第七十六話 人間
なんだかんだ次で最終話です。
「私は醜い。だが、たったそれだけの理由でなぜ両親を殺し、私を自殺まで追い込む必要がある?」
火星では自分の子供を愛さない親などいないというのも、この神が作ったものだろう。
「確かに大変だったと思う。でも、家族にだけはどんな自分でも愛して欲しいんだよな?」
「……そうだ」
神は頷いた。
「だったらどうして殺した!!」
「……え?」
「邪魔されたから新しい世界を作るだって? たったそれだけのために大勢の命を奪ったのか!? お前は火星人の親じゃないのかよ!!」
「あ……」
「生まれたばかりの俺をわざわざ捨てさせたのはどうしてだ? こんな広い平原なのに、捨てさせた場所を正確に覚えているのはどうしてだ!?」
口が止まらなかった。バカな神に対して言ってやりたいことが山ほどあった。
「いつか邪魔をすると分かっていたなら、捨てた場所なんてすぐに忘れる」
神の表情が変わっていく。何かに怯えるような顔だ。
「やめてくれ……」
「殺したくなかったんだ。心のどこかでは誰かに拾ってもらえるように強く願って、分かりやすいように広い平原に捨てさせた。……自分で捨てる勇気もなかったんだろ。どうしてそんな奴があんなに大勢の火星人を殺してんだよ!」
「……」
神は何も言わなかった。ただ仰向けで空を見つめている。
「何でそこまで人間を嫌おうとするんだ? 本当は好きになりたいんじゃないのか」
「……訳の分からないことを言うな。好きなはずがないだろう」
「だってお前、日本語使ってるし。おまえだけじゃない、火星人みんなだ」
あ、確かに、と唯果が呟く声が聞こえた。
神は眉間に皺を寄せていた。
「何を言ってる。新しい語でも作れというのか? なぜそんな面倒なことをしなくてはならないのだ」
「本当に地球人が嫌いで、人の設定も変えてるんなら言葉も変えると思ったんだが。楽しそうだし、神なんだから時間も腐るほどあるだろ」
新しい文字とかをゆっくり考えたりするのも楽しいだろう。
唯果はさっきから隣で、確かにしか言ってない。
「それだけじゃない、光翼が言っていた。刀を使っている兵もいたってな。両親が人間だったんだから信じたくなる気持ちも分かるけど」
「コウスケ……?」
「ああ、俺の友達だ。お前と同じ神田家の」
言った瞬間、神の表情が変わる。動かない体を無理やり動かそうとして少しでも俺に顔を向けようとしていた。
「まだ神田家は続いているのか!?」
「ああ、続いてる。言ってたよ、まるで呪われてるかのように反抗期もなく家族が大好きだって」
神の目から一筋の涙が流れ、頬をつたう。
「確かに人間は悪い奴が山ほどいるかもしれない。でもみんながみんな悪い奴じゃないってことも知ってるはずだ。だからお前は少しでも人間を信じたくて、好きになりたかったから、人間の言葉で話したり、人間が使っているものを火星に取り入れた」
そうだ。良い人間だっているということくらい私も知っている。
『……大丈夫? またやられたの? みんないつまで苛めるつもりなんだろうね。あ、そうだ! 一緒に帰ろうよ。私といれば大丈夫だと思うから!』
こんな私でも話しかけてくれる優しい人間。
『おっす! この前エリカと一緒に帰ってただろ。俺とも一緒に帰って仲良くしてくれ! アイス奢るからさ!!』
強く肩を叩いて笑いかけてくれた人間。
『男なの? 女なの? 色んな意味で大変そうな気がするけど……』
『……男でもあるし、女でもある』
『じゃあこうしよう。明日はお前を男と思って接して、明後日は女と思って接する。それをこれから毎日繰り返す。どうだ? なんか面白そうじゃね? ははは』
………………知っていたのだ。もしかしたら他の人もそうなのではないかと思ってしまうこともあったのだ。
「く……うぅぅっ…………」
涙が止まらなかった。
腕や足の痛みなど忘れていた。
私はなんということをしてしまったのだろう。人間の悪いところばかり見てしまう。それは人間ではないか? そう、人間を憎んでいた私も人間だったのだ。
次は自分を憎む番だ。
目の前の少年や少女に申し訳なく思った。この子たちだけではない。まだ生きている火星人や私のせいで死んでいった者達、すべてに対して。
「……謝って済むことではないが、悪かった。カナンを監禁している場所を教えよう」
それが私にできる精一杯だった。




