第七十一話 神とヴォルグ
「昔、日本で前代未聞の奇形児が生まれた。その子は常に周りから冷たい目で見られ、同年代からは苛められ、とても辛い人生を送っていた」
急に何の話をしているんだと思ったが、どこかで聞いたことのある話だった。
神は続ける。
「しかし、両親だけはその子を愛していた。……本当に……本当に愛してくれていた。お父さんとお母さんだけはあなたを愛していると、何度も言ってくれた」
光翼から聞いた神田家の話だ。その話をどうしてこいつがまるで自分のことのように話しているんだ?
「人間はクズばかりだ。良い人間など、私の両親くらいだ」
神の声と表情が、徐々に明らかな怒りへと変わっていく。
「父は良く分からない病気で突然死に、母は過労死。私も早く死んで地球から離れたいと強く思った。もちろん自殺した。人間に対して永遠に消えることのない憎悪を抱えてな」
神は袖を捲り、腕が露わになる。
半身男で半身女。神だからあり得るのかもしれないと思っていたその体には、痛めつけた人間達への怒りを忘れないためか、痣や切り傷、タバコを押しつけたような痕まであり、腕だけでも数えきれないほどの傷が残っていた。
「気付いたときには火星の神になっていた。こんなチャンスはないだろう? 自分が求める世界に作り替えることができるのだ」
神は、ハエを手で軽く払うような動作をした。直後、シャッッという音とともに鋭く尖った氷柱が俺に向かって飛んできた。体を捻ることでそれを躱す。
お返しに火を放ち、避けられる。挨拶のようなものだった。
「しかしそれをお前達……いや、あいつが壊したのだ」
稲妻が走った。それを俺と唯果が避けた直後に、テニスボールほどの大きさの丸い炎が真っ直ぐに飛んでくる。避けられないと判断した俺は、手のひらから炎を生成して飛ばした。炎と炎がぶつかり、弾ける。
どうやら神は使える能力の数に限界がないらしい。
「なぜ私がこのような何もない平原にいたのか知りたいか? ここはお前が捨てられた場所だよ、ヴォルグ」
「俺が捨てられた場所……」
「そうだ。ちょうど私の足元辺りだよ。地面に置いて背を向けても泣かなかったから不気味だった。それが今ではただの害虫だ」
第一王国王子と戦ったときのように、神と俺の距離が一瞬で数センチになった…………そう認識したときには俺の体が宙に浮いていた。
「ぐっ……!」
続けて攻撃してくると思った俺は、手のひらから炎を生成しようとして失敗した。
「何っ!?」
神は驚きながらも俺の攻撃を避けた。
炎を生成する際、手のひらで何かを収集するような意識をするのだが、焦っていたためかいつも通りに意識することが出来なかった。しかし、何も生成されないはずの手のひらから出てきた…………氷柱が。
三つ目の能力だった。




