第七十五話 勝利
「まずは役立たずからか」
「……私のこと?」
自我を取り戻した唯果が落ち着いた様子で神を見据えていた。
俺はすぐに起き上がって唯果のところへ走ろうとしたが、間に合わなかった。
手加減するつもりがないのか、神は右手に氷柱、左手に炎を生成させて唯果に叩き込もうとしていた。
俺は目を瞑る。
絶叫して苦しんでいる姿が目に浮かぶ。
……いや、それはダメだ。最後までしっかり見届けよう。
「…………………………な……っ!?」
目を開けると、まったく予想していなかった事が起きていた。
神の足が片方無くなっていた。バランスを崩したのか、神はうつ伏せに倒れた。
「役立たずに負けちゃったねー」
唯果の手には氷柱が握られていた。
ヒュン、と風を切る音がしたと同時に神のもう片方の足が消えた。
「グゥッ……、な……なぜ、なぜ能力が使える? ネックレスが壊されれば確かに規制はなくなり、自我を捨てた化け物状態なら能力の使用は簡単だ」
「しかし仮に、自我を取り戻せたときは今まで使ったことのない能力を簡単に使うことはほぼ不可能?」
「あの守護神でもそうだっただろう。弓を引いたことのない人間がいきなり射って的に当てるようなものだ」
神は苦痛に顔を歪めている。
唯果は無表情で神を見下しながら右手に持っている氷柱をペンのようにくるくると回していた。
俺はとりあえず唯果のところまで歩く。
「そうなんだけどねー、違ったんだよー。氷柱を生成したとき、たいちょーの能力で半分だけ意識回復してたー」
「だが……!」
「半分意識を取り戻したとき、自分の体が勝手に動いてたからびっくりしたよ。たいちょ―に抱き締められてたし」
きゃーっと唯果はジャンプした。
「まさか……、勝手に動く自分が氷柱を生成したときの感覚やコツがたったの一回で分かったとでもいうのか……?」
「神の分身に不可能はないよん」
起き上がろうとする神の両手を、唯果は二本の氷柱で突き刺して地面に固定させる。
気付かない間に残酷な女の子になっていた……。
神は空に向かって呻き声を上げた。
「……私は…………諦めない」
腕を必死に動かそうとしているが、氷柱を抜かない限り動かない。
何が神をそうまでさせるのか。俺と唯果はただ見ていることできない。
「私の世界を作るのだ……。誰も苛められることのない、素晴らしい…………世界を。……人間が嫌いだ。すぐに私を苛める」
神でも死ぬのだろうかとか一瞬考えたが、そんな場合ではなかった。
靴が血溜まりに浸っても唯果はその場から一歩も動かず、今にも泣き出しそうな神を見下ろしていた。




