第四十八話 決勝
遅くなりました。
今更ですが、一話一話の文字数が少ないんじゃないかということに気付き、文字数を増やそうとしてみた結果、投稿が遅くなりました。すみませんでした。
身動きがとれない。
顔を上げる。ファンは腕を伸ばしていて、手のひらを俺に向けていた。
……なんだよこれ。
意味が分からない。俺は何もされていない。ただ……手をこっちに向けているだけ。
これが超能力ってやつか……? どんな超能力? この状況はどう考えても念力な気がするが。
まあ何でもいいが負けるわけにはいかない。
俺は起き上がろうとする……が、ほとんど動かない。それを見たファンは笑う。
「おいどうした、そんなものか? きみはあれだ、今までの人生の中でいろんな人と戦って、どうせ一度も敗北を味わったことがないんだろ? もしそうなら僕に感謝しろ。主人公が苦戦せず進んでいく物語なんて誰も見ないからな。ふふふ……」
「ふ……ざけやがって」
考えろ。どうすれば勝てる?
「きみはおそらく僕と同じかそれより少し下かな。王子と隊長の間の位なんて聞いたことないけど……ふはは」
ファンが硬大の側頭部を蹴り飛ばす。抵抗できず飛んでいく硬大。手加減はしていないようだ。そして面倒臭そうに、飛んで行った硬大に近付く。
「ごめん、全力でやるように言われているんだ。でも王子ならそれくらいじゃ死なないし、……まあ、王子じゃないのなら死ぬけど……っと」
ファンはうつ伏せで倒れたまま動かない硬大を足でつついて仰向けにさせた。硬大は頭から血を流していたが、それだけだった。
「……痛えよ」
俺は目を開けて、呟くように言った。怒りが湧いてくるが、どうすることもできない。
「きみはどうして隊長になったんだ? そもそも王族がそれを許すはずがないんだけど。親は生きているはずだしね。……可能性としては…………え、嘘だろ。もしかしてきみって幼い頃に拾われてたりする?」
「……知るか」
ファンが何を言っているのか分からないし、聞く必要はない。
くそ、動けない。どうすれば……。ファンは腕を伸ばしていて、手のひらを俺に向けている。……なるほど、そういうことか。まだ希望は残っている。
俺は顔を上げてファンを見る。そして笑いながら挑発してみた。
「そのわけの分からない能力がないと俺が怖いのか? ははは、本当は弱かったりしてな」
「挑発か。さっきも言った通り、全力でやるように言われているんだ。別に能力がなくてもきみを殺すことくらい造作もないことだ」
「嘘だな」
「なに?」
ファンの顔が歪む。かなり不愉快らしい。
「漫画やアニメのキャラもそうだ。大体みんな超能力みたいなものを使っている。ではなぜいつも戦うときにはみんな能力を使っているのか? 強いから? 確かにそうだ。でも俺、いつも思うんだよ。もしその能力が無かったら勝てるのか? って。大体はNOだろ。変な能力に頼りきりなせいでひょろひょろだよ。素手で殴り合わせてみろ、子供の喧嘩みたいに滑稽な戦いが見れるぞ」
……超能力があった方が迫力があって売れるとかそういう話は今はいらないからな、うん。
「この僕がそんな奴らと同じだと言いたいのか……」
ファンは静かに、落ち着いた様子で言う。そこから計り知れない怒りが伝わってくる。それでも俺は平然とした口調で言った。
「そうだ」
刹那、俺は弾丸の如く吹っ飛んだ。壁に激突して止まったが、離れていたはずのファンが目の前で立っていた。頭を掴まれて体中を殴られる。顔、腹、腕、凄まじい速さでひたすら殴られる。
「僕を愚弄したことを死んで後悔しろ」
最後に蹴りを食らって倒れる。どっちが強いかなんて言うまでもない、それくらい圧倒的な実力差があった。
「……く……そお」
それでも俺は生きていた。さすがにダメージは大きいが。
「まだ生きているのか。褒めてやりたいが、見て分かる通りそんな気分ではない」
終わった。やはり王子に勝つことはできないらしい。
ファンは目の前で俺を見下ろしている。今までにないくらいの殺気を感じる。俺はこんなところで死ぬらしい。梓を助けなければならないことは分かっているが、体がなかなか言うことを聞いてくれない。能力は使われてない。
少しずつだが立ち上がることができた。ファンは何もせずその場で突っ立ったままだ。
「立ち上がったか……ありがたい。立っている方が殺しやすいからな」
ファンはそう言って手を振り上げる。俺の頭を割るつもりなのだろうか。力はもう出ない。避けることすらできないだろう。
しかしそのとき、ファンと俺の間に何者かが入ってきた。俺に背を向けて両手を広げている。…………唯果だった。
「……え?」
なぜここに唯果が? 観客席からこっちには入れないようになっている。受付横の扉から入ってきたのだろうか。無茶苦茶だ。
「たいちょーは殺させない」
そうは言っているが、唯果ではファンに勝つことは不可能だ。能力を使おうにも頭に触れることができなければ意味がない。
ファンは唯果に、ゴミでも見るかのような目をして言った。
「邪魔だ」
唯果の姿が一瞬で消える。殴り飛ばされたのだ。
「お、おい。今何をした……?」
ファンは黙殺して再度腕を振り上げる。そしてまたファンと俺の間に唯果が立つ。もう耐えられなかった。
「……唯果、もうやめろ。……それにここは入っちゃいけないんだ、分かるよな?」
返事が返ってくることはなく、唯果の体がくの字に曲がる。ファンのひざ蹴りをうけたのか。
そしてまた視界から唯果が消えた。
――――――俺の中で何かが爆発した。




