易に想像できた。唯果は壊れたロボットのように動かない。
こいつはネックレスを壊そうとしている。それを阻止するために俺は走り出した。すぐ近くにいるのだが、一刻も早く取り返したかった。
「怪物というのは比喩だよ、安心したまえ。まあ、怪物のように暴れまわることには変わりないが」
俺の手が届くよりも早く、神がネックレスを握り潰した。
ギャインッと耳に響く音が広がる。
「火星の破壊の手伝いはもう結構だ、良くやった。……死んでくれ」
「ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああっっっ!!!!」
唯果の頭痛が始まり、今までにないくらいのその絶叫に胸をひどく痛めた。




